第9話 部長の話①

 これから話す内容はあまりにも非現実的で突拍子もない。だから子供が見た夢の話、ぐらいに思って聞いてくれればいい。


 ボクの家にはサンタクロースが来たことがなかった。

 もちろん知ってるさ。一般的にサンタというのは両親のことだ。

 しかしボクの両親は仕事の都合で一年のほとんどを海外で過ごしている。日本に帰国している時とクリスマスが奇跡的に重なることはこれまで一度もなかったわけだ。


 そうするとうちにいる大人は家政婦の金木さんぐらいだった。

 彼女はとても良い人で、毎年クリスマスになるとささやかなパーティーを開いてくれたりプレゼントを渡してくれたりもした。

 でも、夜になると帰ってしまう。そりゃそうだ、彼女にも家族がいる。自分の子供たちのサンタにならなきゃいけないからね。

 気を使ってボクのうちに残ろうかと聞かれたこともあったけど、子供ながらに遠慮したよ。うちのマンションは警備の人が常駐していたし、セキュリティ的な心配はなかったしね。


 そうしてボクは一人で眠りにつく。

 次の日になると宅配で両親からたくさんのプレゼントが届いた。

 海外のお菓子とか高そうな人形とか、あとは最新のゲーム機なんかもね。

 けれども虚しいものさ。なにせ喜ぶ姿を見せる人が誰もいないんだから。


 これがボクにとってのクリスマスだ。



 ……でも、あの年は違った。

 忘れもしない小学4年生、ボクが10歳の時のクリスマスだ。


 例年の通り金木さんとの小さなパーティーが終わった後、ボクはさっさと寝る支度を済ませてベットに潜り込んだ。


 深夜。それからどれくらい眠っていたのかはよく覚えてないけど、息苦しさを感じて目を覚ました。


 するとどうだろう。胸のあたりに何かが乗っかっているような妙な圧迫感があった。

 はじめは気のせいかと思っていたけど、違う。明らかに何かが布団の上を小さく移動していた。


 ボクは恐る恐る視線を重みの方に向ける。


 そして、そこに鎮座していたのは……、



 一匹の真っ白なだった。

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