第2話 帰路

 イセハゲの最新刊を買いに書店に立ち寄った後、再び帰路についた。

 部長は歩きながら買ったばかりの本を開き、イラストが描かれている部分だけをつまみ食いしている。


「あはは、見なよライト。とうとう髪が一本生えたぞ」


「ネタバレしないでくださいよ。というか歩きながら本読むのやめてください」


 部長は「はいはい」と鬱陶しそうに答えると本を自分の通学バッグにしまった。

 俺の金で買ったのにあんたが持って帰るのか、と言いたくなったがどうせ無駄に終わるだけなので心の奥底にしまっておくことにした。

 少し沈黙が続いた後、部長は何かを思いついたように「あっ」と呟いた。


「なあライト、この前エレベーターを使って異世界に行こうとしただろ?」


「え?あ、はい」


 半月ほど前に部長の住む10階建てマンションのエレベーターを使って異世界に行けるという儀式を行ったのを思い出した。儀式と言っても指定された手順に従ってエレベーターを移動させるだけなのだがそれなりに時間がかかったのを覚えている。確かネットに載っていた3パターンを試したのだ。もちろん全て失敗に終わったが。

 こんなくだらないことでエレベーターを占拠するなどとんでもない迷惑行為だということは重々承知しているが、一応深夜に決行したのでそこは大目に見てほしい。


「あの時は3通りの方法を試して、結局全部失敗しただろ?だから今度は3つ全部繋げてやってみるのはどうだろうか」


「はあ?なんですかそれ」


 この人はまたずいぶんと面倒くさそうなことをおっしゃっている。3つ繋げるということはそれだけで所要時間が倍増するし、繋げる順序を考慮すると合計6パターンも試す必要があるのだ。そもそも全く関連のない3つのパターンを繋げれば異世界に行けるのではないかという発想自体が理解不能なのだが、まあそんなことを言っても部長が考えを改めることはないだろう。ならば、奇行に走る部長が人様に迷惑をかけないよう見守るのが俺の役目というものだ。


「というわけで今夜また同じようにやってみるから、深夜一時にボクのマンションに集合。寝坊しないように気を付けるんだぞ」


「普通は寝てる方が正解だと思いますけど……。はあ……、分かりましたよ。行けばいいんでしょ。どうせ何も起こらないと思いますがね」


「お、いいフラグの立て方だね。今晩は期待が持てそうだ」



 俺たちは以降もくだらない軽口を叩きあいながら家路を辿った。

 そして途中で部長と別れ、自宅に到着した俺は先の助言通り深夜のエレベーターツアーに向けて仮眠を取るのであった。


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