第3話 初めての覚悟と一歩

 彼女が来てから一時間くらいの時間が過ぎただろうか、彼女は俺の寝室を完全制圧している。残りの一部屋であるキッチン付きのリビングで課題をしていたため、彼女を一時間くらい見ていなかった。課題を邪魔してこなかったのはうれしい誤算ではあった。しかし、彼女はなんで俺の所に邪魔をしに来なかったのだろうか、彼女のことだからてっきり宿題をしているのですか?それならご主人様の隣でゲームをさせていただきますね。とか言って爆音でゲームをして俺に精神的苦痛を与えてくるのかと思っていた。彼女は目を離すと、物理法則の壁すらも飛び越える勢いで何をするかわからない。そんな彼女から目を離すのは少し危険かと思ったが、いつも習慣を大切にしたいという気持ちが勝ってしまった。まあいいや、いつもあのテンションだと、流石の彼女でも疲れるのだろう。だから、今回は何も起こらないだろう、そう思うしか俺の心を穏やかにする方法はなかった。そんな思考をしつつ寝室の扉を開ける。


 玄関のドアをリビングがあり、その延長線上に俺の寝室へと繋がる扉がある。一人暮らしをする奴の家の構造は大体こんな感じで、基本玄関とリビングが密接している。だから、家の外にはリビングを通らないと出られないようになっている。仮に別の方法があるとすれば、寝室の窓から外に出ることだが、これをすることは命を投げ出すことに等しい。なぜなら、ここは地面にコンクリートがバチバチに敷かれている建物の三階である。飛び降りたら最後、命の保証はできない。そうだ、命の保証はないはずなのに、彼女はそこから出入りしたとしか考えられない現象を起こしている。


「ここ、本当に俺の部屋?」


 引っ越しの業者を呼んだとしか考えられない程にまで部屋の模様替えが進んでいた。先ほどまでと変わらないのは、テレビとベットの位置で、それ以外はももはや彼女の部屋になっていた。ベットの上に動物園かのような数のぬいぐるみ、女の子が好んでつけそうなハート模様の入ったピンクを中心としたカーテンと壁紙、そして極めつけは俺の服が置いてあったクローゼットの中身がまるまる彼女の服へと変わっていたことだ。大勢でやっても一時間では終わらないであろう模様替え、というよりは部屋そのものが別のものになっているかのようだ。


「何を言っているのですか?もとはご主人様の所有物かもしれませんが、先ほども伝えた通り、ここはもう私の部屋であり家となっているのです」


「うん、伝えられてないし、許可した覚えもないのだけど?あと、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてね…………」


 彼女はベットの寝ころんだままゲームをしていたが、その手を止めて俺の目の前に立ち、服のどこかに入っていたのだろうか、どうやって作ったかわからない契約書を俺に見せつけてくる。


「この契約書を閲覧しやがってください」


「命令系の敬語は存在しないんだわ。あと、俺の質問に答えて欲しいんだけど?」


 そういっても彼女は紙を俺の前に提示したまま、石造と言っても差し支えないくらいピクリとも動かない。こいつ、日本の憲法知っているのか?もしかして俺の人権は今日をもって捨てられたのだろうか。まいいや、とりあえず読んでみるか。


 1つ、私のご主人様として私に対して寛大な処置を施すこと。


 1つ、私のご主人様なら自分よりもメイドを優先すること。


 1つ、私に対する絶対の忠誠を誓うこと。


 うん、途中の内容もひどかったけど、最後のに関しては完全に立場が逆転してるんだわ。完全に便宜上のご主人様で、彼女にメイドをする意なんてないのだろうな。じゃなぜ、俺のメイドを指定と言い出したしたのだろうか…………。聞いてもどうせ答えてくれないし、平行線だろう。そして、これを俺に読ませた彼女はご機嫌そうに俺に言ってくる。


「ね?書いてありましたよね、ご下僕様」


「語呂が悪いし、言いづらい。あと、完全に下僕と認めてんじゃねぇか!」


 初めは一人暮らしが寂しいものでなくなると少しばかり期待していたのだが、早くこいつをどうにかしなければ、俺の私生活をめちゃくちゃにされる気がしてならない。なんなら、いずれ俺がこの家から出て拾ってくださいの段ボールを使わされる羽目になるかもしれない。このままでは不味いが、彼女を追い出したところで家の中に平然といるような気がしてならない。だから、俺のするべきことは1つ、この契約書を破り捨てる。でも、いきなり襲い掛かっても彼女の懐から何が飛んでくるかもわからないし、チャカを持っている可能性も否定しきれない。彼女という存在が謎すぎて下手に挑むのも躊躇われる。そんな思考をしていると彼女が契約書を裏返す。文字が書いてあるが、分かるんは日本語ではないということだけだ。


「この契約書にはいくつかの欠点があります。1つ目は、契約書は基本的に平等性を重視しているためバランスが取れていない内容はただの文字になること。だから、私はご主人様を奴隷にするにはそれ相応の対価を払う必要があるということ。2つ目は………………」


 俺は彼女の言っていることを途中で遮り、自分の意見を主張する。


「契約書にはお互いの意思が乗っているだけで、所詮は紙切れだからそんな効力あるわけないじゃん」


 確かに彼女は常識を外れているが、契約書にそんな効果があるわかない。もしかして、彼女は魔法が使えるというのか?それはおそらく滑稽な妄想なのだろう。なぜなら、もし仮に魔法が存在するならもうすでに世界のニュースになっているか、そうでなくても魔法の力で世界征服しているものが出てくるものだろう。俺の思考のよそで彼女は誰にも聞こえない声で呟く。


「そっか、こっちの世界はまだ………………」


 それと契約書には必ず書かれていることで、もう1つ気になっていることがある。それは読みたいけど読めなかった彼女の名前だ。彼女の情報は少しでも知っておかないと後々、不利になると考えた。正攻法で勝てないなら、相手の想像を超えていけばいい………………。


「そろそろお互いに自己紹介しないか、俺に関してはお前の名前すら知らないだが?」


「女の子に名前を聞いくなんて、口説いてるつもりですか?そのレベルでノコノコついていくのは赤甲羅だけですよ」


「確かに自動追尾だけど、そうじゃなくて純粋に、お前呼びはお互いに快いものではないだろ」


「そういうことなら分かりました、仕方ありませんね。身長174センチ、体重63キロ、好きなお菓子はポテトチップス、彼女は出来た経験のない寂しい人生を送ってきた我がご主人様。いいえ、毎朝のルーティンはストレッチすることであるライ様」


「ストーカーレベル999の返答なんだけど?」


 体の肌すべてに鳥肌が立つほどの恐怖。俺が彼女に一矢報いるのは当分先になりそうだ。マジで、こいつ犯罪者としてのスキルが無期懲役並みに高い。でも、いつか…………この理不尽な契約を解いてやる。


「そうですね、私の名前を呼んでいいのは大統領か天皇陛下だけなので、ハイビスそう呼んでください。あと私のことをハイビスと呼ぶたびにお金を徴収します」


「それだと名前を教えてもらった意味がなくなるだろ。あと、比較対象が一国を持っているぞ。」


 これで呼び名には困らなくなったが、俺の情報をどこまで抜き取られているのか、想像の125倍上をいかれすぎて分からない。まいいや、何もしないよりはやって失敗して方がかっこいいな。だから、俺は彼女という包囲網から抜け出すことを諦めない。まず、大きな踏み出せたそう俺は感じていた。気分が少しハイになった俺は彼女に優しく告げる。


「これからよろしくな、


 そういうと彼女は笑顔で俺の目の前にパアーの状態の左手を出して、右手の親指と人差し指で丸を書いている。えっ、あれって冗談じゃないの?


 その日、俺の野口がハイビスに誘拐された。


 


 

















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拾われメイドのハイビス @sunaokyo

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