第14話 「扱いずらい分」
「そう、狐の面よ」
『その狐の面がどうしたというのだ』
「ふふっ、こうするのよ。これであなたは終わり、残念だったわね。私が結界を解くのに手間取っている時に倒さなかったことを、後悔しなさい」
涼香は言うと同時にその場にしゃがみ、狐面を倒れている司の目元に付けた。
「さぁ、起きる時間よ。目を覚ましなさい、司」
涼香の言葉に答えるように、司が体を起こし始める。ゆっくりとその場に立ち上がり、狐の面を付けた顔をカラス天狗に向けた。
瞬間、カラス天狗の体が震えた。
戦ってはまずい。そう体で感じ取ってしまい、カラス天狗は近くにいる詩織に手を伸ばし連れて行こうとした。
『っ、なに!?』
だが、カラス天狗の手はなにも掴めなかった。奥を見ると、詩織を横に抱いている司の姿。
詩織自身も何が起きたのかわからず、目をぱちぱちとさせ司を見上げていた。
「せ、先輩?」
「さすがにぎりぎりだったね。怪我はない?」
「だ、いじょうぶですが。あの、その狐面って…………」
「あぁ、これは僕の宝物」
「宝物?」
(この狐面、もしかして……。いや、やっぱり。今までの違和感や、頭を過っていた記憶。そこにいつもいる狐面の少年の正体は―――)
「今はそんなことより―――」
早々に話を切り上げた司、詩織が前を向くとカラス天狗が動き出していた。
しゃくじょうを片手で振りかぶり、司の頭を狙う。だが、彼はそれを簡単に後ろに跳び回避。下ろされたしゃくじょうは地面をバコンと潰してしまった。
「地面が、えぐれた?」
「今までは力を抑えていたのかな。僕が本気を出したから、あっちも本気を出してきたんだろうね」
詩織を地面に下ろし、守るように前に立つ。彼女を助ける時に、ちゃっかり刀も一緒に拾っており、今はしっかりと右手に握られていた。
『その力、その面には何が込められているのだ』
「それくらいなら説明してあげる。この狐面には、僕の力が宿っているの」
『力、だと? 前もって溜めていたという事か?』
「”溜めていた”は、適切ではない。どちらかというと、”逃がしていた”が、正しいかな」
地面をザッザッと足でこすりながら、司は説明を続けた。
「小さい頃は、僕も自分の力に耐えられなくてね。自分の中にある力に負けてしまって、何回か死ぬような思いをしたの。熱とか、力の暴走とか。僕が力のコントロールをする以前の段階で苦しんでいたのに気づき、母親が父親にお願いして、僕のために狐面を作ってくれたんだよ。まぁ、作ってすぐ他界してしまったんだけどね」
自身の目元に付けている狐面を優しくなぞり、微かに笑みを浮かべながら司は言った。
「それで、父親が作ってくれたこの狐面は、僕の溢れる力を吸い取ってくれていたんだよね。それで、今。その力を僕の体内に戻している状態」
『戻している? どういうことだ』
「今はもう力のコントロールは出来るから、普段は付けなくても問題はないんだけど。この狐面に送った僕の力を、僕に戻さないと、狐面が力に耐えきれなくなって壊れてしまうみたいなんだ。でも、一気に戻すと、さすがに僕も体に負担があってね。だから、決めた事があるんだ」
『それは、なんだ』
「力を温存しなくてもいい相手が現れた時に使用するってね」
――――――――シュッ
『…………な……』
司は刀をカラス天狗めがけて投げた。それにより、カラス天狗の目元を隠していた黒い布がはらりと落ちた。
顔に掠っており血が流れ出る。
自分の右手で血が流れ出ているところを撫で、露わとなった赤い瞳で血がついている手を見た。
『き、貴様……、貴様!! まさか、我にここまでするなど。許さぬ、たかが人間の分際で!!!』
――――――――ダンッ!!
しゃくじょうで地面を強く突き、大きな音を鳴らした。
カラス天狗が叫ぶと地面が揺れ、詩織は恐怖で顔をあちらこちらへと向ける。涼香と司は辺りを見た後、お互い目を合わせ頷き合った。
「詩織、大丈夫だとは思うけど、念のため。涼香の近くから離れないで」
「え、なんで、いきなり…………」
「これから出す式神は、ちょっと厄介なものでね。僕以外の男はすべて標的と認識してしまうんだ。でも、扱いずらい分、強い。強い分、力を沢山吸い取られるから普段は使えない」
司はポケットか一枚のお札を取り出し、右の人差し指と中指で挟みカラス天狗を見た。
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