第2話 「準備が出来たら渡すよ」

 学校に向かった二人は、無事に授業を受ける事が出来た。


 午前の授業が終わると、詩織は屋上に向かった。そこには、朝、あやかしから守ってくれた司の姿があり、心臓が飛び跳ねる。


 詩織が屋上の出入り口で固まっていると、司が小さな声で「来たか」と詩織を出迎えた。


 二人は隣同士に座り、お弁当を広げ食べ始める。

 詩織はお母さんが作ってくれた色鮮やかなお弁当、司はコンビニで買った焼きそばパン。

 二人はおいしそうにそれぞれの持ってきたご飯を食べ始める。その時、司が焼きそばパンを飲みこんだタイミングで詩織に質問した。


「そういえば。君は今まで、どうやってあやかしから逃げていたの?」

「走れば十分くらいにある紅井神社あかいじんじゃに行ったら、お姉ちゃんが居るので、いつも助けていただいてました」

「お姉ちゃん?」

「はい、巫女さんなんです、お姉ちゃん」

「あぁ、あの人か」

「え、あの人かって……。紅井神社を知っているんですか?」

「まーね。お世話になっているから」

「え、そうなんですか? 付き合い長いんですか?」

「長いなぁ。小さい頃からだから」


(小さい頃から? 私も小さい頃からお世話になっていたけど、氷鬼先輩みたいな人いなかったと思うんだけど。上手くすれ違ってしまっていたのかな)


 疑問を感じ、詩織は横にいる司を横目で見ると、彼も詩織を見ておりお互いの目が合った。咄嗟にそらしたのは詩織で、微かに顔が赤い。


(なんか、氷鬼先輩って、他人にすごく冷たいって聞いていたのに、全然そんなことないじゃん。普通にかっこいいし、綺麗な顔立ちをしている。氷鬼先輩の水色の目で見られると、なんか、いたたまれないというか。緊張しちゃう)


 赤い顔を何とか冷やし、再度司の方に向くと、彼はぼぉっと青空を見上げていた。それがまたしても聞いていた話とは違い、詩織は困惑。思わずジィーと見てしまった。


「…………なに?」

「いえ。聞いていた話とだいぶ違うなと」

「聞いていた話? 何を聞いてたの」

「えぇぇぇぇえっと、ですね」


 聞いていた話というのは、司がクールでイケメン、だが他人にものすごく冷たく、近寄りがたい存在という事。

 それをそのまま言ってもいいのか悩み、詩織は言葉を詰まらせた。


「…………怒らないですか?」

「聞かないとわからないでしょ」

「ですよね」


 大きく項垂れ、諦めたように詩織は聞いた話をそのまま伝えた。


「クールでイケメンだけど、他人には冷たくて近寄りがたい存在。通称、氷の王子様。と、私は聞いておりました」

「へぇ、周りはそんなこと言ってたんだ。興味ないから別にいいけど」


 おそるおそる詩織は司を見るが、言葉の通り気にしていない様子。まだ空を眺め、ぼぉっとし始めた。


(こういう所は冷めてるな。本当に私と一つしか違わないの?)


 司は中学三年、詩織は二年。一つしか違わないのに、司がいつでも冷静なため、本当に一つしか違わないのか詩織は疑ってしまった。


「僕への周りからの印象は、正直どうでもいいけど、君の体質については気になるんだよね」

「あやかしを引き寄せる体質のことでしょうか?」

「そう。治してあげたいけど、今の僕には無理だし。今回みたいに、物理的に守る事しか出来ない」

「え、氷鬼先輩、これからも私を守ってくださるのですか?」

「ん? 朝もそう言ったじゃん。君を守るって。というか、君を守る事が出来るのは僕くらいでしょ」


 一度言葉を止め、顔を逸らし付け足すように司は「僕以外になんて守らせないけど」とこぼす。だが、その言葉は詩織には届かず首を傾げていた。


「あ、あの…………」

「君、これから一人で行動するの禁止。登下校は僕と一緒、休みの日は出来る限り一人で外に出ない事。約束」

「え、でも、それは氷鬼先輩にとって迷惑な話じゃ……」

「僕が言っているのに何でそうなるの? 迷惑だと思っているならこんな提案しないし、言わない。それに、僕は、自分で言ったことは必ず最後までやりきらないと気が済まないタイプなんだよね。君を守ると言った以上、それを最後まで貫かせてもらうよ」


 藍色の髪から覗き見える水色の瞳は、真っすぐ司を見ている。その瞳に詩織は思わず心臓がドキッと高鳴り、顔を赤くした。

 すぐに顔を逸らし、冷ますように頬を抑えた。


(え、え? 先輩って、ここまで人の事を思える優しい人なの? 本当、話に聞いていた人物と違い過ぎて反応に困るんだけど!)


「どうしたの?」

「なんでもありません!」

「ふーん。あ、そうだ。今すぐには渡せないんだけど、君には必要だろうというものを用意しているんだ」

「え?」

「準備が出来たら渡すよ」

「え?」


 詩織の困惑の声など聞こえていないかのように話を進められ、チャイムが鳴り何もわからないまま昼休みは終わってしまった。

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