君を守る、絶対に

先輩と後輩

第1話 「君を守るの」

「ぃぃぃぃいいいいいやぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

『マテェェェェェェェェエエエエエエエ』


 一人の女子中学生が、奇声を上げながら必死に住宅街を走っている。後ろには、大きな骨の化け物。


「来ないでよぉぉおおお!!!」


 涙を流しながら走り続けている、黒いショートヘアに、黒い瞳をしている女子中学生、神崎詩織かんざきしおりは、周りにいる人達など気にせず、ただひたすらに走り続けていた。


(学校に行きたいだけなのに、なんであんな化け物に追いかけられないといけないのよ!!)


 心の中で愚痴をこぼしつつ、いつも詩織がお世話となっている紅井神社あかいじんじゃへと向かう。


(お姉さんが居れば、また私を助けてくれる!)


 早く神社に辿り着きたい一心で走り、周りを見ていなかった詩織は、曲がり角から人が来ていることに気づくことが出来なかった。



 ――――――――ドンッ!!



「きゃっ!」


 人とぶつかってしまい、しりもちをついた。

 お尻を摩りながら前を向くと、詩織は急に顔面蒼白に。なぜなら、そこには詩織が通う学校では有名な人物がいたから。


 クールでイケメンだと噂されている人物、氷鬼司ひょうきつかさ

 藍色の髪に透き通るような水色の瞳。ワイシャツに黒い大きなパーカーを羽織っていた。


 見た目は誰もが二度見してしまう程のイケメンで、いつでも冷静に周りを見ているクールな性格。だが、そんな彼には、欠点がある。


 学校の女子からの告白を秒で断るほど、他人に興味が無い。言葉も鋭く、告白した女子はいつも涙を流していた。


 司は他人に興味がなく、放たれる言葉は冷たい。その性格もあり、学校内では"氷の王子様"と呼ばれている。


 そんな、他人に興味が無い彼は、詩織と同じくしりもちをつき、痛みで顔を歪めていた。


「ちょっと、しっかり前を見て走っ──え」


 詩織の顔を見た瞬間、司はなぜか驚き、目を開く。

 なぜ驚かれたのかわからない詩織は一瞬首を傾げるが、後ろから影が差し、今はそんなことを気にしている場合ではないと思いだした。


「ひっ?! 来るなぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 詩織の叫び声に、司は耳を塞ぎ顔を顰めた。

 顔をゆっくりとあげると、その目には詩織を追いかけていた骨の化け物が映り込む。


 ため息をつき、呆れたように司は立ち上がった。


「まったく、追いかけられてるんだね」


 立ち上がると、司は冷静に詩織を後ろに回した。


(え、なんで前に!?)


けつ


 胸元で右の人差し指と中指を立て、言い放つ。すると、二人を囲うように透明な膜が張られた。


「な、これは?」

「アニメとかでよく見ない? 結界と呼ばれる物なんだけど」


 骨の化け物を目にしながら、司が簡単に説明した。


「…………それで、今回君はに追いかけられているんだね。昔から体質、変わってないんだ」

「え、体質? あの、なんで昔からって……」

「えっ、あぁ、なるほど。覚えていないんだね」

「え、覚えてない?」


 司の言葉がわからず質問するが、彼は答える事はせず、がしゃどくろを見上げた。


「今はいいや。まずはこいつを片付けるよ」


(え、何を考えているの!?)


 結界を壊そうとがしゃどくろは結界を手でガンガンと叩いてくる。

 頭が痛くなるような鈍い音が中に響いていた。


 そんな中、司は詩織の困惑など無視し、結界の外に出て、がしゃどくろへと向かってしまった。


 司が何をしたいのかわからず、詩織は止めようとするも何も言えず、見ているのみ。


 がしゃどくろへと走った彼は、勢をを殺さずがしゃどくろの足元を潜り後ろに回り、無防備な背中を見上げた。


 大きなパーカーのポケットから一枚のお札を取り出した。

 結界を作り出した時と同じく二本の指を立て、お札を挟める。


「ふぅ…………」


 息を吐き、集中力を高め始める。司の力に答えるように、お札は光り出した。


 白い息が彼の口から吐き出され、透き通るような水色の瞳は、がしゃどくろの、振り向いた顔が映り込む。


 狙いを変えたがしゃどくろは、体ごと振り返り骨でできた手を振り上げた。


『ジャマァァァァァァァアアア』


 上げた手が、司めがけて勢いよく下ろされる。


「邪魔なのはお前だろ、がしゃどくろ。僕を舐めるな。ユキ、任せたぞ」


 札を握っている手を上に勢いよく振り上げた。


「氷のつるぎにより、今ここで消えるがいい」


(え、今の言葉って………)


 詩織が彼の言葉を聞いた瞬間、がしゃどくろの振り下ろされた手が、急に動きを止める。せつな、骨の指先から凍り始めた。


『ギャッ!?』


 凍り始めた指先は、徐々に広がりがしゃどくろを包み込む。

 動きを封じられたがしゃどくろは、目の前にいる司を見下ろす事しか出来ない。


 下を見ていたため、上から降り注がれたつららに気づかなかった。


『ギャァァァァァァァァァァアアアアア』


 降り注がれたつららは、がしゃどくろに次々と突き刺さる。

 悲鳴を上げたがしゃどくろは、つららによって、大きな音を上げ骨が崩れ落ちた。


 そのまま灰になり、風に吹かれ消えてしまい、その場には司と詩織だけとなった。


「何が……?」


 詩織がぽかんとしてしていると、司の近くに一人の女の子が上から降ってきた。


『おわりました!! ごしゅじんしゃま!!』

「うん、お疲れ様」


 白い着物に、水色のおさげ。藍色の大きな真ん丸の瞳の少女。


 少女が司に頭を撫でられると、満面な笑みを浮かべ喜んでいた。


 彼も微笑みを浮かべており、聞いていた噂とは異なり詩織の頭はフリーズ。何も考えられなくなり、口を金魚のようにパクパクしていた。


「それじゃ、戻ってもいいよ」

『はーい!!』


 司の言葉に少女は冷気に包まれ、札に戻る。大事にポケットに戻すと、腰を抜かしている詩織に近付き司は目線を合わせた。


「まったく、君は相変わらずみたいだね。というか、本当に僕のこと覚えてないの?」

「え、あの、え?」

「…………覚えていないのならいいや」


 何も答えない詩織に、司は息を吐き立ち上がる。怒らせてしまったかと思い、詩織も急いで立ち上がった。


「あ、あの!!」

「安心して。君の事はこれからも守ってあげる」

「っ、え」


(守ってくれる? さっきからこの人が何を言っているのかわからない。何が言いたいのか、わからない)


「約束だからね。君を守るの」


 手を指し出す司。そんな彼の姿を見て、詩織の頭の中に何かが浮かぶ。それは、自分より小さく、優しそうに微笑む、狐面を顔につけた男の子。


「それじゃ、帰るよ。詩織」

「え、私の名前……あ、待ってください!」


 詩織を置いて行く勢いで歩き出す司に、疑問は残りつつも詩織はついて行くしかなかった。

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