エピローグ

「………」


僕は、いきなりの、燈のハグと、キスに、時間が止まってしまった。でも、すぐ正気に戻り、玄関を駆け抜けた燈を、追った。


エレベーターは16階を示している。下には……行ってない。じゃあ、階段か!? 僕は、あわてて階段を駆け降りた。


「!」


燈の姿を目視できた。


「燈!! 待って!! 燈!!」


「…………バイバイ…………」


そう言うと、追いつけない速さで、燈は、マンションから出て、車に乗り込もうとした。その一瞬前、



バキィ!!



「!?」


「お前ら、燈を……離せ!!燈は……お前らのおもちゃじゃない!!」


いきなり、おとなしいで有名な、哩玖が、ラボの1人に、ダイナミックにパンチを喰らわせた。


「……哩玖……! ダメだよ!! 私……行かないと……!」


哩玖は構わず、私の手を取って、逃げようとした。


しかし―――…。私の体は、動かなかった。――のだ――……。


ドスッ!! 哩玖は、転び、私は力が抜け、もう、意識はなかった。私の背中には、がある。それが押されると、私は、のだ。彼らは、哩玖の行動に、危機感を覚え、そのボタンを、躊躇わず、押した。


非常時、私の正体や、機密な情報を、私が漏らさないか、この人たちは、体に埋め込まれた盗聴器で、365日、17年間、聞き漏らす事の無いように、あちらこちらで、見張り、付きまとっていた。


今回、哩玖にだけは、話して良いと言われていたけれど、哩玖が、最後にとった行動は、予定外、だったのだろう。


「せっかくの、素晴らしい実験台なってくれた、第1号を、よくもまぁ……くれたな……。もしかしたら、もっと膨大な実験結果が出るはずだったんだが……」


「!!!! 待てよ!! なんだよ!! 廃棄ってなんだよ!! ふざけんな!!」


哩玖の怒りと悲しみは頂点に達した。


「安心しなさい。この第1号は、大成功だ。君にも、感謝している。恐らくは第1号が手紙でしたためたかも知れないが、生活費などは、勿論、我々が出そう」


「そんなもんいるかよ!! 燈を第1号なんて呼ぶな!! 燈を返せ!!」


君は、車にしがみついた。


「……君には、今は、分かるまいが、これは、人類の宝だ。君も見ただろう?この、第1号の成果を。もはや、AIは人間にとって代わろうとしている次元に来ているのだ。そのうち、君の周りはAIで埋め尽くされる未来が来るだろう」


燈の事を、面白がるように、車に乗っている連中は話す。僕には……それが、どうしても許せなかった。何が第1号だ。何がAIだ。何が……未来だ!!


しかし、俺の耳には――……。





「第1号は、今さっき、した。もう、二度と目は覚まさない。人間でいう、、だ。君には悪いが、これから、君には監視を付けさせてもらう。第1号の事を、まだ知られては、困るのでな。……車を出せ」


「……死……」



ブロロロ……。



燈を乗せた車は、哩玖を一人置いて、行ってしまった。



「待てよ……。待てよ! 待っててば!! 待てよ――!!!」


哩玖の叫びも虚しく、車はどんどん遠ざかってゆく――……。


「燈……燈……燈……」


哩玖は、AI、燈の名前を呟き続けた。


燈とは、もう会えないのだと、それは、苦しくも、理解せざるを得なかった。しかし、燈との恋が、幻だったとは思えない。いや、決して、幻なんかじゃなかった。


燈が、最後に残したくちびるの温もりは、人と、何もたがわなかった。それが、哩玖には、一層、悲しく思えた。














―4年後―


哩玖は、大学生になっていた。あれ以来、哩玖は、恋をしていない。と言うより、出来ない。香葡とも別れ、杏弥とも、あまり話さなくなった。相当な……ショックだった。もしも、2人が真実を知ったら――…と、2人にはどうしても、言えないでいた。それは、哩玖の意志だけではなく、燈との約束でもあった。哩玖以外には話さない。その許しを得た、と言っていた燈の意志をくみ取らねば、その哩玖の傷みは計り知れない……。それに、が、きっと、四六時中哩玖を見張ってるのだ。恋なんて、しようとも思えない。哩玖には、今も、燈の影がちらつく……。







哩玖は、高校で、何もする気がなくなり、勉強ばかりしていた。そして、どこまでも、燈の姿を探し、いつか、燈が笑顔で戻って来るような気が、どうしても、そんな期待が胸の奥から消えないでいた。燈といた、あの日々を今も、過ごし続けていた。


『燈に恥じない男になろう』


『燈に好かれる男になろう』


『燈が離したくないと思うような男になろう』


そんなことを思っては、自分を磨いた。




そして、その甲斐(?)あってか、大学では、すっかりイケメンで通っている。


でも、探してしまうのは……。
















「哩玖くーん!」


1人の女子大生が、茶化しがてら、哩玖の姿を見て叫んだ。














 



哩玖は振り向きもしない。









「燈は……なんて……つけないもんな……」





そして、事あるごとに、もう、哩玖の口癖になっている言葉があった。





「最後まで…………スカート……長くして……って、言えなかったな――……」





空を見上げ、呟くと、また、歩き出す。




の……燈のいない、未知へと――…。

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君の恋を叶えるための私の恋 @m-amiya

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