序-2
「そうでした。……小侍従殿、実は、私も最近噂の人になりました。小侍従殿が頻繁に異動するのは、私が内部調査をさせているからだ、と。……貴女様を私の子飼いのように言われるなんて、本当に噂なんてものは根も葉もないことばかり。きっと、承香殿に出るという噂も……」
自身に言い聞かせているように
「噂のすべてに、根も葉もないとは言えません。ここに来る前に、
大納言は、
先ごろ、この二名いる権大納言の一人が
節会とは、帝が臨席される公的な宴会のことをいう。
これにより、権大納言には、上の方々のお𠮟りに加え、自邸での謹慎処分が下っていた。その謹慎期間が終わり、ようやく本日から参内しているわけだが……。
「権大納言様の噂というと、例の……」
そこで言葉を止め、聞こえてくる
「典侍様、失礼します。右近少将様が典侍様にご相談したいことがあるといらしておいでですが」
声を掛けられ背筋を正した典侍が、
「右近少将殿が? ……主上の御用命かしら?」
どうやら、さきほど噂されていた人物が内侍所にいらしているようだ。そうなると御簾の中の女房たちも一緒に戻ってきてしまったのだろうか。
「先日の節会で、上卿の指名を受けた権大納言様が遅刻なさった件で、とのことです」
曹司と
こちらとしては、ちょうど話していた件で、梓子は典侍と意味ありげな視線を交わしてしまう。
「……例の『一晩のはずが三日三晩経っていた』などと言い訳なさった件ですね。わかりました、少将殿をお通ししてください」
「やはり、その話を典侍様も耳にしていらっしゃいましたか」
権大納言は、当初、節会遅刻の理由を『一晩のはずが三日三晩経っていた』と主張したのだ。これを耳にした上の方々が、言い訳にしても、もう少しましな話はなかったのかと
おかしな事象が続いているのであれば、それは怪異の
「……これは、おそらくまだ続きます。行事関連の確認は、いつもよりこまめに行って、連絡がつかない方が出た場合に備え、代わりになる方を、あらかじめ決めておいていただいたほうがよろしいかと存じます」
典侍が
「……そうおっしゃるということは、やはりそちら関係ですか。貴女様がおっしゃるのなら、その予感は本当になるでしょう。ご忠告、心に留めておきます。少将殿のご相談というのも、おそらくは、女房たちの間で同じような話が出ていないかを知りたいということでしょう。さあ、小侍従殿、少将殿がおいでになるそうですから、急ぎお戻りを。……どうか、承香殿での仕事、くれぐれもお気を付けくださいね」
促されて、梓子は
「はい。典侍様もお気をつけて」
鉢合わせを避けて、入ってきた簀子とは違う方向の御簾から出ようとしたところで背後から、典侍に挨拶の言葉を掛ける男性の声がした。
「お久しゅうございます、典侍様。どなたかとお話中のようでしたが、大丈夫ですか?」
この声の主が、右近少将だろうか。
ほんの少しの興味から、梓子はそっと振り返った。
声の主は、
端整な
噂も時には、根も葉もあるものだと納得して、梓子は内侍所を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます