第2話-⑤

海那うみなさんが遊びに来たかった場所ってここですか・・・?」


「そうだよ、だからさっき葉月はづきが言ってた場所は正解だったの」


 私たちはカフェを後にして、20分くらい車に揺られ目的の場所、水族館にたどり着いていた。

 目の前に海が広がっている水族館は、イルカが描かれた青い建物にでかでかと『松山水族館』と書かれている。

 土曜日だからか家族連れも多いようで、駐車場もそれなりに埋まっていた。


「予想しといてあれですけど、海那さんが水族館好きってなんか意外です」


「自分でもわかんないんだけど、海の動物とか魚を見てるとなんかワクワクしてくるのよね。名前に海ってつくからかな?」


 くすっと笑いながら冗談交じりに海那さんはそんなことを言う。

 でも実際意外だった、海那さんはどちらかというと街とかブラブラ歩いて遊んでるイメージだったからだ。というか、あまり水族館ではしゃぐ海那さんが想像できない・・・。


「それじゃ早速行こうか?」


 そんなことを考えていたら、海那さんは入口に向かって歩き出してしまった。

 私はその背中に「待ってください!」と言い早歩きで追いかけていった。




 チケットを買い館内に入ると、エアコンがついているのか涼しい空気が迎え入れてくれた。

 パンフレットを見てみると、館内は順番に見て回れる構造になっているみたいだった。


「葉月、どれから見たいとかある?」


「んー、ペンギン見たいですけど、順番に見ながら回りたいかもです」


「んじゃ、そうしよっか」

 

 パンフレットを仕舞い、先導してくれる海那さんについていくと最初の水槽が見えてきた。

 水槽の中には魚たちがゆうゆうと泳いでいるのが見えた。それを眺めながら、二人で並んで歩く。


「そういえばなんですけど、海那さんってよくここの水族館遊びに来るんですか?」


「んー、学生の頃は電車使ってよく遊びに来てたけど、仕事し始めてからは忙しくてあんまり来れてなかったかも・・・」


「そうなんですね・・・」

 

 本職と掛け持ちをしながらアルバイトを続けてるって言ってたし、それであんまり遊びに来れてなかったのかな。

 なんてことを考えてると、横で歩いていた海那さんが急に立ち止まった。

 なんだろうと思い、私も歩みを止める。


「見て葉月、チンアナゴ。可愛くない?」


「あ、ほんとですね。可愛い・・・」 


 私と海那さんが立ち止まった水槽の中には、砂に刺さった何匹ものチンアナゴがゆらゆらと上を向いて揺れていた。

 

「なんかこういうのって、永遠に見れちゃうんだよね・・・」


「分かるかもです、見てると落ち着くっていうか・・・」


 しばらくチンアナゴをぼーっと見てると、横からパシャッと音がした。

 そちらを見てみると、スマホをこちらに向け、いたずらに成功した子供のような笑顔を浮かべている海那さんがいた。


「葉月の横顔もらい」


「わ、私じゃなくてチンアナゴ撮ってください!」


「ごめんごめん」

 

 そう言い、海那さんは笑いながらチンアナゴにカメラを向けるのだった。

 消していないっぽいし、海那さんのスマホの中に私の横顔は残るようだ。どうせ撮るなら、もうちょっと可愛く撮ってほしいな。そんなことを考えてしまう。


「海那さん、あとで写真撮りましょう。今度はちゃんと、不意打ちは無しです」


「ん?いいけど、今のも可愛く撮れてるよ?」


「そういう問題じゃないです!」


 一緒に写真を撮れば、海那さんのスマホにもうちょっと可愛くなった私を残せる。

 それに、私のスマホにも海那さんを残しておける。そんな風に思ったのだ。

 そんな事を考えていると、海那さんが私の手を握ってきた。


「そろそろ次の見にいこっか」


「そ、そうですね・・・」


 急に手を繋がれたからドキッとしてしまう。

 そんな私の内心に気づいてない海那さんは、私が手を握り返したのを確認して歩き出していく。

 

 海那さんの顔は、恥ずかしくて見れなかった。

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たばこの匂い、彼女の匂い 佐藤砂糖 @rannmaruIQ3

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