35話 胸を揉むための決心


「……困った事になったね、間宮」


 時刻は深夜を回った頃。


 俺はベッドの横でプカプカ浮かんでいる親友の一言に頭を悩ませていた。

 パーティの仲間であるエレナの睡眠魔法の効力が切れ、目覚めるとそこには見慣れた天井が広がっていた。


 ここは俺たち勇者パーティが根城にしている、聖都の一角にある二階建ての一軒家だ。


 冒険を始めて数ヵ月ほど経過しパーティの資金がそこそこ多くなったころ聖導国家の方から与えられた専用の宿を飛び出し、俺とシャルティアの二人で物件を探して見つけた場所でもあり、この世界における実家といっても過言ではない。


 少し前まで他の宿を使用していたのだが、あれは勇者墓地の付近だったから使っていたというだけの話だ。ここは墓地からいささか遠すぎて、こっそり抜け出すのが難しい。


「……まぁ、確かに困ったな。このタイミングでシャルティアが離反するとは思わなかった」


 冒険用の装備を外し、軽装に着替えてから部屋を出ていく。とりあえずキッチンで水を飲もう。



 ──シャルティアは敵だった。


 肉体は正真正銘ただの人間なので、おおかた魔物に育てられたとかそんなところなのだろう。


 彼女と戦ったときは頭に血が上っていて指摘することができなかったが、敵という割にはあの女──かなり動揺していた。


 切迫していたともいう。とにかく罠に嵌めて攻撃してきたにしては、まるで恋人の前で浮気がバレたかのようなバツの悪い表情だった。


 アイツの心が弱いのか、はたまた良心が残っているのか……というのは一旦置いといて。


 

 あいつが魔物側のスパイだったとかマジでクソほどどうでもいい。


 この世界は人間と魔物が戦争をしているダークファンタジーな物語だ。

 そりゃスパイの一人や二人はいたって不思議ではない。シャルティアに関しては入国の際に正体に気づけなかった聖導国家側の不備だ。


 問題は俺のそばから彼女が離れていったことである。


 この世界で唯一の目標である『パーティメンバーのおっぱいを揉みしだく』という目的が、また一歩遠ざかってしまった。


 しかもアイリスの胸にようやっと触れられるかもしれない、という絶好の機会まで奪われてしまったのだ。


 これはもうシャルティアに謝罪させて、なんかシリアスな雰囲気で『俺がお前の中の悪魔を浄化してやる』とか適当ぶっこいて胸を触らせてもらわないと釣り合わないというものだ。


 聖なるロリおっぱいアイリス、ツンデレ爆乳エレナ、そしてくっころショタコン金髪デカ乳騎士のシャルティア。


 この三人の美少女が持つあの男誘いすぎバカでか爆乳を揉まなければ俺は元の世界に帰れないのだ。


 まず物理的に近くに居てくれないと作戦の立てようがない。

 こちらは元の世界へのワープに関しての作業も並行しないといけないのに、こんな時間がない状況でシリアスにこの世界の物語に巻き込まれてたまるか。

 時間は何より貴重なものなんだ。


「──よし。もうひと眠りしたら出発するぞ、翔太郎」

「えっ……どこに?」


 テーブルにコップを置き、自室へ戻ってさっさとベッドに横たわった。時間は有限。おっぱいへの欲求は無限。


「シャルティアを連れ戻す。この世界の行く末や事情なんかはマジでどうでもいいが、あいつは俺が一度『揉む』って心に決めた相手なんだ。絶対に元の世界へ帰る前に連れ戻して胸を揉む」

「……君のそういうストイックさ、嫌いじゃないぜ」


 そんなわけで俺は再び泥のように眠りの世界へ落ちていった。


 聖導国家のシスターで根っからの人間の味方であるアイリスがシャルティアを庇った理由も気になるが、もしそれが『仲間だから』という義理人情に訴える理由であるなら話は早い。


 俺を眠らせたエレナもアイリスと同じ気持ちなら、彼女らはシャルティアに戻ってきて欲しいと考えているはずだ。


 で、あれば。

 あとはシャルティアを説得するだけ、というわけだ。ワオ単純明快。一プラス一より簡単な話じゃないか。


 仲間を連れ戻す。胸を揉む。両方やらなくちゃならないってのが勇者の辛いとこだがここが一番の正念場だ。

 頑張るぜ──あの爆乳の為に!


「……ねぇ間宮、僕もベッドで寝ていい?」

「お前は浮いてろ」


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急に仲間の胸を揉んでもシリアスな顔すれば深読みされて許される説 バリ茶 @kamenraida

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