34話 揉むはずだったチャンス


「ぅっ、あ……」


 後ずさった。


 心根が揺らぎ、本気でタイガとぶつかり合うための、理由というものを見失ってしまった。


 もし、この姿を父が見れば、哄笑をあげるに違いない。

 どこまでも中途半端な奴だ、と。


「浄化してやるぞ、シャル。お前の乳を!」


 ダメだ、戦えない。


 戦場で志や戦うための信念を失ってしまった者には、敗北あるのみだ。

 逃げなければならない。


 体勢を立て直して、心を再び鬼にしなければ、今この場で負けて、二度と立ち上がれなくなってしまう。

 だというのに、脚が動いてくれない。


 あぁ、父上。

 私はどうすれば──






 もう少しだった。


 俺の夢が、叶う瞬間だった。

 比喩抜きに、あと一歩でアイリスのふざけたクソデカなロリ巨乳を、この手で掴めるところだった。


 翔太郎と考案した、不意に胸を揉んでもシリアス顔すれば深読みされて許される説が、今まさに立証される寸前だったのだ。


 魂の色だとか適当なことをぬかして、意外と思うところがあったのかアイリスが驚いた顔で固まったので、とりあえず様子見で一旦ひと揉みイケる──はずだったのに。


 許さんぞ、シャルティア。

 このくっ殺デカパイ生真面目ショタコン爆乳聖騎士デカ乳女め。


 もはや遠慮なしに、お前の乳を揉んで揉んで揉みしだくことでしか、俺の怒りは治まらない。


 あっ、なに後ずさってんだおまえおっぱいコラ!

 逃がすか!!!!!!!


「──いけませんっ、タイガ様!!」


 後ろから光の鎖が飛んできて、俺の手足に巻き付いてきた。

 十中八九アイリスの拘束魔法だろうが、こんなものでは止まらない。


「うぅっ……! シャル様、お逃げください……ッ!」

「あ、アイリス、どうして……」

「タイガ様は頭に血が上られてます! とにかく、今は逃げて──」


 うおおおおおおおお離せ!!!!

 あの爆乳揉んで泣かしてやる、くっころ騎士がァ!!!!!


「ち、違う……私は、きみたちを攻撃したんだ。なのに、なんで……」

「それは──……で、でもっ、わたしたち勇者パーティは、唯一無二の共同体であるハズです! まだ、話し合いだってしてない! だから、どうか今はお逃げください!」


 あっ! なんかエレナも来た! 邪魔すんなよお前!!


「ちょっ、何なのよこの状況……っ!?」

「エレナさん、鎮静睡眠魔法をタイガ様に! シャル様を一旦この場から離脱させなければなりません!」

「え、えぇ……!? ……あー、もう、とりあえず了解だけど! ──シャルっ! あんた、後でちゃんと連絡しなさいよ!」


 ああああぁぁぁァァ゛ァ゛ッ゛ッ!!!

 よくも、よくも俺のおっぱいチャンスを──グゥ……。

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