異世界脱出!~Mission1 魔王を討伐せよ!~
ヨシヒコ1002号
第1話 Hello World!!
これは、臆病で弱虫な少年が
心の内に秘めた強い”意志”で異世界の悪に立ち向かう
勇気と成長の物語。
19XX年。 10月
僕が生まれた日。
父さんはどちらかと言うと、親バカ。仕事より僕のことを優先する人で、夜泣きした時は父さんがあやしてくれてた。
仕事の帰りが遅かった時は必ず玩具を買ってきてくれた(全部僕の好きな物じゃなかったけど)。
そんなある日、父さんが珍しく隣の県に出張する日。
僕と別れたくないのか、僕を出張先に持っていくと言い出したので、母さんが喧嘩してても全力で止めていた。母さんの説得でようやく折れた父さんは家を出るまで、赤ん坊の僕のほっぺにいっぱい頬ずりしていた(母さんの話によると、父さんの無精ヒゲが濃すぎたせいで痛すぎてずっと泣いていたらしい)
そして家を出るとき、
「すぐ帰ってくるからな~」
と泣きながら仕事に行った。
その時の僕は想像もしていなかった。これが父さんを見たのが最後になるなんて。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
数十年後
朝
家
「コウヘイ!いい加減起きなさい!」
母さんの大声で不機嫌そうに起きたのは一人息子の僕、青野コウヘイ。
高校の制服に着替え、寝癖だらけの姿で一階に降りた。
「高校に行く前にその寝癖なおして行きなさいよ。みっともないから」
「わかってるよ・・・」
気怠そうに返事をして朝食を食べ終えると、僕は颯爽とオンラインゲームをし始める。
「じゃあ母さんは先に仕事に行くけど、ちゃんと高校に行くのよ」
「・・・うん」
そう入って母さんが先に家に出た。
正直、学校に行きたくない。せっかく中学の時必死に勉強して進学校に入学したのに今では心底後悔している。
その理由はいくつもあるけど、まあ、後で語ろうと思う。
高校に行きたくない余り、サボって時間稼ぎに近所の田んぼの周りをグルグル回ったり、昼食の時は隣町まで歩いてファミレスかマ〇クで時間を潰してた。
そんな事を毎日してたら、高校から家に電話かかって来てバレた挙句母さんにこってり叱られ、それ以降ちゃんと登校してるけど・・・ホントマジで行きたくない。
ずっとここでゲームしていたい。ゲームの世界だったらアバターがイケメンだし、嫌いな運動しなくていいし、ゲーム内のチームの中では最強だから常に仲間に頼りにしてくれるし、褒めてくれる。
でも現実世界だと・・・ハア、マジで行きたくない。
行かなきゃまた怒られるし、僕は仕方なく家を出た。
ここで僕がなぜ学校に行きたくないのか述べようと思う。
一つは通勤時間だ。
最近読んでいるラノベの挿絵が、ちょっとエッチな描写があるやつなので、それを見て興奮しながらニヤニヤ笑っているせいか、周りの人達から避けられている気がする。特に女子からゴミを見るような目で見られた時は僕自身消滅したかった。
じゃあブックカバーとか家で読めばいいじゃんって言う人がいるけど、金がもったいないのと早く読みたいから絶対にしない。
でもこの通学時間に好きなラノベを読めるから唯一楽しみでもある。
問題なのは、二つ目以降だ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
高校
「ねぇ、青野君っていつも何読んでんの?」
「っ!」
≪出動!! コミュ障爆撃機! 僕の精神を焼野原にせよ!!≫
学校ではなるべく存在を消してラノベを読み、なるべく一日無難に過ごしていた僕に脳内の空襲警報発令されて、肩が飛び上がる程ビックリした。
しかも話しかけてきたのがクラスでカースト上位のギャルで、誰とでも話しかけて来る明るい女子ときた。
「今めっちゃビックリしたw」
「し、し、し、してない!してない!」
「で、何読んでたの?」
「そ、それは・・・」
母さん以外の女子と久々の会話で緊張してしどろもどろになる。頭の片隅でもしかしたら・・・の展開を予想した。
でも、そんな妄想世界を何の躊躇いのなく、僕の背後から鋭いナイフで引き裂くのように『あいつら』の声が聞こえてきた。
「よぉ、海森君じゃ~ん。なに?真昼間からナンパか?」
後ろから僕の肩に腕を回して話しかけてきたのは、同じクラスの真崎君とその取り巻き達。相変わらず夏でもないのに肌の褐色が目立ってる。
僕が学校に行きたくない理由二つ目。
それはこいつらがいるということ。
真崎君とは小学生の時から一緒で、荷物持ちやパシリ、クラスを先導して無視をさせて、ストレス発散のサンドバックなど様々なイジメをさせられた。
それが嫌で必死に勉強していい学校に入ったのに、なんと奴はスポーツ推薦で僕と同じ学校に入学(ちなみに総合格闘技部)。
入学式の時、『高校でもたっぷり可愛がってやるよw』と言われた瞬間、この世の終わりだと痛感した。
「そ、そんな事してないよ・・・」
「そうだよ~!私はただ何読んでるのかなって気なっただけ!真崎がいきなり話しかけるから怖がってんじゃん~」
「なんで怖がるんだよwww 俺達友達だもんな?www」
「・・・」
「な?」
顔を近づけて圧をかける真崎君の顔がおっかなくて、僕は条件反射で勢いよく頷く。
「ほ~ら、やっぱ俺ら友達じゃん~w」
「・・・」
「で、何読んでたんだ、よ!」
と真崎君は僕が読んでる本をいきなり取り上げた。
「ちょっ!」
「え~、なになに?『俺がドラゴン退治して世界中のマドンナを〈男〉にする英雄・・・なんて読むんだこれ?』本の題名からしてオタクすぎてキッモォwww」
ギャハハハと取り巻き達と大笑いする真崎君に僕はボソッと、
「・・・『虜』だよ・・・」
「あ?」
「『俺がドラゴン退治して世界中のマドンナを虜にする英雄譚(えいゆうたん)』って読むんだよ・・・」
「・・・は?」
「アハハ!漢字読めなさすぎでしょバカだね~w 私でも読めるっつーのw
ねぇ、青野君もそう思うよねw」
「ハハハ・・・」
僕に漢字を指摘され、女子に笑われて赤っ恥をかいた真崎君は冷たい表情をしている。次の瞬間、僕の胸倉をガッ!と掴んで脅してきた。
「調子乗んなよマジで。キモオタが俺に口答えしてんなよ」
「く、苦しい・・・」
「苦しがってんじゃん、やめなよ!」
女子が僕を庇うが、真崎君は本をまた取り上げて、ヘラヘラしながら後ろに書いてあるあらすじを読んだ。
「『これはあなたの物語です』だと?
ハハ!おい、お前ら。こいつ小説の主人公と自分を重ねてるぞw!」
≪マジかよw≫
≪キッモw≫
≪オタクで妄想癖とか終わってんなw≫
「か、返してよ・・・!」
「だったら自分の力で取り返してみろや!!」
真崎君は僕が必死で本を取り返そうとするので、大声を出して僕を殴り飛ばした。
「うぐぁっ!!」
「オラオラ!どうしたよ勇者様!悔しかったらやり返してみろよ!!」
そう挑発されて僕は歯を食いしばってすぐに立ち上がり、拳を振るう。
だが真崎君に簡単に避けられた。
「当たんなーい♪バーカ!」
避けると同時にまた殴ってきて僕はサンドバック状態になってしまった。
数発殴り終えた所で僕はまた尻もちをついて倒れる。
「うう・・・」
「全然弱いじゃん勇者様!そんなんで世界中のマドンナを虜にするとか笑わせんなよ!」
≪つーか勇者なら真崎の方が似合うくない?≫
≪それなw≫
取り巻き達が真崎君を褒め称えていい気分になっていると、誰が呼んだのか、先生が教室に入ってきて真崎君達を問い詰めた。
「コラ!お前達何をやっているんだ!?」
「ちっ!うぜぇのが来た。お前ら行こうぜ。じゃーな、勇者様w」
捨て台詞を吐いた真崎君は取り巻き達と一緒に先生の問いかけを無視して立ち去る。
つられて話しかけてくれた女子も、一瞬僕を哀れむ目をして教室から出て行った。
「・・・はぁ」
痛い。
肉体的にもだけど、それよりも心が痛い。やり返したいけど力はないし、かといって格闘技とか、闇討ちとか、仕返ししたいとか、社会的に抹殺したいとか、そう言うんじゃない。
こんな優柔不断な僕にみんなこう言う。
『なにがしたいの?』
で、決まってこういうのさ。
『わからない』
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
週末の土曜日。
僕にとって忘れたくても忘れられない日になった。
その日の時間は夕方。
母さんがコンビニの夜勤のパートに行っていて、僕はいつものように自室でオンラインゲームをしていた。
そこに母さんからLINEが来て『仕事に必要な書類を忘れてしまったから、届けてほしい』と連絡が来た。
パートなのに仕事に使う書類ってどんなんだよ、と思いながら家を出た僕。
家からコンビニの道は歩いて行ける距離だし、僕もコンビニで何か買おうと家を出た。
外は夕空から徐々に薄暗くなっていく。
僕はアニソンを聞きながら、コンビニに向かう道を揚々と歩く。
この時点で気づけばよかったと後悔した。今思えばコンビニから逃げる人達がいたことに。
その事に気づかずに母さんのいるコンビニに入ると、そこで信じられない光景が広がっていた。
「・・・母さん?」
僕の母さんがレジの前で倒れこんでおり、身体から大量の血が出ていた。
「母さん!どうしたんだよ、ねぇ!!」
「・・・うぅ、コウヘイ・・・」
意識が朦朧としているが、まだ生きてる。
「早く警察を・・・いや救急車を・・・!」
なにから手を付けていいか分からず、パニックになっている僕の前にレジの奥の事務室から意外な人物が出てきた。
「・・・真崎、君・・・?」
「・・・あ」
真崎君の顔が倒れている母さんの現場を見て、生気がない真っ青な顔になっている。当然だ、人が目の前で血まみれで倒れてるんだから。
でもなんだか変だった。真崎君の服装はコンビニ店員の制服ではなく私服で、所々返り血がついていた。
そして僕は状況を見て察し、手に持っているクシャクシャの紙幣と血だらけのナイフを見て確信した。
「もしかして・・・真崎君が・・・?」
「・・・く、クソが・・・!」
畏れと怒りが混じったような顔で僕に近づいてくる。僕は怖くて足がすくんでいると母さんが僕の足を掴んでこう言った。
「コウ・・・ヘイ・・・逃げ・・・なさい・・・」
「そんな!母さんはどうするんだよ!!」
「いいから・・・早く・・・!」
母さんは必死で僕を逃がそうと、か細い声で訴えかける。
「お、おい!逃げんな!!逃げたら・・・!」
「う、う、う、うううううう・・・!」
真崎君はナイフを突き立てて脅してきたので、僕は情けない声を漏らしながら必死にその場から逃げた。
「待て!!逃がすかよ!!」
(ま、待ってて母さん!すぐ、すぐ人を呼んでくるから!!)
そう何度も心の中で復唱して、僕は半泣き状態で無我夢中に走る。途中真崎君が何か罵声を叫んで僕を追いかけていたが、そんなの耳に入らなかった。
とりあえず交番を目指して走り続ける。真崎君に見つからないように路地裏や狭い道を通って全力で逃げていると、道の角で真崎君の取り巻き達にぶつかってしまった。
「あ・・・」
「いってーなあ!!」
最悪だ。逃げなきゃならない相手が増えてしまった。
「逃げたぞ!!」
「逃がすな!!」
真崎君にその取り巻き達。複数人で僕を追いかけられたせいでもう体力が尽き
かけていたが、僕の周りに不思議な現象が起きた。
僕の周りの景色が段々ゆったりと鈍く歪んできて、進んでいる方向が青っぽく、後ろがなんだか赤っぽく見えてきた。景色だけでなく周りの音にも変化が起きている。近くにいる車や子供の声が異様に高く、逆に遠くにいるカラスの鳴き声が関取みたいな野太い声に変化していた。
そして周りの景色がどんどん暗くなって光が一切ない真っ暗になった瞬間、カメラのフラッシュを浴びたかのように眩しい光が僕の周りを照らした。
「・・・え?」
僕は思わず声が漏れた。
さっきまでうす暗い夕空だったのに澄んだ青空が広がり、空には羽が生えた船が飛んでいる。地面は道路ではなく生茂った草原が果てしなく広がっていた。
「なんだ、ここ?僕確か・・・真崎君に追いかけられてて・・・それから」
一体何が起こったのか分からず、混乱している僕の背後からドドドと砂埃をまき散らし、何かがこちらに向かってくる。
「あ、あれって馬車? ・・・ってうわあ!!」
馬車が通り過ぎた瞬間、男に首根っこを掴まれ、馬車だと気づいて時には馬車に乗せられていた。
馬車の男は、意気揚々と僕に話しかける。
「ようこそ、勇者様!!魔王が支配する剣と魔法の世界へ!!」
この馬車の男は何を言ってるんだ?
魔王?
剣と魔法?
それに僕の事を勇者様?
何もわからない僕は無事の世界へ帰って母さんを助けられるのか・・・?
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