第4話 三度目の……

 先輩と何度か会って、三度目が友香との出会いだった。

 あれから半年ほど経ったが、先輩から誘いはなかった。一度目から三度目までは、そんなに間が開くことはなかったのに、まさかあれから半年も何も音沙汰がないなど、想像もしていなかった。

 いつも誘いは先輩から、このパターンだけは崩さないようにしようと思っていたので、半年何ら連絡がなくて気にはなっていても、連絡してみようとは思わなかった。

 だが、ちょうど半年が経つと、急に考えが変わった。

――やはり連絡してみないと、何も分からない――

 気になっていることを放っておくのは、考えてみれば、先輩にはありえないことだった。信治が先輩を気にして連絡を取っても、何ら問題はない。ただ、気が変わった一番の原因は、

――どうしてもパターンを崩したくない――

 という思いに風穴が空いたからだ。

 そもそも、どうしてそんな風に思ったのかということも忘れてしまっていて、近い将来、パターンを崩したくないと思っていたことすら、忘れてしまいそうな気がして仕方がなかったのだ。

 携帯のアドレス帳を見ると、

――そういえば、僕の方から連絡したこと、なかったな――

 先輩のアドレスを開いたという意識がなかったからだ。

 連絡を取り合うのは、まず先輩の方から連絡があるので、発信履歴にも残っていない。すべてが着信だった。

 先輩と一緒にいる時は、それが普通だと思っていた。

 考えてみれば、友達もいない自分に電話が掛かってくることもなければ、ましてや自分から掛けることもない。発信履歴が、そのことを序実に物語っている。

 さすがに自分から誰かに連絡を取るのは度胸のいることだった。

 少し考えてから、連絡を入れてみた。

「トゥルルルル、トゥルルルル……」

 三度目か四度目のコールまでは、それほど怖くはなかったが、五度、六度とコールが重なるごとに、気になって行った。

 ここまで待たされて、急に出られると、待たされただけにいきなり感が拭い切れない。さらに、

――このまま、出なかったらどうしよう――

 という思いと、

――このまま出てくれない方が、気が楽だ――

 という思いが交錯した。

 後者は、完全に「逃げ」なのだが、その時は何とか自分を正当化させなければいけなかった。なぜなら、この電話に、結局先輩が出ることはなかったからだ。

 何度か連絡を取ってみたが、やっと五回目くらいで相手が出た。

「もしもし」

 相手の声は怯えていた。

――えっ?

「先輩?」

 というと、相手もビックリして、

「違います」

 と言って、いきなり電話を切った。

 電話番号に間違いはないはずだ。過去の着信履歴をリダイアルしているのだから。一体何があったというのだろう。

 大学で、先輩の知り合いという人に話を聞いてみた。

「そういえば、あいつ、ずっと大学に来ていないけど、どうしたんだろうな?」

 知り合いというその人は、先輩と同じゼミなので、ゼミの先生に話を聞いてくれることになった。

「ああ、彼は退学したようだよ」

「えっ? どういうことなんですか?」

「詳しいことは私も知らないので、大学の庶務課に聞いてみよう」

 と言って訊ねてもらった。

 すると、教授は神妙な顔をして戻ってきて、

「どうやら、本人死亡による家族からの退学申請があったようです。お二人はお友達で連絡が取れないのであれば、私の方からご家族に連絡を取っていますが、どうします?」

「お願いします」

 それから少し経って、

「庶務課の方から連絡先を教えてもいいということだったので、実家の電話をお教えしますので、後は自分たちで連絡してみてください」

「ありがとうございます」

 いろいろ骨を折ってくれた教授に礼を言って、また協力してくれた先輩の知り合いにも礼を言い、さっそく先輩の実家に連絡を取ってみた。

「実はね。あの子、三か月前に死んだの」

「えっ」

 という衝撃的な返事が返ってきた。

「どうしてですか? 病気か何かで?」

「いえ、交通事故だったんですけどね。歩いているところを車が後ろから突っ込んできたみたいで……」

 それ以上は、さすがに電話では聞けなかった。

 こうなったら、先輩の実家に赴いて、仏壇に手を合わせて、話を聞くしかなかった。ここから先輩の実家までは、日帰りでも行ける場所。翌日さっそく出かけてみた。

 先輩の母親は、思ったよりも若くて綺麗だった。先輩の家は、両親が先輩の高校の時に離婚し、母親と二人で暮らしたのは先輩が高校時代だけ。先輩の話では、大学を卒業したら、なるべく母親の家から通える会社に就職したいと言っていたっけ。そんな話も思い出していた。

 そのことを話すと、

「そう、あの子がそんなことを言っていたの。知らなかったわ」

 と言って、涙を流した。

「あの子は真田さんのことも、帰ってきた時、よく話してくれていたわ。事故に遭った時も、ちょうど私のところに来ていてくれたの。私が少し体調を崩していたので、そのお見舞いと、よくなるまで、いてくれると言ってくれて、嬉しかったわ」

「どれくらい滞在するつもりだったんでしょうね?」

「一か月はいるって言ってたわ。その間に私もよくならないといけないって話をしていたのを思い出してね」

「先輩は僕のことも話してくれていたんですね」

「ええ、真田さんは自分の難しい話をよく聞いてくれるって、そして、彼には彼の考えがあるので、自分も勉強になるって言っていたわ。そして、真田さんが自分とよく似たところがあるんだって、そのことを力説していたの。私もそんな真田さんに会ってみたいと思ったわ。もちろん、息子と一緒にね。でも、それは叶わなかった。辛いけど、仕方のないことだわ」

 悲しそうにしている母親だったが、さすがに最初の時のように涙を流すことはなかった。それでも母親の顔を見ていると不憫で、自分も哀しくなってくるのを感じていた。

「真田さんとは、大学に入っても何度か会っていらっしゃったのよね。いつもあの子が自分から呼びだすんだって言っていたわ。確か、三度呼びだしたって言っていたわ」

「そうですね。先輩から三度呼びだされて、三度とも、先輩の方が僕よりも先に来ていたんですよ」

「そうなのよ。あの子は、人を待たせるのが嫌だというよりも、待つことが好きみたいなの。変わっているんだけど、待っている時にいろいろ想像してみるんですって。そして、待っている時にしか想像できないことがあるらしくって、それが面白いんだって言っていたわ」

「お母さんにも、それがどういうことなのか、分からないんですね?」

「ええ、あの子が考えていることは、あの子にしか分からない。それはそれでいいことなのよ。でも、最近分かるようになってきた気がするの。あの子とは、もうこの世で会うことはできないんだけど、あの子を想うことで、あの子がいなくなったこの世界での想いが分かるというのは、皮肉なことなんだけど、私には嬉しいことなのよ」

「例えばどんなことですか?」

「あの子と、三度待ち合わせていたって言っていたでしょう? あの子の考え方として、『二回目と三回目では、まったく違っているんだ』っていうのが口癖だったんだけど、あなたは聞いたことある?」

「いえ、どういうことなんでしょうか?」

「私もサッパリ意味が分からなかったんだけど、でも、二回目までは、相手の行動パターンがもし同じであっても、それは偶然かも知れない。でも、三回目に同じなら、それは間違いなくその人の性格が分かる行動パターンだって思っていたんじゃないかしら? あなたに対しても、何度か同じ質問をしてみたり、わざと息子が同じパターンを繰り返してみたりしたことなかった?」

「あったかも知れないですね。そういえば、先輩と二回目に遭った時、鬱状態だったですよ」

「あの子が鬱病に?」

「ええ、鬱病になると、これほど饒舌になるのかと思うほど、まくしたてるように話をしていました」

「ひょっとすると、真田さんの中に、別人を見たのかも知れないわ」

「どういうことですか?」

「あの子は、たまに超自然な力が宿る時があるの。予知能力のようなものだったり、相手のうちにあるもう一人の誰かが見えたり。そんな時は鬱状態に陥っていることが多いの。しかも、不思議なことに、その鬱状態は、ある一人の人だけにしか見せないの。なった時に最初に見せる相手にしか見せようとしない。あの子が選んだのは、あなただったということなのよ」

「じゃあ、先輩は僕の中に誰かを見たということなのでしょうか?」

「あの子は言っていたわ。『人間誰しも、自分の中にもう一人がいて、その人がたまに出てくる人もいるけど、ほとんどの人は、隠しきってしまうんだ』という話なの。信じられないけど、今の私ならあの子が言っていることの意味も分かる気がするの」

「じゃあ、お母さんは、その言葉を信じているんですね」

「ええ、だから私も、今あなたの中に、もう一人の誰かを見ることができるのよ」

「もう一人の僕ですか?」

「ええ、そして、そのもう一人のあなたというのが本当のあなた。今、私と話をしているのは、最初はもうひとりの自分として中に入っていたあなたなんでしょう? でも、それでもいいと思っているのよ。私には、息子と一緒にいたあなたも見ることができる。今表に出てきているあなたは、私のために出てきてくれたんだって思っているわ。ありがとうね」

 ここまで言われると、信治は自分のことが分かってきた。

「お母さんの話を聞いていると、僕にも分かってきました。お母さんと話をし始めて、先輩が僕と三度待ち合わせたという話をした時、僕は気持ちが入れ替わったんだね?」

「ええ、そうなのよ。きっと、私があなたに息子が死んだのを伝えなかったのは、あなたが自分から私を訪ねてきてくれるのを待っていたのかも知れないわね。あなたと息子が三回目に遭った時、どこに行ったのか、私には分かる気がする。別にあなたが恐縮する必要はないんだけど、その時に出会った女の子の気持ちが、今私の中に宿っているような気がするの。あなたが訪ねてきてくれることで、私はあなたと正面から向き合えるような気がするのよ」

「僕は、普段から孤独が好きで、人と関わることを嫌っていたんだけど、もう一人の僕も同じ気持ちなんだろうか?」

「そうよ。もう一人のあなたの方が、その思いは強いの。だから、あなたの身体の中にじっとしていられたの。出てこようと思えばいつでも出てこれたのにね。だから、もう我慢する必要なんてないの。私にはあなたが必要だし、私にもあなたが必要なのよ」

 信治は頭が混乱してきた。

「私とあなたは、二度出会った。でも三度目はなかったのよ。あなたは私を捨てて、他の人に走った。でも、あなたは後悔して私の元に戻ってこようとしてくれたんだけど、私はそんなあなたを待つことができなかった。だから、二人は永遠に出会うことはできなくなってしまった。そう、あなたと私の三度目は、なかったのよ……」

「君は恨んでいるのかい?」

 信治は頭が混乱しながらでも、彼女に話しかけている。

 この言葉は自分が思っていることには違いないが、

――決して口に出してはいけない言葉だ――

 と思うに違いなかった。

 しかし、勝手に口から出てくる言葉を、跳ねのけることはできない。

「恨んでなんかいないわ。だって私もあなたを待つことができなかったんですもの」

「でも、それは僕が招いたこと」

「違うの。あなたにそうさせたのは私の態度だったのかも知れないと思うと、あなたの中にあるターニングポイントと、私の中にあるターニングポイントとでは、違っているの。それが、二人を永遠に遭わせてくれることのなかった運命の糸なのかも知れないわ」

 信治は頭で考えていた。

――僕はこんなことを考えるのが嫌で、孤独を愛するなんて思うようになったのかも知れない――

 自分が育ってきた環境や年齢にともなっての考え方からでは、決して生まれない考え方だった。

 誰かをいとおしいと思うなんて初めてだった。これは信治としては、ありえないことなのだろう。しかし、縁があって先輩と知り合い、そのことがお母さんの恋愛を成就させることになった。

「僕の運命はいつから、あなたに向いたんだろう?」

 これは信治としての思いだった。

「きっと、私があの子を生んだ時から運命だったのかも知れないわ。実はあの子、本当は私の夫との子供ではないの」

「えっ、じゃあまさか?」

「ええ、そうなの。あなたとの子なのよ」

 その言葉を聞くと、信治の中からまたもう一人の自分が反応した。

「そうだったんだね。何となくそんな気もしていたんだ。でも僕が彼の中に入ったのは、僕の意思ではないんだよ。僕はあれから別の女性とお付き合いをしたんだけど、うまくいかなくてね。何をやってもうまくいかない。君を見限ってしまったことに後悔し、戻ってみるなんて虫の良すぎる行動を取ったこともあってか、またしても。後悔の日々さ。後ろ向きにしか考えられない男の人生なんて、ロクなことはないよね。結局、酒に溺れて、気が付けば、足を滑らせて川に転落。そのまま死んでしまったようなんだ」

「この世に未練があったの?」

「あったとすれば君に対してなのかも知れないね」

「私はあなたを待つことができなかった。もし、お腹の中にあなたの子供がいなければ、ひょっとすると受け入れたかも知れない。その時、私に恋い焦がれてくれている人がいて、その人は、私が妊娠していることを分かってくれて、それでも結婚してくれるって言ったの。私は嬉しかった。そんな時にあなたが現れたのよ。子供のことを考えると、私はその時、あなたが子供の父親にはふさわしくないと思ったの。その時の状況なら、もし今あの時に戻ったとしても、同じことをしたと思うわ」

「それで、君に後悔はなかったのかい?」

「ええ、後悔はなかったは、唯一、息子が父親が違うことに気づいたらどうしようとは思ったけど、旦那がしっかり私を支えてくれた。だから、後悔しないで済んだのよ」

「そうだったんだ」

「でも、あなたのことは忘れられなかった。もちろん、後悔とは別にね。楽しい思い出になんかできない。楽しい思い出にしてしまうと、息子に悪いし、あの人にも申し訳ないと思ったからね」

 信治は少し考えてしまった。

「私はあなたと別れてから、あなたに三度会った気がしているのよ」

「えっ?」

「一度目は、息子が小学生の頃に、川で溺れていた息子を助けてくれた男性がいたのよ。その人は、息子を助けてくれたにも関わらず、何も言わずに立ち去ったというの。私はあなただって確信したわ。助けてくれているところを目撃した人がいて、その人の話を聞いただけなんだけど、やっぱり親子なのかなって思ったわ」

「その時のことは覚えている。子供が川で溺れているのを見て、放ってはおけなかったんだ。でも、その時は、借金取りに追われていたので、のんびりもしていられない。衝動的に子供を助けたはいいんだけど、すぐにその場を立ち去らなければいけなかったんだ。でも、面白いもので、結局僕が死んだのは、ちょうどその川だったんだよね」

「そうだったの。それも運命だったのかしら?」

「そうかも知れないね。それでもう一度は?」

「今のあなたが、息子の後輩として一度家に来てくれたことがあったでしょう? あの時私は後輩の中にあなたを見たの。だから、なるべくあなたに顔を見せないようにしたんだけど、後輩さんはきっと私と会ったという意識はなかったかも知れないわね」

「恥ずかしい話、僕にも君だってすぐには分からなかった。それが二度目だったんだね?」

「ええ、じゃあ、ひょっとすると、今が三回目?」

「ええ、やっと三回目であなたに会うことができた」

「呪縛のようなものがなくなったからということなんだろうか?」

「いいえ、違うわ。私の中にも誰か違う人がいて、その人が、後輩さんに会いたいと思ったから、会うことができたのよ」

「一体、誰なんだろう?」

「その人が言うには、その娘は生まれる時に死んでしまったらしいの。本当は一卵性双生児として生まれてくるはずだったんだけど、生まれてくると、その時は後輩さんだけが生まれてきて、その秘密は両親と本当に一部の人しか知らないということなの」

「えっ、僕には姉か妹がいたということなんですか?」

 今度は信治が出てきた。

「ええ、彼女は、生まれてくるはずだったんだけど、その栄養をあなたにあげたために、生まれることができなかった。きっとあなたが孤独を好きになった理由は、そのことに起因しているんじゃないかって彼女は言うの」

「全然知らなかった」

「そうでしょうね。それでね、生まれてくることができなかった彼女は、その時々で、いろいろな人に入ることができるの。それも無限にね」

「じゃあ、一度生まれてきて、途中まで生きた人は?」

「その人たちは、二度目が限度なの。三度目を考えた時、意識の中で『三回目はダメだ』って気づくので、三度目をしないようにしているらしいのよ」

「もし、三度目をやってしまったら?」

「その瞬間に、思考能力は分裂してしまって、二度と元に戻らない。そのまま中途半端な状態で無限に彷徨い続ける運命が待っているのよ。生きている人は、思考能力が分裂しても、崩壊しない限り、また元に戻る可能性を秘めている。そこが生きている人と違うところなのよ」

「じゃあ、僕は妹か姉さんに会ったことが今までにあったんだ」

「そうね。あなたはごく最近も会っているはずよ」

「えっ? いつなんだろう?」

「あなたは、懐かしく思ったはずだし、相手もあなたに会うのが初めてではないと気付いたはず。彼女はあなたに会いたくてその人に入り込んだんだけど、あなたのことを兄妹以上に思ってしまうことを懸念して、なるべく薄いところであなたと出会ったの。遠くから見ていたとでもいうべきかしら?」

「遠くから見ていた?」

 そういえば、この間、先輩に連れていってもらった風俗で、友香に会った時、今の話を彷彿させる思いをした。そのことを思い出すと、友香のぬくもりが身体が覚えていて、次第に火照ってくるのを感じた。

――あの時だったんだ――

 今から思い出しても、まるで昨日のことのように思い出せるのだが、あの時に、友香の中に誰かがいたなどという意識は、話を聞いても思い出すことはできなかった。

「世の中には自分に似た人が三人はいる」

 と言われる。迷信としては面白いが、自分にはまったく関係のない他人事にしか思えなかった。

 それは、自分が孤独だという思いが強かったからで、孤独というものがすべて他人事として、しかも相手を見下ろしている自分に快感を覚えていたのを思い出していた。

 そんな感覚を、

――ちょっと違うんじゃないか?

 と感じさせたのが友香だった。

 友香との出会いは、初めて孤独に疑問を感じさせるものだったが、一緒にいて話をしている間に、

――やっぱり、孤独は自分のポリシーなんだ――

 と思い返していた。

 思い返したことで、今度は余計に孤独への思いが強固なものになった。

 そういえば、友香との間で何か大切な話を聞いたような気がしていたのに忘れてしまったことがあったのを思い出した。

 どうして思い出せなかったのか分からないが、よく思い出したものだと思う。

「女ってね。いつまでも待てないものなのよ。あなたが気づいてあげなければいけないのよ。相手にとっては切実なものなのよ」

 と言っていた。

 てっきり、

「あなたを好きな人がいてもあなたが気づいてあげなければ可哀そうよ」

 という忠告に思えたが、今から思えば、それは姉が、

――私のことを忘れないで――

 と言いたかったのだろう。

 先輩のお母さんと話を終えたが、結局、姉は出てきてくれなかった。きっと、三度目の呪縛を恐れたからなのかも知れないが、今から思えば、

「忘れないで」

 という言葉、身に染みて感じていなければいけないのだろう。

「今後、姉と会うことができるのだろうか?」

 と夕凪の街を歩いていると、風が吹くはずのない夕凪の時間に一陣の風が吹いてきて、

「大丈夫、いつでも会えるわよ」

 という声が聞こえたような気がした。

「自分に似た人、探してみようかな?」

 漠然とそんな風に感じながら、夕凪の風を感じながら、足元の影を意識するように河原を歩いていくのだった……。


                  (  完  )

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三度目に分裂 森本 晃次 @kakku

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