「氷華病」という、胸に氷の花が咲く病に冒されたイスー姫を救うために、彼女を慕う奴隷のケンが、薬となる「火焔の実」を取りに、命がけの冒険に出る……。
物語の大筋は、とてもシンプル。
けれど、それに相反するように、人の感情や、この世界の在り方が非常に細やかに描かれていて、思わず、のめり込んで読んでしまいます。
「病に冒された姫」と聞くと、イスー姫は、か弱くて、儚い姫君のように感じられることと思います。
ですが、違います。
もともとの彼女が、どんな人物で、どんな考えの持ち主なのか……それを知ったとき、主人公のケンの気持ちが、痛いほど伝わってくることと思います。
何も知らない「お姫様」ではない、輝く太陽のようなイスー姫だからこそ、ケンは旅立つ……。
ふたりの純愛が、胸に響きます。
また、個人的にとても贔屓にしているキャラクターが、『馬』のエオウです。
『馬』です。人を乗せて走ってくれます。
けれど、この世界の馬は、人間の姿を取ることができます。
獣人と呼べば説明としては分かりやすそうですが……しかし、獣人とも少し違う気がします。
どう考えても、この物語の世界にしかいない『馬』。ファンタジー世界の種族ですが、現実的な生態が描かれており、本当にそんな種族があってもいいのではないかと思えてきます。
そんな『馬』のエオウは、ケンにとって、明るい旅の相棒。ケンとは子供のころからの付き合いで、旅の時点ではケンは青年、エオウは「おっちゃん」…………。『馬』なので、歳のとり方が違うのです。
エオウにスポットの当たる、エピソード(『4.火の降る島と水の国』の序盤)では、彼の境遇の理不尽さに、本当に泣きました。
彼の叫びに、胸が締めつけられます。
現在、最大の山場です。
手に汗を握りながら、読ませていただきます!
王都から離れた小城に住んでいる快活な王女イスー。その王女に拾われた奴隷ケン。
中央宮殿のしがらみに縛られることなく育った二人は、自由にそして抑圧されることなく育ちます。ただ、奴隷であるがゆえにケンは常に一歩下がるしかありません。
そしてイスーが十五歳の成年式を迎える日、彼女が病に侵されたことで穏やかだった日常は一気に暗転します。
あらぬ嫌疑をかけられた王女イスーに対する非情な仕打ち、去っていく人々、治らない病──。奴隷のケンは、なんの力もなくそれを見ているしかありません。
そんなある日、彼に王命が下るのです。
奴隷であるがゆえにケンが抱える歯がゆさ、王女イスーに対する秘めた想い、そして王女イスーの心の揺れ、二人を取り巻く人々の温かさや嫌らしさ、これらが丁寧に綴られた物語は、ある種の緊張感をもって二人の過酷な運命を読み手に突きつけてきます。
二人の運命はどうなる? 身分差の純粋な恋の行方をぜひぜひ追っかけていただきたいと思います!