第17話 エピローグ

 長いようで短かった夏休みが終わり、出藍学院中等部でも2学期が始まっていたある日の放課後、ミステリー研究部の部室の窓から外を眺めていた優吾が、

「ここからの景色は変わらないと思っていたけど、なんかガンガン変わってるよね」

「誰のお陰でしょうかねパイセン…祠は移設した方が良いと思います。この丘は古墳なんで、キリッ!とか言った人のせいですよね」

「だよな~、なんも出なかったらどうしよう?」

「大丈夫よ、地中探査レーザーによる調査もした上で、出藍大学院の考古学研究室チームが発掘作業にあたっているんだから」

と、麗奈が応えた。

「そうだよね、たかが中学生の戯言たわごとで大金投じないよね。責任なんて取れないし…取る気もないけど」

「あら?別に古墳については責任取らなくても構わないけど、婚約についてはキッチリ責任取ってもらいますわよ」

「ハイッ!麗奈との結婚については誠心誠意、対応させていただきます」

「もうっ、他の皆さんもいるんだからあんまりハッキリ言わないでよ。照れるじゃない」

 顔を真っ赤にした麗奈が、両頬を押さえて恥ずかしがっている。

 だが、洞窟の一件からすでに何百回と繰り返さているやり取りに部室にいる他の皆さんからは、またですかのジト目しかない。


 優吾としてみれば、麗奈にプロポーズをしたのは事実だが、年齢的な事や蒼未家の跡取りとなる麗奈の立場的にも即時却下されるだろうと思っていた。

 ところが蓋を開けてみたら大歓迎されてしまったので、不思議に思い麗奈に理由を聞いてみた事があった。

 麗奈によると、洞窟の結界を解除した時に忍おばあさんの意識が怒濤の如く流れ込んで来たらしい。曰く、ほとんどか巫女として受け継ぐ内容だった様だが、最後に『そこな男子、蒼未が仕えるべき激レア物件なり、必ずゲットすべし!ったらすべし!』とのお告げを残していったらしい。

 それを聞いた優吾は、忍さんて戦前生まれで戦争前に亡くなったのに、激レアとかゲットとかどこで言葉のアップデートしたのと疑問を投げかけた。

 そうすると麗奈は、『忍おばあ様は蒼未家歴代最強巫女だからね。多分わたくしの意識に直接アクセスしたからでしょ!』と気楽に答えてくれた。

 そんなことを、事情聴取の最中に蒼未家の3世代で話し合っていたらしい。

 結婚自体は2人とも18歳までは無理なので婚約という形になるが、当然優吾が蒼未家に婿入りする形になるので、優吾の家族に話を通すこととなった。


 それを聞いた両親の反応はと言うと、父親の大吾は蒼未忍殺害事件で被疑者死亡による不起訴処分を上に納得させるために、えらく苦労したとぼやきまくっていた。婿入りに関しては優吾に任せると言ってくれた。

 問題は母親の華である。一連の話を聞くと、歴代最強巫女であり悲劇の主人公でもある蒼未忍について、小説を書きたいと言い出したのだ。それが許されるのであれば、のしを付けて優吾を差し出すとまで言いやがったと、優吾は少し根に持っている。

 まぁ飛後家にはもう一人、妹の彩もいるしなと言った大吾に対し、華がもう一人いるよと自分のお腹を指差した時の、大吾の顔は見ものだったと両家で語り継がれている。


 その華であるが絶賛妊娠中にも関わらず、許可をもらった学院図書館の書庫で蒼未家の史料を読み漁っている。 

 休憩時には那智や樹里とお茶会をして、ガールズトーク(本人曰くだが、オバトークじゃないのと言った優吾がどうなったかは想像にかたくない)に花を咲かせているらしい。

 妹の彩は、その話を聞いた時に口を大きく開けたまま固まってしまった。優吾はここぞとばかりに携帯で変顔写真を撮りまくったのは彩には秘密である。

 今では堂々と麗奈お義姉様と呼んでいいのは、自分だけだと吹聴ふいちょうしまくっているらしい。

 そんな訳で、すっかり蒼未家では婿どの呼びされるようになってしまった優吾であるが、他の蒼未家の親族に紹介されたときに、麗奈の伯父さんにあたる蒼未龍樹にガン見されたのが印象的だった。

 他の親族が友好的だったのに対し、龍樹だけは反応が明らかに違っていた。女尊男卑の蒼未家で異質の存在に思えたのかも知れないなと優吾は勝手に解釈して、今後面倒な事にならなければいいなと思っていた。


 発掘作業が行われている小高い丘の方を眺めながら、優吾はふと思いつき、

「そういえば、移設された祠ってこの後どうするの?」

と麗奈に尋ねた。

「おそらく学院の敷地内に正式なやしろを建てて、そこに奉納することになると思うわ」

「そっか、じゃあその時に麗奈は巫女職を継ぐのかい?」

「ん~?どうしよっかな~。優吾はわたくしに巫女やってもらいたい?」

「正直、忍さんの非業の死を目の当たりにしちゃうと賛成しかねるかな。でも、麗奈の巫女装束姿は魅力的だったからまた見てみたい」

「ホント!じゃあ優吾専属の巫女になる」

 優吾と麗奈が窓際で楽しそうに話しているなか、それを見ていたみことはリア充はぜろとジト目になり、矢部と若杉に至っては互いの手を取り、見つめ合って2人の世界を構築中である。

 千鶴は、将来有望そうな優吾に近づくため、上級生の男子3名をレアカードの売却を匂わせて利用したのに、意味なかったじゃないと残念がっていた。意外と打算的なツインテールっ娘である。


 そんなこんなで、今日も表面的には平和なミステリー研究部の部室に、古墳発掘現場の方から新しい発見でもあったのか、大きな歓声が聞こえて来た。


 

 



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