卒業と遠景

nes

卒業と遠景

ゲームなら見えない壁がありそうな教室の窓に雪あふれだす


黒板をざっくりと消すせんせいが気遣ってくる昼の孤独を


曇りのち晴れの経過はとろけゆくカステラに似て寒さあかるい


雨とともに水仙の散る朝がきて 耐えられる、身体の痛みなら


朝こそがファルセットにはふさわしく歌声のような放射冷却


変声前、そして変声後の空が校庭の空に重なっている


あきらめたわけではなくて初蝶がとびたつような撤退だった


それがアッチェレランド ぼくらの一日が割合として減っていくこと


公園に禁止事項がふえてゆき内のひとつに告白がある


創る って各地の砂を一グラムずつ積み上げた砂の尖塔


もし舌に乗せられるなら夕ぐれの鴉のこえを選んだだろう


侵略。いつだって陽の傾けばえいえんがこわれてゆく温度


ブランコは乗り終えられて生きたさのようにだんだん動かなくなる


三月をかき消していく陽が射してあらゆる卒業とはなにかの死


純潔と春泥 枕にしずみゆく部位があえかにねむりはじめる


アイドルがアイドルをするように人は人をしている(偶にまちがう)


家電とはいっせいにこわれるもので太陽系が終わりゆくとき


春がきてしまう はじめの一音がずっとこの世に似合わないまま


逆上がりできないことを忘れてたことを忘れて白夜めく街


恋だったものをうしなわないように遠景の桜だけを見ていた

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卒業と遠景 nes @nes_mochir

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