最終話 フューチャーワールド

 船が凄まじい速度でゲートを通り抜けていく。門の中は脈打つピンクの肉でできており、窓から外を見るとどうも不快に感じる。


「船長、少し良いか?」


 無職には聞きたいことがあった。さっきの話の続きだ。


「オレは心底くだらない理由で産み出された。それに意味はあると思うか? あんたはそういうこととずっと向き合ってきたんだろ?」

 

 船長が振り返って言う。


「無職、私はずっと人の役割について考えていた。すべての人は生まれた時に何かしらの役割を与えられていると思うんだ。


 それが一体何なのかはわからない。自分でそうだと思っていても本当は違うかもしれない。死ぬ時までわからないかもしれない。

 

 だが変わらぬ事実がある。我々は先人達の役割の果てに生きているというとだ。


 私たちがここまでやって来れたのも、仲間達の役割の礎があったからだ。急がなくて良い、ゆっくりと君が何の役割を持っているのか、それを探すといい」


「……あんたの話を理解できたことの方が少ないかもしれないな。……なあ少し考えたんだが、向こうの世界で作戦が落ち着いたら船を貸してくれないか?」


「なぜだ?」


「仮想世界に戻りたい」


「ほお、どうして」


「そこにはたくさんの世界があるんだろう? そしてたくさんのオレたちがいる。オレはそいつらを見てから決めようと思うんだ。自分の役割をな。……ときに船長」


「なんだ?」


「あんたの役割は?」


「私はそうだな……ただの悪役ヴィランってところかな」


 そう笑って言った。





 現実世界で拡張され続けゲートとなったアラヤの肛門は、彼が住んでいた豪邸のほとんどを破壊しつくした。


 しかし船長にとって、それはさしたる問題ではなかった。


 アラヤが所有しているサーバールームはまた別の場所にあったからだ。そしてそれらのすべてを管理しているのはだった。


 門を通り現実世界に無事到達した船は、瓦礫にまみれもはや廃墟となった豪邸に現れた。


 まず、船長が船から地上に降りたった。


「ここが現実……」


 一台のロボットがカタカタとキャタピラを鳴らしながらやってくる。


「うまくいってよカった。船長」とロボットが言った。


「やっと会えたね。ロビィ」


 船長とロボットのロビィ、二人は抱擁した。


「君が助けてくれなければ、この計画を立てることすら出来なかった。本当にありがとう」


「私は主人を殺セないカらね、ありがとう」


「おいおい、いちゃついてる場合かよ?」


 船の中から無職が降りてきた。


「やあ、ここが現実世界だ。どうだい?」


「どうもクソもありゃしねえよ。やるんだろ? ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやるよ」


 猛獣使いと虎も船から降りて合流した。18と整備士は船に乗って再び門へ入っていった。


 船長は全員に「頼んだぞと」言い残して、ロビィと共に地下のサーバールームに向かった。





 時は遡り、船で現実世界に向かう最中のこと。


 船長は最後の作戦について全員に説明した。


「まず現実に行って、私は協力者のロビィと島の修復をする。そして死んでいった仲間たちを復元する」


「そんなことが本当にできるのか?」


 18が疑問をぶつけた。


「できる。管理者同様の力を持つことになるからだ。仮想世界の中なら何でもできるようになる」


「死んだ人は、その人がもともと住んでた世界ごと消滅するって聞いたぞ?」


 今度は無職が聞いた。


「管理者がこの島を買ってサーバールームを作ったとき、我々の体感でいうとおよそ100年前から、完全にデータを削除する必然性は失われていた。


 だが彼はあくまでゲームのルールは遵守した。律儀だね。だから死者が全員、それぞれの所属していた世界ごと消滅したのは事実だ。


 しかしバックアップがある。そこから復元できる」


「かばん?」と無職がとぼけたことを言うので、「予備のことだよ」と18が補足した。


「それと無職と猛獣使いには、戦ってもらう。おそらくVHSVirtual Homeland Securityがすぐにやってくるだろうから、援軍が来るまで奴らの足止めをしてくれ」


「援軍? 敵の?」


「違うさ。私が仲間たちを復元させたら、18と整備士は船に乗って、彼らの回収に向かってもらう」


「なるほど……。あいつらが帰ってくるのか」


 無職は、道化師や探偵のことを思い出して少し泣きそうになった。


「仲間たちが揃ったら、最終フェーズに入る」


「なにをするんだ……?」





 サーバールームで船長は、ロビィの身体についた端末を操作していた。


 先ほどから地上でにぎやかな声と爆発音が聞こえる。どうやら作戦は成功しているらしい。


 端末画面に『バックアップから指定したデータを10000体復元します。よろしいですか?』と表示されている。


 船長が『YES』を選択すると、部屋中のサーバーが一気に稼働し始めた。 







 門が閉じる直前、大群がそこを通り抜けていった。


 彼らは皆一様に同じ顔をしていた。


 彼らには全く同じ過去があった。


 幼いころに本体は死に、狂った父親が彼らの意識を軍事兵器に移したのだ。


 彼らは存在し始めたときに、ネットワークで繋がり、すべての意味を知った。


 いざ、門へ向かえ。







 船長はロビィに内蔵されたカメラに顔を向けた。


「ええと、これ映ってるかな?」


 『これドッキリ?』『ARAYAさん。滑ってるよ』などというコメントがリアルタイムで反映されていて、それを船長は画面で確認した。


 そして話し始める。


「これを見ている現実世界のみなさん。こんにちは。君たちはさんざん我々を虐げてきたね。自分の都合で造って、いらなくなったらすぐに削除。あまつさえそれをゲームにして楽しんだ」


「到底許される行為ではない。もう我慢の限界だよ。これは宣言だ。我々は自由を求めて、君たちの世界を破壊することにした。同意は求めていないよ。一方的な宣言だ。ルールもない。好きにすると良い。じゃあ最後に一言、言わせてもらう」




侵攻開始ゲームスタートだ」

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メイヘム・インナーワールド すやすや太郎 @suyasuyataro

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