大文字伝子が行く141

クライングフリーマン

パウダースノウからの挑戦(8)

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。伝子に時々「クソババア」言われる。学を「婿殿」と呼ぶ。

 藤井康子・・・伝子マンションの隣人。料理教室経営者。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の伯父。EITO前司令官。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。やすらぎほのかホテル東京支配人

 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。

 幸田仙太郎所員・・・南部興信所所員。

 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。

 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋財閥総帥。総合商社芦屋会長。EITO大阪支部のスポンサー。総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。

 中山ひかる・・・伝子の後輩の愛宕の、以前のアパートの隣人。伝子達の知恵袋として協力している。この春に、伝子達の卒業した大学に入学、伝子達の後輩になった。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==


 午後4時。伝子のマンション。

 丸々24時間前、衆議院第二議員会館は燃えていた。放火の犯人は、志田前総理の息子だった。

 高遠はLinenのテレビ電話で依田と話していた。「週刊誌が騒ぐから、志田前総理が秘書官辞めさせて、議員会館の秘書になったって話だったけど、気にいらなかったんだな。」

 「うん。でも、リストに載っていたのは議員会館の職員なんだ。あの息子との接点は会館だけだが、息子は単に自棄になってただけで、その職員に何の恨みもないことが分かったんだ。パウダースノウとの繋がりも無かった。5時から副総監がオンライン記者会見をするそうだ。」

 「謎だらけだな。ディズニーの方も、恨まれる理由が分からないんだよな。闇サイトに投稿した人間は、単に知ってる人間の情報でいたずら気分だったか。」

「だろうな。」「おっと、団体さんが到着だ。またな。」依田の通話は切れた。

 午後5時。高遠がテレビをつけると、ニュースで、道頓堀川に浮かんでいた男が、殺人予告リストに載っている人物だと判明した、と伝えていた。

高遠のスマホに、総子から電話がかかって来た。

 「伝子ねえちゃんのスマホ、応答ないさかいに。ゴメンやで、学兄ちゃん、忙しい最中かも知れんと思ったけど。」「いいよ。忙しくは無いよ。」

 「あんなあ。ニュース見た?」「今見たのは、道頓堀川のニュース。それのこと?」

 「ウチらが関わった事件で追ってた人物やねん。」

 総子は、幸田達が助けた人物が、道頓堀川に浮かんでいた人物に殺されると思い込んで自殺未遂したこと、その助けた人物が、半グレと『えだは会』の陰謀で、自殺に追い込んで殺す為の薬の実験台にされていたことを説明した。

 「小柳警視正は、明日、副総監に『東京在住』の思い込みを止めるように記者会見するように申請するって言ってたけど、多分早まるわ。」

 「もしもし。芦屋三美です。今、総子ちゃんの実家でご馳走になってるの。高遠さん、『全国区』になったのよ。殺人予定者が。多分、EITOの大阪支部から連絡が行って、東京本部でも善後策を練っていると思うわ。」

 総子のスマホを横取りして、三美は話した。

 「エマージェンシーガールズは、待機中?警視庁のリスト調査を手伝っている、とも聞いているけど。」

 「ああ。警察組だけですね。自衛隊組は、訓練して待機。僕は、分業して、EITO東京本部でも手伝った方がいいかな、って、今思ってたところです。三美さんは、全国区になったら、益々情報整理がてんやわんやするって、心配されているんですよね。」

 EITO東京本部の隊員は、大きく分けて警察からの出向勤務または警察からの再就職の組と、自衛隊からの出向勤務または自衛隊からの再就職の自衛隊組で成り立っている。

 敵の逮捕連行または取り調べには、警察組が関わり、警察への出入りは警察官の制服で行う。自衛隊組は、警察への出入りはエマージェンシーガールズ姿のみと決められている。それで、殺人予告リストの情報整理は、本来の警視庁勤務の警察官に EITOの警察組が応援に入っている。

 「流石、EITOのエーアイね。じゃ、高遠さんから提案してあげて。」

 電話が切れた後、高遠はEITO用のPCを起動させた。すぐに、司令室を通じて会議室に繋がった。

 「理事官。記者会見の前に、『既に調査員を増員している』という既成事実を作りましょう。マスコミの攻勢は目に見えていますから。自衛隊組には、電話応対は出来ませんが、メール等の情報の振り分けをして貰えば、作業が捗ります。情報には、明らかにリストと関係ない情報が含まれている筈です。振り分けた情報の内、再確認が必要な情報だけ、警察でやりとりして貰うんです。極めて『事務的』な作業で、不満な隊員もおられるかも知れませんが。」

 「うむ、いいだろう。河野君、久保田管理官に連絡を取ってくれ。増員の身元を尋ねる記者には、ボランティアだと伝えればいい。それでいいかな?大文字君。」

「隊長として言わせて頂ければ、よいアイディアなので、文句はありません。妻として言わせて頂ければ、夫には従順ですから、逆らいません。」

 平然と言う伝子に、「まあ、おねえさまったら、部下の前で惚気るなんて。でも、そういう、おねえさまが好き。みんなは?」と皆に尋ねた。

 「愚問ですよ、副隊長。」と、増田が言った。皆、笑っている。

 午後6時半。夕食を支度している時、伝子からメールが来た。

 文面には「当分帰れない。」と、ある。

 「分かってますよー。」「何が分かってるの?」と、綾子が入って来た。

 「お義母さんが来ると思って、夕飯用意しておきました。」と胸張って言う高遠に、「嘘おっしゃい!」と、綾子は舌を出した。

 午後8時半。「誘惑しちゃダメよ。」と、いつもの下らない冗談を言って、綾子は、奥の部屋に消えた。

 高遠は、書きかけの原稿を眺めていたが、ひかるにLinenのメッセージのやりとりを始めた。

 [今、副総監の記者会見を見たよ。大変だなあ。ここ、京都でも、リストに載っている該当者がいるかも知れないんだね。この前は成田空港で見つかったし、ひょっとしたら、関空から京都に戻ってくる人もいるかも、京都出身の人で。]

 [ひかる君も、何か情報掴んだら、警察に言ってね。僕らには、その後でいいから。]

 [了解。]

 翌日。午前9時。気乗りはしなかったが、高遠は原稿の続きを書き始めた。

チャイムが鳴った。筒井だった。「筒井さん、もう大丈夫なんですか?」

 「俺を誰だと思っている?T.S.U.T.S.U.I.筒井だぞ。」「笑えないですよ。」「すまん。コーヒーくれ。リハビリの通院は必須だそうだ。CTやMRIは正常だったが。」

 「筒井さんは、どう思っているんです?」「パウダースノウか?色んな仮説はある。ブレーンストーミングをしよう。何か書くものあるか?」

ブレーンストーミングとは、複数の人間が自由な発想で意見を出し合うことで、新しいアイディアを生み出す、会議の手法のことである。必ずしも、その場で結論を出すとは限らない。普段、伝子と高遠は、お互いを尊重しあいながら、ブレーンストーミングを使って、難局を脱する。

 高遠は、電子パッドを持って来て、専用ペンを渡した。

「ここには、何でもあるなあ。まずは、『計画』だ。」

 筒井はパッドに『1.計画』と書き込んだ。「遅いと思っているのは、単に我々の思い込みかも知れない。」「詰まり、予めスケジューリングされているということですか。」

 「うん。どうやら、ダークレインボーには、幹同士干渉しない、という不文律、詰まり、所謂『暗黙の了解』があるらしいことは分かっている。」

 「筒井さん、大元の『木』の『鉄の掟』の場合もあるんじゃないですか?」

「それは、否定出来ないな。今までに事件が被ったのは、『えだは会』のものだけだった。幹同士は絡んでいない。不思議なことだが、幹が倒された後は、枝葉は切り捨てられるようだ。我々が、『根こそぎ』捕まえられなかっただけかも知れないが。次、行こう。次は、『移動困難』だ。」

 筒井は、『2.移動困難』とパッドに書き込んだ。

 「移動困難?あ。旅行中とか?前の幹がいつ『終了』するか分かりませんからね。」

 「うん。枝がリモートで動かされているなら、作戦の終了のタイミングが把握出来ないかも知れない。」

 「作戦って、殺人予告リストの殺人ですか。成程。旅行って言っちゃったけど、オコルワナかオトロシアに行ってた場合、すぐに帰国出来ない場合もありますね。だから、移動困難か。」

 「うん。次は、『幽閉』だな。」筒井は、パッドに『3.幽閉』と書き込んだ。

「幽閉?誰かに捕まっている?馬鹿な。幹ですよ。」「分かっている。でも、枝にも幹相当の実力者がいるかも知れない。我々は、どんなネットワークか捉えていない。それに・・・。」

 「それに?」「今の考えは、『えだは会』の場合だが、8人目の幹が絡んでいる可能性もある。我々はダークレインボーという名前から、7人の敵幹部というイメージを作ったに過ぎない。マスコミにもそう発表したが、確たる根拠はない。それと、矛盾するようだが、8人目の幹部がパウダースノウに干渉する場合だってある。まあ、今までの仮説は全て可能性だ。はっきりするのは、パウダースノウを追い詰め、逮捕した時だ。」

 「冬眠っていうのはどうですか?」「おい、もう春だぞ。」「何らかの理由で、枝の1人に、リスト公開を命じておく。突発に見える殺人は、枝の判断で行っている。」

 「面白い。書いておけよ。」高遠は、パッドに『4.冬眠』と書き込んだ。

「そろそろ、帰るよ。」筒井は、煎餅を幾つかポケットに入れ、帰って行った。

 午前11時。

 山村編集長がやって来た。電子パッドを見付けて、「何これ?」と尋ねるので、高遠は、筒井との考察を話した。

 「この、移動困難の場合、スマホの電波が届かないのかもね。あるいは電池切れで充電出来ない。」「海外ならあり得ますね、編集長。流石、頭の回転が早い。」

 「おだてなくていいわよ。当面、帰れない、ってメール来たから、確認に来たのよ。」

 「ああ。全国区になったでしょ?情報の整理に人海戦術ですよ。」

高遠の言葉に、「ふうん。で、あんたは『鬼のいぬ間の洗濯』か。」と高遠に言った。

 「普通の洗濯ですよ、ほら。」と、高遠はベランダを指さした。

 「ふうん。大文字君。大きいブラね。Dカップ?」「Eカップです、今は。」

 「今は?・・・あ、妊娠したから?」「まあ、そうですね。」

 「高遠ちゃんは、女房孝行に勤しんでいる訳ね。分かった。あ、そうだ、知り合いの社長さん達、保護されて感謝してたわ。コロニーの時より厚遇されているかもって。じゃ、帰るわね。」

 高遠は、編集長の言葉に刺激されて、もう一つの『可能性』に思い当たっていた。

うたた寝をしていると、藤井と綾子が訪ねてきた。

 「あらいやだ。婿殿。どんないい夢見てたの?涎が垂れてるわよ。」と、綾子が言った。

 綾子がTVをつけると、ニュースで立てこもり事件を報道していた。

 化粧品メーカーで有名な犠牲堂本社ビルに、元社員が立てこもったのだ。

 瞬く間に、SATが突入し、人質の社員達は解放された。

 エマージェンシーガールズはEITOのオスプレイで駆けつけて、降りようとしたら、夏目から中止命令がきて、オスプレイはUターンした。

 「今、降りると、マスコミに叩かれるだけだしな。まさか情報整理の為にPCにかじりついてました、なんて言えないし。」

 「婿殿。いえ、学さん。婿になってくれてありがとう。あの子を色んな面で支えられるのは、あなただけよ。」

 「あ。ありがとうございます。」高遠は洗濯物が気になった。こんな珍しい綾子を見ると、天気が急変しないかと不安になる。

 台所で、藤井が何やら作っている。どうやら青椒肉絲だ。

 午後1時半。3人で遅い昼食を取った。

 午後2時。

 海外郵便が来た。ケンからだった。葉書には、短い文章が書いてあった。

 「何だって?」高遠は絶句した。

 ―完―

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