第2370話・近衛さんからの手紙

※お盆のSSを書いてみました。

 短いですが、興味のある方はどうぞ

https://kakuyomu.jp/users/oukei/news/16818093082811592814


Side:久遠一馬


 近衛さんから文と贈り物が届いた。


 季節ごとに送っている献上品は足利家を通す形にしたものの、今も続いている。そのことに対する返礼と、京の都に御還御された上皇陛下の近況、京の都の様子なども書かれている。


 贈り物はオレが個人的に贈った品への返礼だ。いろいろと懸念や変化はあるが、交流は続けているし、今後も続けるつもりだ。


 療養のためという名目で足利政権が近江へと移ったことで、京の都では変化がいろいろとあるようだ。このあたりはこちらでも情報収集に努めているが、オレが知りたいだろうことを察してが近衛さん知ることを教えてくれている。


 まず政所の伊勢さんと連携が取れるようになったことで、京の都の政は良くなったらしい。治安維持は主に三好家が担っているが、三好と政所の連携も上手くいくようになった、


 予算と人員を増やした成果もある。ただ……。


「人が集まっても集まらなくても不満はあるってことかなぁ」


 諸国から上洛する人は確実に減った。そのことを嘆く声が京の都で聞かれるそうだ。一方で各地から集まる人が京の都の治安を悪くしていたのも事実で、そんな人たちが来なくなったことを喜ぶ声もあるみたい。


 権威なんかは見えないからな。集まる人が減ったことで権威が落ちたのではと危惧する人もいるし。どうせ近江での政治なんて一過性のものであり、長続きしないだろうという見方も根強いんだとか。


 そりゃ平安の世から都だったところから見ると、そういう見方になるだろうね。


「京の都は難しいですからね……」


 現状は必ずしも悪くない。エルもそんな顔をしているが、先のことを考えると悩みが尽きないことのようだ。


 この件に関しては、明確な答えというか完璧な戦略や方針なんてものは存在しない。なにごとにもメリットとデメリットがある。


「当面は伊勢殿が上手くやるさ」


 現状で気を付けるべきことは、京の都に反三国同盟を集めないことだ。そういう意味では伊勢さんは頼もしい。


 彼が義輝さんと和解出来た最大の理由は、その時々の情勢に左右されたりしたりしなかったことだ。京の都における足利政権の維持しかしていない。将軍の意向も無視するので賛否があるし困った人でもあるが、細川晴元のように戦ばかりして京の都を巻き込むよりはいい。


 味方として京の都を任せるのは彼以上の適任者はいないだろう。


 無論、課題もある。


「懸念というほどじゃないけど、お金の面から考えると京の都って微妙だね」


 正直、京の都の維持には思った以上にお金がかかる。日ノ本の中心である都を維持管理するには京の都で得られる税収だけでは足りない。とはいえ、税制改革なんてやれるはずもないし。


 もともと足利家の財政基盤の脆弱さは致命的なほどだったが、応仁の乱以降の混乱や争いで、税なども義輝さんのところにほとんど入らないままになっている。家職なり管理している人が自分のものにしちゃっているからさ。


 ただ、これはほんと足利政権の体質というか体制が原因で、役職と一緒に財源なんかも世襲と家職化してしまっている。三好や伊勢さんを含めてみんなやっていることだ。


 もう少し言えば、オレたちだって武力や経済力を背景に利権をまとめて中央集権化しているから決して非難出来る立場ではないが、いざ京の都と畿内をどうするかと考えると悩ましい。


 金が欲しければ相応の地位で厚遇しろというのが、この時代だと普通だからなぁ。それならばいらないと放置しているのが現状だ。


 正直なところ、利権関係を整理して統治機構を整えないと、京の都と畿内でお金が足りない現状は続くだろう。


「京の都に人も荷も集まりませぬからな。諸国の商人も上洛するならば尾張に来たほうが商いとしてはよいと気付いておりますから」


 湊屋さんの言う通りだ。近寄れば近寄るほど関税が何度も掛かるから商人が避けるようになった。その結果、税が減るので京の都の統治が大変になる。


 人口は今でも日ノ本一の町になるものの、物価が高すぎることと貧富の格差があって京の都での商いは利益を出すのが難しいんだ。


 無論、京の都にある寺社は名だたる寺社だし、相応にお金を持っている。ただ、基本として経済って概念がないことで、京の都でお金を使って経済を回すなんてこともあんまりしていないんだよね。


 実は尾張物や久遠物と言われる、こちらの商品のお得意様だ。彼らは諸国のいい品を買うから京の都にそこまでお金が落ちない。


 経済規模だけでいえばすでに日ノ本一の町ではないと思う。詳しく算定してないので事実か分からないが。


 もう少し言えば、京の都の偉い人が買ったからという権威付けだけでは尾張以東だともう品物が売れない。上皇陛下の蔵人と譲位の際の三関封じがあって明らかに世の中の流れが変わった。


 結果として穏やかで静かな都となったものの、近江より東が発展するのを眺めているだけになる。これが京の都と畿内の不満の原因だろう。


 まあ、畿内に今以上にお金と利権を与えると、こちらから奪うことを考え始めるので無理なんだけどさ。


 近江はともかく尾張以東だと畿内に対する信頼度が減り続けている。


 東国に関してはオレたちが来る以前から、そこまで信頼関係があったわけではないし。朝廷を大元とした権威体制の下での血縁があり、それが統治の役に立つから従っていたところもある。


 なにが言いたいかというと、経済と流通の主導権を奪ったことで朝廷と畿内の価値を半減させて権威を低下させたのはオレたちだということだ。


 そもそもオレたちの政策は領民や従う者には優しいが、力ある者、権威ある者には必ずしも優しくない。正直、責任も取らず意地や面目だけで争う人はあまり好ましく思えないし。


 そんな人たちには自助努力でお願いしますというのが基本だ。そもそも自助努力こそ、この時代の常識だからね。オレたちも力ある者にはその常識に合わせている。


「京の都の利権は比叡山とか厄介な勢力が持っているからなぁ」


 良くも悪くも長きに渡り京の都を守っている比叡山、オレたちはあそこと対峙していかないといけない。


 上皇陛下や帝、近衛さんたちを納得させても京の都は変えられないんだ。


 経済戦争だからな。オレたちが仕掛けているのは。


 まあ、現状だと穏やかな京の都を残せるようにしつつ様子を見るしかないが。



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