Side:エル
那古野城や近くの屋敷で、お盆の迎え火が焚かれているのが見えます。
私たちもそれに習い、迎え火を焚き、お盆の支度をします。司令の元の世界とは少し違いますが、祖先を迎えるという本質は同じです。
アンドロイドとして生まれ、原因不明の事態が起きてこの地にやって来ました。
お盆となり戻られるのは司令の御先祖様でしょうか? 時代が、いえ、世界が違っても迷わずに戻って来られるのでしょうか? ふと、そんなことを考えてしまいます。
厳密に言えば、私たちは仏教徒ではないということにしています。本領には寺社はなく、宗教勢力と争った時のための布石でもあります。
ただ、日々の暮らしはこの地の流儀に従っていますし、神仏に手を合わせ祈ることはある。
もし……、本当に亡くなった者たちが戻られるとしたら……。
「クーン……」
「ワン! ワン!」
気が付くとロボとブランカがいました。迎え火を見てなにをしているんだろうと思ったのでしょうか?
「あなたたちのご先祖様も迷わずに戻って来られるといいわね」
二匹を撫でてやり、生命の神秘を感じます。司令の御両親と御先祖様が、どこかでロボとブランカの御先祖様と出くわして一緒に向かっている途中かもしれません。そう考えると少し可笑しく感じます。
きっと迷わず来られますよね。
データの塊でしかなかった私たちが、こうして生命として生きることが出来ている奇跡に比べたら、時間や世界を超えるなど容易いことでしょう。
今夜は司令の御両親や御先祖様の話でも聞いてみましょうか。私たちにはない生命の繋がりと、先人の残した意志を受け継ぐためにも。
今を生きる者が知ろうとしないと、知らぬまま埋もれてしまうこともあります。どんなことであっても……。
いつか司令の子が産まれ、その子が祖父母のことを知りたいと願った時に話して聞かせることが出来るように。
願わくは、母として伝えてあげたい。
ただ、こればかりはどうなることやら。
さて、お盆の支度を続けましょうか。こういう日常もいいものですね。