第2316話・南北が交わる時・その三

※宣伝失礼致します。


 戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。9巻


 書籍版、電子書籍版。ともに本日発売日となります。※地域により数日の遅れがあります。各自ご確認ください。


 新規書き下ろしの話や加筆修正が随所にあり、web版を読まれた方に向けて読み応えがある内容に仕上げております。世界観を広げる。それを常に意識して書きあげました。


 注意事項、拙作はあまり書店様に並びません。お探しの方はご予約かお取り寄せ、またはネット通販のご利用をお願いします。書籍の場合はネット通販各社送料無料のところが多いです。


 最後に、現在、SNSであるX(Twitter)が原因不明の凍結されて困っています。


 もし、SNS をされている方がいましたら、書籍関連のリツイート等、お願い致します。


 最後に、書籍版発売記念として短編SSを近況ノートに掲載しております。

 https://kakuyomu.jp/users/oukei/news/16818093079581915651

 web版とも齟齬とかは多分ないと思うので、良かったらどうぞ。



Side:北畠晴具


 まさか院の御臨席を賜るとはの。


 院が望まれたのは分かる。されど、公卿を黙らせ認めさせるのは容易いことではない。


 認めぬと騒ぐとすると関白かと思うたが、近衛公と二条公とわしと共に出向いた内匠頭が関白に頭を下げると、関白は我らに呑まれてしまい異を唱えることなく承諾した。


 関白などいかようでもよいが、気になるのは内匠頭だ。


 あやつめ、日を追うごとに己の立場に見合う振る舞いを身に付けつつある。日頃の振る舞いが変わらぬので無理かと思うたこともあったが、必要な時になると教えた立ち居振る舞いを使いこなしつつある。


「父上、いかがされましたか?」


 気が付くと倅がわしを案じるように見ておった。少し険しい顔をしておったらしい。


「内匠頭のことだ。あやつはわしが教えた立ち居振る舞いをよう覚えたなと思うてな。内匠頭を前にした関白が小物に見えたぞ」


 実のところ、わしもあそこまで身に付けるとは思うておらなんだ。素直というかなんというか。


 内匠頭の信念まで変えろなどという気はない。されど、愚か者に軽んじられてよいことなどないからな。無用な争いを避けたがる、あやつにこそ必要と思い教えたのだが。


「懸念となりましょうか?」


 関白など気にするとは、倅はまだまだ甘いの。


「今のままでは気にするほどではないの。あやつは我らと争うほどの覚悟がない。邪魔となれば懐柔してしまえばよい」


 関白よりは若狭管領のほうがまだ敵となり得る。関白は己より名のある父に逆らう童のようなもの。


 自ら兵を挙げ、命を懸けて我らと戦をする覚悟を持つならばまだ認めるが、今のあやつにはそれがない。


「面白うないのであろう。逃げてばかりの上様が変わったことも、実の父が朝廷を動かしておることも」


 関白とあまり会うたことはないが、漏れ伝わる話だとそんなところであろう。昔は上様のことを軽んじて笑い者にしておったとも聞く。もっとも、京の都の公家衆は皆同じように軽んじておったとも聞くがな。


「やはり近衛太閤は違うと?」


「我らと対峙して、畿内以西をまとめ戦が出来るとすれば近衛太閤くらいであろうな。ただ、近衛太閤は一馬の見ておる先を望んでおる」


 わしは太閤が敵となるかと思うたのだがな。


「よいか。朝廷と対峙するは上様と我ら北畠の務めぞ。それを努々忘れるでないぞ」


「はっ!」


 まあ、近衛はいかようでもよい。


 朝廷とは、まだまだ越えねばならぬ山がある。されど、対峙するのは日ノ本の我らの務めだ。南北朝に分かれた朝廷を支えた我らが対峙してこそ、朝廷を次の世に残せるはず。


 さて、そろそろ刻限か。披露目の宴に行くか。




Side:久遠一馬


 今夜の宴には、オレは参加しないので裏方として働いている。


 足利と北畠の一族が揃うお披露目の宴であり、見届け人は義賢さんだ。この形、ほんと元の世界の婚礼を参考にオレたちが始めたことなんだよね。義輝さん、菊丸として何度か婚礼に出席した経験もあって気に入ったらしい。


 見届け人も本来は花嫁の実家で見届ける人のはずが、義信君の婚礼の時に義賢さんに見届け人として出席してもらったことで前例となった。


 上座に上皇陛下が御臨席になられ、その前に新郎と新婦が並び、左右に両家が分かれて座る形で宴となる。


 近衛さんや二条さんと相談したが、この形が一番無難だ。上皇陛下のお立場が神様とか神父さんとかそんな立ち位置と考えると自然な形に収まったと思う。


「いやはや、いずこもお祭り騒ぎでございます」


 町の様子を見に行ってもらっていた資清さんが戻ってきた。婚礼の形を変えた影響とか気になっているんだよね。


「南北が交わる。これを慶事と言わず、なにを慶事と申しましょうや」


 楠木さんは楽しげだ。町の様子や楠木さんの様子を見ると大丈夫そうだ。あとは各地から集まっている諸勢力がどう見るか。


 まあ、個人的には特定の身分の人ばかりに配慮をするのは好きじゃないので、反発をされても全体を見て変えるところは変えていくべきだと思うが。


 宴の様子が見られないのは気になるけど、出席する皆さんで上手くやるとは思う。今日の宴は本当、限られた人しか出席していないし。


 宴が始まると、こちらも一息つける。こちらにも宴の席と同じお膳が運ばれてきた。


 膳は御所内にいる主立った者に振る舞われる。一部の有力者は御所の外にある各自の屋敷などにいるが、外には安全の観点から料理をお出し出来ない。まあ、よほどおかしな人以外は御所に祝いにくるから、そのまま膳を振る舞うことになるだろう。


「オレたちも頂こうか」


 妻たちも一段落して集まってきたので、みんなでお膳を頂くことにする。


 お吸い物は鱧だなぁ。骨切りをして湯通しをしたふんわりとした鱧が澄んだ汁に見える。


 料理は祝いに相応しい食材と調理法を用いているが、鰻のかば焼きなど本来はこの時代にないものもある。鰻のかば焼きはなんか慶事の料理のひとつとして扱われているんだよね。


 珍しい料理としては、鴨肉をカレー風味のスープで煮込んだものがある。


 全体としては伝統的な京の都の味付けをした料理もあるが、尾張料理や久遠料理と呼ばれるものもある。鱧は京風の味付けだし、鰻なんかは久遠料理と言われるし。


 ちなみにケーキもある。これ、義輝さんのリクエストだ。最初に食べているのかは確認していないけど。


「みんな、ひとまずお疲れ様」


 ほんとウチのみんなは、今回フル回転で頑張ってくれた。この時代だと、料理ひとつとっても、素材の確保から保管、調理と気を使うべきことは山ほどある。予定していた食材が届かないなんてこともあったわけで、料理を担当したセルフィーユが一番苦労をしたのかもしれない。


 椎茸と凍み豆腐、馬鈴薯ことジャガイモの煮物も美味しい。中まで味が染みているなぁ。


「鱧いいわね」


「与一郎殿が骨切りを考案してくれたから……」


 祝いということもありみんなでお酒も頂いているが、みんな驚くのはやはり鱧だなぁ。妻たちも驚いているくらいだ。


 料理は、ほんと調理法や保存法など試行錯誤の連続だ。そういう意味では、こういう元の世界にも残ったような技をこの時代の人が編み出したというのは驚愕としか言いようがない。


 ほんと、いろいろと思い出すなぁ。義輝さんと初めて会った時のことから、ついさっきのことまで。


 ああ、正室となる女性は那古野の学校で学んだ女性だからオレも知っている。そんなに目立つ女性じゃなかったけどね。


 正直、言うと、彼女の幸せのためを思えば、この婚礼はどうなのかという思いも僅かにある。オレの価値観はやはり元の世界のままになっている部分があるからだろう。


 なるべく幸せになれるように陰ながらサポートはするつもりだ。


 まあ、今日は素直にお祝いしよう。慶事のこの日を。

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