第三十七話
林間学校2日目。
朝食バイキング後、宿泊施設からちょっと行ったところにある森に俺たちは集合していた。
聖美先生が「あーあー」とメガホンテストをしたのち、話し始める。
「さて、昨日のうちに勘付いたやつはいると思うが……2人1組みでの肝試しとかうちの学校ではやらん。てか、できんだろ」
「「「え〜〜〜〜!!」」」
女子たちからは残念な声が上がり、男子たちは安堵している。
林間学校の1番のイベントといえば肝試しだが、さすがに暗闇の中を男子に歩かせるのは危険と判断したのかやらないかららしい。
妥当な判断だと思うし、今回ばかりは肝試しが苦手な俺としてもマジで助かった。
「代わりと言ってはなんだが、しおりにも書いている通り、2人1人組で森の中をウォーキングはある。だから特に女子。今のうちに喜べ」
「「「いええええええい!!!!」」」
「結局、女子と2人になるのか……」
「俺、生きて帰れるのかな……?」
女子大歓喜。男子絶望。
俺というと……。
「いええええい!!!」
女子に混じって1人だけ野太い声を上げていた。
隣の留衣からは相変わらずだなぁという視線を向けられ、鹿屋さんには微笑みを向けられた。
2人とも、俺が普段通りの様子でどこか安心したようにも見える。
そりゃ、心配するよな……。
『私だったら、こんな素敵な男の子。肌身離さないですけど。それこそ……監禁でもしてしまいたいほどに。ふふふふ……』
昨夜の件。俺が女性相手に危ない目に合いそうになったことは、あれから男性護衛官の留衣にも情報共有がされた。
話を聞いた留衣は、男性護衛官としての責任を感じており、最初はすごく暗い顔をしていたけど……。
留衣も鹿屋さんと同様で俺の意思を尊重してくれて、俺が林間学校に最後まで参加できるように、この件は3人の秘密ということで話が纏まった。
それから聖美先生が説明を始めた。
要約すると、クラス内でくじを引き、同じ数字を引いたペア同士で30分間森の中をウォーキングするというもの。
30分経ったら集合場所に戻り、再度くじ引き。
森を散策しながらペアの子との交流を深めようみたいな感じだな。
でも男女ペアなら実質デートみたいなものじゃね?
俺が思ったことは女子も思っているようで。
「絶対男子とペアになるんだから!」
「アタシ、班にも男子いないからここで引かなきゃ明日から寝込む……!」
くじを引く女子たちからはただならぬ熱気を感じる。
なお、男子は3人しかいないのでほとんどの女子生徒から次々と悲鳴が上がっていった。
一方で、高橋と田中とペアになった女子たち見せつけるようにドヤ顔していた。
「次は市瀬の番か」
「まあ俺で最後なんですけどね」
そう、俺が最後にくじを引く……のだけど。
「市瀬くんのペアは誰になるのでしょうか」
俺の背後には柔らかな声色でそう言う鹿屋さんがいた。
俺が最後なので鹿屋さんはくじを引き終わっている。
そして、俺以外の生徒はくじに書いている番号同士でペアを作っている。
鹿屋さんだけはペアを作っていない。
ということは……。
「もうこれ無駄な時間じゃないですか⁉︎」
俺のペア絶対鹿屋さんじゃん!
いや、鹿屋さんがペアなのは嬉しいけどさ!
これ、わざわざくじを引く意味があるの⁉︎
「つれないことを言うな、市瀬。くじを引いてドキドキするのもまた、青春の思い出だろうが」
「相手はもう分かっていてドキドキもないですけどね!」
と言っていても仕方がない。
箱の中に残っていた1つをさっさと引いた。
「私のペアは市瀬くんのようですね」
「まだくじの番号を見ていないけど絶対そうだね。よろしく鹿屋さん」
こうして1回目の俺のペアは鹿屋さんに決定。
クラスごとにペアで整列し直すと、再び聖美先生の説明が始まる。
「普段運動してないやつはちゃんと準備運動してからいけよー。あと、会話のネタに困らないように森の中に宝を散りばめた。ついでに見つけてこい」
「宝ってなんですかー!」
すぐに女子生徒の1人が声を上げて質問する。
「宝とはカプセルのことだ。カプセルの中には景品の内容が書いている。たとえば、学食1週間のフリーパスやデザートのフリーパス。遊園地ペアチケット——」
ついでの割には商品が豪華! これはやる気出るな!
「あと……男性護衛官1日体験とかだっけなぁ〜?」
聖美先生がわざとらしく間を溜めた後言う。
その口元はニヤリと笑っていた。
言わずもがな、女子たちは1番の盛り上がりを見せた。
「男性護衛官1日体験とは……聖美先生もとんでもないものを入れてくるねぇ」
前にいる留衣が驚いたように言う。
男性護衛官側からしたら1日お休みということになるし……お得なのかな?
「男性護衛官ができる……ですか」
隣の鹿屋さんは真面目な顔で何か呟いていた。
「カプセルはこの時間の最後に一斉に開けるからなぁ。見つけたからってすぐに開けないようにー。じゃあペアごとに時間をずらしてスタートだ」
こうして、肝試しをやるのではなく、くじ引きでペアを決めて森の中を歩くという、ある意味貞操逆転世界ならではのイベントが始まったのだった。
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