#2.5 協会にて

魔術協会リベルタ王国本部執務室



 マキナ=グラウクスは珍しく大変上機嫌だった。なんせ楽しみなのだ。明日は彼を迎える日である。手続きやらなんやらで部下に無茶を言ってしまったが、迅速に動いてくれたようで準備はばっちり。優秀な部下を持ったものだ、嬉しく思う。


 彼、アステルが快く応じてくれたのも嬉しい誤算だった。もし、断られたら無理やりにでも連れていこうとしていたから、無駄な労力を使うことにならずにすんで良かった。


 こんこんこん、とノックの音が響く。背凭れに預けていた体を起こし、入るように指示をした。



「失礼致します」


「アビス。どうしたんだい」


「魔王の子孫を入学させるとは、本気ですか」



 入って来た彼女は、彼女らしからぬ強い口調で言い放つ。



「アビス、残念だけど、もう決まった事だ」


「ですがッ、魔王の子孫ですよ!どんな危害を及ぼすか…!」


「そんな子ではないと思うけどね。どう思う?シリウス」



 扉の向こうに向かって呼び掛けると、何かが動く気配がする。気配は、扉の前で何度かうろつくと、部屋の中に入って来た。



「バレてたか、やっぱり」


「盗み聞きは良くないよ、シリウス」


「いや、お前に呼ばれたからきたんだッつうの」



 ああそうだった呼んだの忘れてたよ。何て言えば、嘘吐けと返される。失礼ですよ、とアビスの注意が飛んだ。



「んで、なんだ。あの小僧か」


「うん。シリウスから見て、あの子はどう思う?」


「あいつなー、あー…」



 言葉がつまる。まぁ、つまるのも無理はない。なんというか、あの子は異常なのだ。幼い子供なのに、出てくる単語だとか、態度だとか。何処か、おかしいのだ。まるで、幼子の皮を被った、別のナニカのような、違和感。それをシリウスも感じたのだろうか。



「なんつうかな、あいつ。子供らしくねェんだよな。監獄島にあの歳で閉じ込められて、精神崩壊コワれてねェッてのもあるが…フツー、閉じ込めた奴を恨むだろ?なのに、あいつにはそんな感情は見えなかった。代わりに見えたのは、諦めだ。ありゃ、死んだら死んだで仕方ないッて思ってる顔だぜ」



 その言葉に息を飲んだのはアビスだ。あり得ない、と思っている顔だ。憎しみも、恨みも抱いていないなんておかしい、と。その通りなのだ。あの子はおかしい。だからこそ、だ。



「…あり得ません。そんなことは。魔族ですよ。上手く感情を隠しているだけでは」


「お前…その言いぐさは無いんじゃねェの」


「ですが、」


「アビス」



 名前を呼ばれ、言葉が止まる。びくり、と体を震わせたアビスは、まるで親に叱られることを察した子供のようだ。



「それ以上はくどいよ。兎に角、明日彼を迎えに行くのは決定事項だ。覆りはしない」


「っ…はい…」


「ただし、どうしてもと言うなら、貴女の眼で、彼を見極めなさい」


「そ、れは」


「君も付いてくるんだ。勿論、嫌だと言うなら、強制はしないよ」



 そう言えば、アビスは目を見開き、首を振って答える



「いいえ。…喜んで、御供します」

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少年魔術師、謳歌せよ 御影 累 @mikage-rui

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