#2 青年魔術師、画策せよ

 時は遡り、数日前。

 マキナ=グラウクスは、紅茶を優雅に飲みながら、会議の内容に耳を傾けていた。今日の議題は数年前から続く魔物の活性化についてと、魔王の子孫について。会議と言っても、解決について話すのではなく、自分の保身ばかり重視した言葉が飛び交っている。

 まったく、お偉いさんは気楽で良いなぁ。立場と名誉さえあれば良いんだから。こういうところが、前線に立つ魔術師ぼくらとかみあわないんだろうなぁ。なんて、考えながら、もう一度紅茶を啜った。


「グラウクス様」

「ええ、なんでしょう」

「魔王の子孫についてなのですが」


 どうやら意識を思考に傾けている間に責任の押し付け合いは終わっていたようで、魔王の子孫についてに議題が変わっている。良かった。無意味で生産性の無い会話というのは耳にするだけでも精神が削られるものだから。都合の良いときに意識を飛ばせるように成長したのは大変便利である。


「魔王の子孫ですか」

「まだ子供だが、魔王の子孫。早めにした方が良いと思うがね」

「処分、ですか」


 軽く言うじゃないか。一つの命が失われるのだぞ。口ごもる僕を他所に、お偉いさん達はいつ処分するか、誰が処分するかを話し合っている。これだから、こいつらは。勇者の子孫だかなんだかしらないが、自分の保身と名誉に走るようなお前らは肥えた豚なのだと、口を吐きそうになるのを抑える。


「その件は、僕に任せて頂けませんか」

「なに?」

「裁量権を頂きたいということです」


 怪訝そうなお偉いさん達を前に、にこりと仮面えがおを張り付ける


「御安心ください。僕も、リベルタ王国の誇りある宮廷魔術師です。勿論、王国に不利益にならぬよう、処分して見せますとも」


 そう言えば、皆一様に頷いてくれる。ああ、僕を信頼して、一欠片も疑っていない。自分の使える駒だと、信じてやまない顔をしている。つい、笑みが深くなる。


 では、これで。と、会議は「マキナ=グラウクスに一任する」となって終わった。こういうの、良く言えば信頼だけど、悪く言えば責任放棄だからね。まあいいけど。

 でも、でもあの中の、あの肥えた豚どもの誰が、魔王の子孫を勇者の子孫のいる学園に入学させると思うだろう。それを知ったら、豚どもはどうするだろう。抗議も批判も出るだろうが、でも何も出来ないよ。だって、全ての裁量権は僕にある。

 笑みが溢れる。嗚呼、楽しみ。楽しみだ。奴らの、顔が歪むのを見る日は、近いだろう。


 マキナは独り、夕陽の射し込む会議室で微笑んでいた。

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