第19話 後輩

「やっば……。これ吐くかも……。」


 おはよう、最低な朝。流石にやけ酒にしては、豪快にはしゃぎすぎたな。

 やばい、思い出せない。アゼルの元を飛び出してふらついた後、酒場に足を運んだところまでは覚えてるんだけど、その後の記憶がない。


「あ~! やっと起きたんですか~。」


 えっと……。あの後どうしたんだっけ。あ、そうだ。飲んでたらこの子と偶々合流したんだった。


「モネ……。頭痛い、しんどい、辛い。」

「も~だからその辺で~て昨日私止めたのに。」


 お願いしますモネさん。今だけは説教は勘弁してください。

 とりあえず水飲まないと出る……。あ、やっぱ無理だこれ。


「はい! 優しい優しい隣人特製のお水さんですよ~~」

「ありがとうモネさん仏様。ついでに温かいスープもお願いします。」

 

 スープは流石に欲張りすぎたか。

 でもモネは優しい隣人冒険者だ。特製と称した緑色の液体を、二日酔いで無抵抗の私に押し流してくれるんだから。うん、後は言うまい。後でお仕置きだ。


「どうですか~お味は。」

「苦いぃぃ」

「つまり効き目バッチリということですね!!」


 青汁のような苦さだが、これが二日酔いの身体に染みるのだ。

 まあ実際、モネは薬術師なわけだし。効き目は確かなものなんだろうけど。

 よし、もうそろそろいいかな。


「うん、いい感じかも。」

「ですよねですよね!!」

「じゃあお願い。早く手伝って。」

「は~~い。今日もいい感じに出しちゃいましょう!!」


 そうして、私はモネに担がれながら、御花摘みに直行する。そうつまりは、この特製という名の薬は強制的に吐かせる薬なのだ。

 さてと。今日も一日、最悪な朝を迎えようか。とりあえず大家さんには、また汚したことを謝らないとな。



ーーーーー



「それで~昨日は凄い荒れっぷりでしたね。」

「ダメ……。まったく思い出せない。」

「大変だったんですよ~おぶさって帰るの。」

「ごめんなさい。私、どれぐらい飲んでた?」


 うん。これは反省しなければならないやつだ。

 最近はこんな不祥事はなかったんだけど、昨日は兎に角イライラが止まらなかった。

 これも全部あいつのせい。すごい上から目線で何様よ。

 あぁだめだ。まだ頭が痛い。何も思い出せない。


「ん~そうですね~。私達が酒場に着いた頃には、エールの樽の上に座ってましたね。」

「中身は?」

「言う必要あります。」

「…お金は?」

「言う必要あります?」


 あ、これ終わった。本当にやらかした時のやつだ。

 

「あの……。おいくらでした。」

「お財布さんと相談してみたらいいと思いますよ?」

「それができたらモネに聞いてないわよ。」


 まずい、今はただでさえお金が必要だっていうのに。

 も~私はなんでいっつもこう、感情的に動いてしまうんだ。

 

「とりあえず、足りない分は私達が立て替えておいたので。」

「ありがとう、本当に助かったわ。」

「ほんとですよ~もう。八万の二割増しで勘弁してあげます。」

「……。」


 うん。考えるのはよそう。今だけは本当に勘弁してくれ。

 ただでさえナイーブだというのに、これ以上お金のことは考えたくない。


「それで先~輩。アゼルって誰ですか?」


 知らぬはずのモネから出た名前に私は、心臓に針を通されたかのように、胸が引きついた。

 どうやら機能の私は本当に失態だらけのようだ。まさかそこまで口走っていたとはな。酒の魔力、本当に恐るべし。

 後モネ、そのニヤニヤ顔はほんとうに止めろ。


「別に……ただの。」

「ん~~ただの何ですか~?」


 顔が近い。でもそういわれてみれば、確かに私にとってアゼルは何なんだろう。

 第一印象が残念な奴で。

 第二印象が不思議な奴で。

 第三印象は……。

 直後、私の脳裏に映ったのは、昨日の出来事だった。というか今考えてみれば、本当にどの立場で私に語り掛けてるんだって話だ。

 よし決定だな。

 あいつの第三印象は嫌な奴だ。


「顔が近い。」

「え~答えになってないですよ~」

「もうそんなことどうでもいいでしょ。」


 そうはぐらかしてしまった私は、ゆっくりと重たい腰を上げた。


「どこ行くんですかぁ~~」

「決まってでしょ。ダンジョンよ。」

「ダンジョンって。そんな急がなくても。」

「ただでさえ借金作ったんだから、今日でその分は稼ぐ。」

「そんなの後とでもいいですから。今は休んだほうがいいです……って!! 聞いてるんですか、もうッ!!」


 ごめんモネ、私には時間がない。

 私は予備武器を取り、早々に玄関へと降りていく。無茶など承知の上、それでも今はただ、多くのモンスターを狩殺すんだッ!!


「待ってッ!!」

「ッ!!」


 パァン と鈍い音を上げながら、私は無意識に伸ばされたモネの手を振り払っていた。

 あぁ……。やってしまった。これはダメな奴だ、早く謝らないと。謝らないといけないのに……。


「リズちゃん……。」


 何故、声が出ない。頭を上げて謝るんだ。


「行くんだったら、私達と一緒に行こうよ。」


 その時、心の何処かでその言葉を期待する悪い自分がいた。

 私はもう、なりふり構っては言われない。

 

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アダマスの娘 甘党の翁 @hosinoumi

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