第31話

「やっぱり宇宙人に関する情報なんてどこにもないわよ」

「そんなこと言わずにもっとちゃんと調べてくれよ。あれはどう見たって宇宙人だっただろ?」

「そりゃそうだけど……」


 あれから2日が経過した。

 俺たちはこの2日間、危険区域には足を踏み入れていなかった。明護の自宅で【田中】と【宇宙人】についての情報を得るためにPCに向かっていた。


 ちなみに、女子高校生である北条真紀はすごいところのお嬢さんだったらしく、自宅に保管していたポーションを使用して完全に回復した。


「田中が言ってたヒューマンエラー、あんた本当に心当たりないわけ?」

「あるわけないだろッ」


 割れた田中の顔面から現れた謎の生物。新たな田中の出現。ヒューマンエラーなる謎のワード。俺たちが抱える問題は山のようにあった。


「時空幻石だって探さなきゃいけないのに、どうしてこうも次から次に問題ばかり起きるのかしら。あんた呪われてるんじゃないの?」

「研究者がそんな非科学的なこと言っていいのかよ?」

「そんなもんは8年前、この世界にモンスターだのスキルだのが現れた時点で消え失せたわよ」

「そりゃそうだ」


 思わず納得してしまった。


「それより、このカプセルはどうすんのよ」


 俺たちの前には世にも珍しい虹色のカプセルが置かれていた。

 爆散した田中――改め田中星人からドロップした激レアカプセルだ。


 スキル ★★★★★

【スコアボード】

 効果 スコアによって特典が得られます。

 リキャストタイムなし。


「一体何なんだ、このスキルは?」

「スコアに特典、これが何を示しているのかさっぱりわからないわね」

「リキャストタイムなしってのも気になるな」

「なによりレアリティ★5なんて聞いたこともないし、第一売ったらいくらになるのよ、これ」


 せめてもう少し具体的な説明が書かれていれば、使う使わないの判断ができるのだが、【スコアによって特典が得られます】この一文だけでは判断に困ってしまう。


「売ればどれくらいになるんだろうな」

「はっきりした金額なんて誰にも付けられないわよ。ただ一つ言えることは、100億ドルはくだらないってこと」

「日本で1兆超えか……想像もつかないよな」


 ソファにもたれ掛かりながらカプセルを眺める俺の隣で、明護は何やら考え込んでいた。


「どうかしたか?」

「……すごくバカげだ事を考えていただけよ」

「バカげだことって?」


 尋ねると、明護はすごく言いづらそうに顔をしかめた。


「気になるだろ?」

「言ってもいいけど……笑わない?」


 明護の表情はとても真剣だった。


「約束する、絶対に笑わない」


 俺は選手宣誓するように、右手をあげて笑わないと誓った。


「時空幻石……あれってドロップアイテムなんじゃないかって思ったのよね」

「は?」

「そもそもブラックホールを生成し、時間跳躍を可能とする石なんて非科学的過ぎるのよ。そんなものがこの世にあるとすれば、非科学的なカプセルから入手可能なアイテムくらいじゃない?」


 真剣な顔で何を言い出すのかと思えば、明護は本当にバカげだ事を口にする。


「ぷっ、クックク――あっははははははは」


 思わず腹を抱えて笑い転げてしまう。


「あんた笑わないって誓いはどこいったのよ!」

「怒るなって」


 俺は指先で涙を拭いながら、目尻を吊り上げて立ち上がる明護に落ち着くように言った。


「そもそも俺がいたa世界線には、モンスターもスキルも存在しなかった。時空幻石がドロップアイテムってのは無理がありすぎる」

「でも田中に殺されたあたしは言っていたのよね? ボーギング博士が超能力の研究をしてるって。それってスキルの事なんじゃないの?」

「……あ」


 すっかり忘れていた。

 仮にボーギング博士が研究していた超能力がスキルによるものだとしても、やはりa世界線の明護がドロップアイテムを持っていることはおかしい。

 明護がモンスターを倒せるとは思えない。


「あんたみたいにたまたま轢き殺したモンスターからドロップしたんじゃないの? a世界線のあたしが」

「それはない」

「どうして言い切れるのよ!」

「もしもa世界線の明護がたまたまモンスターを轢き殺し、そのモンスターからアイテムをドロップしていたら、明護は絶対に俺に報告している。だが、俺は何も聞いていない」

「単純に言わなかっただけなんじゃないの?」

「それはない」

「どうしてよ?」

「ないからだ!」


 明護が俺に隠し事なんてするはずがない。第一黙っている理由がない。


「じゃあ、どうして田中は時空幻石のことを知っていたのよ。なんであんたが時空幻石を持っていたことに驚いていたのよ!」

「そんなもん知るか! 知るわけないだろッ!」


 a世界線の明護が俺に隠し事をしていた。そんな風に考えることがどうしてもできなかった――いや、俺は考えたくなかったのだ。

 俺にとって明護朱音が特別な存在であったように、彼女にとっても俺は特別な存在だったと信じたい。


「俺たちの間に嘘や隠し事は一切ないんだ。あってはならないんだよ」

「……わかったわよ。仮に時空幻石がドロップアイテムだったとしても、a世界線のあたしはたまたま時空幻石を拾った。これなら納得してもらえるのかしら?」

「……まあ、一応は」


 明護がため息をついて言うと、俺は少し恥ずかしさを感じた。


「LINE、鳴ってるわよ」


 明護がソファに座り直し、あきれたように言った。


「知ってる」

「なら早く確認しなさいよ。あたしは未読スルーする奴と既読スルーする奴が世界で一番嫌いなの」

「言われなくたって今確認するところだったんだ――――げっ!?」


 LINEの相手は千寓寺と十六夜だった。


『先輩、ずっとラボに帰ってないみたいっすけど、今何処にいてるんっすか? 生きているんっすよね?』


『風の噂で聞きました。外道くんが朱音ちゃんに愛の告白をしていたと。

 一度会って話をしましょうか……』


 ガタンッ。


 恐怖のあまり、俺はスマホを床に落としてしまった。


「……あたし知らないわよ。関係ないから巻き込まないでね」

「それはないだろッ!」


 人のスマホを盗み見した明護が、無責任なことを口にしてはそっぽを向く。


「お前からもちゃんと説明してくれよ!」

「嫌よ。第一なんて説明するのよ? この外道は凪咲の知ってる外道じゃないの。タイムマシンに乗って別世界からやって来た外道なのよ。そう説明しろっていうわけ? ばかげてるわ! 言えるわけないでしょッ!」


 おっしゃる通りと、俺は黙って頭を下げることしかできなかった。


「珈琲……もらってもいいか?」

「現実逃避ならベランダでご勝手に」

「相変わらず冷たい女だな」

「あたしはあんたを甘やかすa世界線のあたしとは違うのよ」

「さいですか」


 バルコニーから見下ろす世界は、俺のよく知る世界が広がっている。けれど、ひとたび遥か彼方に目を向けると、瘴気と呼ばれる闇が街を覆い尽くそうとしている。


 タイムマシンで過去へ行き、戻ってきたらモンスターがあふれる世界になっていた。


「笑えねぇよ」


 俺は紫煙を吐き出しながら、田中が去っていた空を見上げていた。


 ただ一つだけ言えることは、


「田中、俺はお前だけは許さない!」


 ということだ。






――――

お知らせ。


ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。


この物語は一度ここで完結とさせて頂きます。

続きを期待してくださる声があった場合、二章という形を取りたいと思います。


何卒、御了承ください。

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タイムトラベルしてクラスメイトを救ったら、モンスターが溢れる世界になっていた。 🎈パンサー葉月🎈 @hazukihazuki

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