第10話 冷たい夜の嫌な予感
夜の廊下に出たのは初めてで、はだしの足がすごく冷たいなって思った。
もうすぐで、宿舎の入口で外が見える。音がしたのはたぶん中庭かなって思うからもう近いと思う。
「おーう、どうだ?なにか見えるか?」
ゆうたくんが僕の後ろから話しかけてくる。
校庭は暗くて良く見えないし、特に人影っぽいものも無い。それより、よくここまで誰にも見つかることなく来れたなって思った。守衛がいない?ゆうたくんが耳を澄ましてるからそれを信用してるんだけど、ただ普通に当直の足音すらしない。
普段は見回りしてるんだけど。それすらいない。
なかむらくんがこちらを振り返る。
「お前もそう思うよな…?やっぱり、妙だな」
当直がいない。そういうことはつまり、もう寝っちゃったのかなって思った。
「見回りに回す余裕すらないってことか?」
ひそひそとばれないように話してる。そっか、そういうのもあるんだなって思った。
見回りに回す余裕も無いってことは、何か緊急事態が発生したってこと?でも、それだったらやっぱりもっと大騒ぎになってないとおかしい。少なくとも、僕たちは避難とかなんかさせられるはず。
つまり、なにか僕たちにばれたくないことが起きたってこと?
「どうするー?正直、校庭に出ても分からないと思うけど…」
「うーむ…」
なんだか肌がひんやりする。
「………どっちみち、ここからすぐ離れたほうが良いよー、来るね」
「っち、潮時か…これ以上の詮索は命取りだな……よし、戻るぞ」
結局なんの音だったんだろう。よくわからないけど、確かにこれ以上向こうに行ってもなんにも分かりそうにないし、確実に見つかる危険を冒してまで…
「おぅ、待て」
曲がり角を曲がって階段を上ろうとした瞬間にすぐ横から声がした。本当にすぐ横。
この声は僕たちの内の誰のこれでも無い。大人の男の人の声。助教の声。
「え」
声がしたほうをみんなで振り返る。そこには階段の下で窓から入る月明かりに照らされて僕の射撃訓練をみてくれていた助教が腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「あ、」
ゆうたくんが気づかなかった?ぼくも声を掛けられるまで一切気づけなかった。気配らしきものが一切なかった。光に当たってたのに。
ぼくら3人はそこから動けず一言も発せないまま助教を見ていた。
「お前ら、何か見たか?」
え?
「いえ、特に…」
なかむらくんが答える。
「そうか…分かった居室に戻れ」
え
「分かれ…」
助教がいつもみたいに大きな声じゃなくて、まるで囁くみたいな声でしゃべりかけてくる。普通だったら消灯後にこんな自由行動だなんて大目玉なはず。
なんか、僕たちの存在もそうだけど、他の生徒たちにも何かが起こったってことを隠そうとしてるのかなって思った。
階段のほうに向きなおり、居室に戻ろうとする。
「………………やっぱり、なかむらは残れ、二人はいっていい」
踊り場まで来たあたりで後ろから声がかけられた。なかむらくんが先頭から助教のほうへ降りていく。
降りていくなかむらくんと目があった。少し頷いて、僕たちは居室に戻る。
…相変わらずうえだくんは大きないびきをかいている。
「やっぱり、厳しい罰があるのかなー…やっちゃったなー」
「ゆうたくん…気づかなかったの、助教がいたの?」
「うん…あの人ー…気づけなかった、なんなんだあの人、なんかその場にいないみたいな感じで声がかけられるまで本当に気づけなかった」
ゆうたくんは壁の裏から中に人がいるかどうかとかそれくらいまで当てられる感じだから、それが気づけなかったってことは……。すごくすごいってこと。
いや、そもそもなんで助教はあんなところにいたんだ?ぼくたちが抜け出しているのが既にばれてた?それを待ち構えてた?でも、見回りとはすれ違ってないし、それに見回りが来るタイミングはみんな完全に把握してる。
ぼくたちは見回りが来る前のタイミングで行って戻って来る感じだったからばれてないはずだけど…。
「いやー…やっぱり罰があるのかなー、やだなー明日の朝から腕立てとか……でも、こういう時帰されるー?その場で大事にしてーって感じじゃないのー?」
「うーん…明日演習だし…ってことじゃないかな…」
で、どうしてなかむらくんだけが残されたんだ?ここの皆にはきっと僕たちのやったことに巻き込む形になるだろうから本当に悪いと思うけど、それ以上になんでなかむらくんだけ残されたんだろうなって。
……
居室のドアが開く。なかむらくんが入って来た。
「あ、なかむらくん、どうだった?なんか言われた?」
……返事が無い。
「うーん?」
…ただ黙って、僕の上のベッドに横になった。
公園に砲弾が落ちた 蛇いちご @type66
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