勇者先生の異世界授業!

だぶんぐる

勇者先生の異世界授業!

「作者の気持ちがなんで先生には分かるんですか?」


 桜下小学校6年C組の教室、出席番号1番、天河大翔(アマカワ ヒロト)の放った一言に担任の竜崎由志哉(リュウザキ ユシヤ)が声を詰まらせる。

 この日のヒロトはイライラしていた。


 ヒロトの席は教室の一番後ろの端っこ。そこからはクラスの様子がよく見えた。


 教室の中には色んな悪魔やモンスターがいる。そいつらは、いつだってクラスの連中を狙っている。男子のマウントの取り合い、女子同士のいやなやりとり、小さないじめ、きづかいやすれちがい、そして、ビビリの自分。

 悪魔やモンスター、それはヒロトのイメージであり本当にいるわけではない。だけど、ヒロトにはそれが見えるような気がしていた。学校だけじゃない。家でだってそう、ゲームでひきょうなことをしてくる画面の向こうのモンスター、ゲームばかりするなと怒って来る母親にとりついてるモンスター。

 昨日からずっとそんなモンスターのことばかり考えていてヒロトはイライラしていた。

 だから、ヒロトは思わずユーシャ先生に八つ当たりしてしまった。


 ユーシャ先生。

 ヒロトがそう呼ぶ担任の竜崎由志哉は悪くない。むしろ、がんばってくれている。ヒロトはそんな先生の事をユーシャ先生と言ってからかうことができるくらい仲が良い。


 それでも、ヒロトは思わず国語の授業で『作者の気持ちを答えよ』という問題でかみついてしまった。

 だけど、ユーシャ先生は目をそらさない。メガネの向こうに見える目は真っすぐヒロトを見ている。


「いいか、天河。気持ちってのは……」


 ユーシャ先生が言いかけたその時、教室が光り輝き始める。


「え? なにこれ? 光ってるんだけど!」

「なになに!?」

「な! うそだろ! まさか、また召喚されるのか!?」


 そうさけんだユーシャ先生をヒロトが見たしゅん間、教室がなくなった。

 そして、代わりにヒロトたちはゲームでよく見るお城の中のようなところに立っていた。

 

(いや、ような、じゃない! お城だ!)


 ヒロトがそう思った理由は単純明快。

 ユーシャ先生の元に近寄る人物が王冠とマントをつけた王様だったのだ。


「おお、ユシヤよ! よく来てくれた!」

「……またですか! 王様!」

「え? ユーシャ先生……知り合い?」

「実はな……先生は昔この世界に召喚されたんだよ……」

「「「ええぇええええ!?」」」

「6年前、つまりみんなが幼稚園の頃、俺は高校生でな。この異世界【タシラクサ】に召喚されたんだ。そして、一年かけて、仲間といっしょに魔王を倒して、無事に元の世界に帰って勉強して大学に入って先生になった……はずなのに、王様! どういうことですか!?」


 ユーシャ先生が王様に怖い顔で近づくと王様は小さくなってしまう。


「そ、それが……魔王は倒されたのだが、新たな魔王、新魔王を名乗る者達が現れたのじゃ。その一人が、この城の近くに現れてな。そのー、たおしてくれぬか?」

「いや、もう私は勇者を引退したんですって!」

「ちょっと待って! 私達は先生を呼び出す召喚に巻き込まれたってことなんですか?」

「……ごめんなのじゃ。てへ」

「てへじゃないんですよ! 王様!」


 ヒロトもあまりの展開にぼうぜんとするしかない。


「でも、じゃあさ」


 クラス一のひょうきん者西野が手を挙げる。


「ユーシャ先生が、新魔王とっとと倒せばいいんじゃね? 『はい、お前たちが静かになるまでに先生、新魔王を倒しておきました。静かに出来てなかったお前達! 六〇点だ!』って」


 西野の得意技であるユーシャ先生の物真似にクラスがどっと盛り上がる。


「い、いや、無理だって。先生も勇者引退して五年経ってるんだぞ? ブランクが……」

「そうだよなあ……オレも五年もサッカーしてなかったら絶対プロにはなれないと思う」


 岩倉がそう言うと、女子たちが盛り上がり始める。岩倉は、サッカーのU-12代表にも選ばれているサッカーの天才だ。そんな天才でもそう言ってるし自分も五年ゲームをしなければめちゃくちゃ下手になってるだろうな、とヒロトが考えていると……。


「な!? ヒロト!」


 岩倉がニコっとヒロトの方を見て笑いかける。


「そ、そうかもね……」


 ヒロトはこまってしまって、岩倉から顔をそらす。岩倉は何かとヒロトにカラんでくる。岩倉は性格も完璧のスーパーマンなのでウザいからみじゃないからヒロトも気にしてないが、なぜこんなに岩倉が自分にふってくるのかヒロトにはなぞだった。

 こまったヒロトは話題を変えようと王様に声をかける。


「あのー、まずはじめに元の世界にはもどれるんですか?」

「戻れるとも。あそこにある『転送の魔導具』」


 王様が指さした先には、キラキラと光る玉があった。


「あれがあれば、魔力を使ってどこでも移動できるんじゃよ。この世界のどこにでも異世界にもじゃ。それにしても、お主はユシヤと喋り方が似ておるのう……おお! そうじゃ! ユシヤよ! この子らに手伝ってもらうというのはどうじゃ!?」

「は? 王様なに言ってるんですか?」

「この子達も昔のお前と同じように異世界召喚された時に特別な力を手に入れているはず! ならば、この子達も勇者になれるのではないか?」


 王様のその発言に生徒たちは盛り上がり始める。


「マジ!? え、チート能力ってヤツ? あ……なんか頭の中に浮かんできた! おお! おれは【超剣術】だ!」

「ふ、ぼくもついに能力者に……【風使い】だってさ」

「ええー、魔法使えるってこと? え? やば! 【火魔法・強】って出てきたんだけど!」


 きゃーきゃーとみんなが色んな能力で盛り上がっている中で、ヒロトの能力は【超鑑定】だった。


(【鑑定】って……マンガとかではすごいスキルだったりするけど……)


「ね、ねえねえ、ヒロトはさ、なんの能力だったの?」


 考え事をしているヒロトに話しかけてきたのは、瀬戸美海(せと みう)。

 ヒロトが昔通っていたスイミングスクールの期待の選手で、よく朝礼で表しょうされている。

 瀬戸も五年に進級した時に席がとなりになった時からよくヒロトにからんでくる。


「あー、ぼくは【超鑑定】ってやつ。多分、アイテムとか人のこととかわかる、んじゃないかな……」

「え!? ちょっと待って! それって、す、好きな人とかもわかっちゃったり……?」


 瀬戸が急に顔を真っ赤にして大声で聞いてくると、クラスのみんなの視線がヒロトに集まる。


「い、いや! 多分わかんないよ! そ、それより、瀬戸さんは?」

「なあんだ、あ、あたし? あたしはね、【水使い】だったよ」


 瀬戸は胸を張って答える。


「そ、そっか……すごそうだね」

「うーん、やっぱりスイミングスクールに通ってるからかな?」


 うでくみをして考える姿もかわいい瀬戸にヒロトはうつむいてしまう。

 その時、広間の入り口がさわがしくなる。

 ドレス姿の美少女が入ってきたからだ。

 一目見ただけでヒロトはこのお城のお姫様だと分かった。

 びっくりするほどキレイで、栗色の長い髪はCMに出てくる女優のようだ。

 お姫様はみんなを見渡しながらゆっくりと話しかけた。


「皆さん、はじめまして。私は、ミューゼ=ロクシイ。ロクシイ王国の王女です。お願いです。この国を助けてくれませんか?」


 美少女のお姫様にお願いをされて男子を中心にさらに盛り上がり始める。


「おお! お姫様かわいいー!」

「ひ、ひめさま! ぼくたちにおまかせを!」

「オレたちが新しい勇者だー!」


 ユーシャ先生はあわててみんなを落ち着かせようと大声でさけぶ。


「静かに! 静かにしないか!」

「そうだ。静かにしろお……まったく、人間ってのはうるさい生き物だ」


 ゾクッとするような声が聞こえて広間がシーンとなる。

 広間の大きな窓が開いていて、そこに立っていたのは、ヒョウと人間が合体して角を生やしたような怪物だった。


「きさま、何者じゃ! 魔王の手の者か!」

「その通り! オレ様は新魔王の手下、パンサァ! お前達をたおさせてもらうぜ」


 そう言ってパンサァと名乗った怪物は笑いながらギラリと爪を伸ばす。


「ま、魔王の手下!」


 誰かが叫ぶと、クラス全員がパニックになってしまう。


「ハッハッハ! どうした、新たな勇者クンたち? 一人も逃がすかよ!」


 パンサァが物凄い速さで移動し、生徒達におそいかかる。

 それを止めたのは剣をにぎったユーシャ先生だった。


「さすが、元勇者だな!」

「生徒には手を出させない!」


 ユーシャ先生とパンサァの戦いが始まる。

 そのものすごい戦いにだれもが何も出来ずに見守るだけだった。

 それでもどちらが強いかは分かった。ユーシャ先生は暴れるパンサァをものともせず圧倒していく。パンサァはあっという間にピンチになる。


「くそぉ! 元勇者はだてじゃない、か……ならば!」


 パンサァはそう言うなり、生徒たちにねらいを定める。


「しまった! みんな!」


 ユーシャ先生は叫び、パンサァから生徒たちを守ろうとする。しかし、


「馬鹿が! ひっかかったな!」


 パンサァは急に方向転換し、ユーシャ先生に爆発の魔法を放つ。


「ぐああああっ!!」


 吹き飛ばされたユーシャ先生はヒロト達のところに飛んでいく。爆発で起きた煙の向こう側でパンサァが息を切らしながら笑っている。


「先生! ……気絶してる!?」

「はあはあ……! オレ様の全てをふりしぼった一撃どうだったかな! 残ったのは左腕一本だが、お前さえいなければ、もうザコだけだろ! ぎゃっはっは!」


 ゆっくりとこちらにきょうふを与えるようにパンサァが足音をズシンズシンとひびかせながら近づいてくる。生徒たちが青ざめてふるえる中、ヒロトは必死に考えていた。


(どうしたらいい? どうしたら……そうだ!)


「西野……!」

「え? え? おれ?! 無理無理! だって、おれの能力って……!」


 ヒロトが西野の名を呼ぶと、彼はおどいたように自分を指差す。

 西野の耳元でヒロトが何かをつぶやくと西野はさらに目を丸くした。


「このけむりがはれた時がお前たちの最期だ! はっはっは!」

「最期はお前だ! 俺が今、どういう状態か確認せずにそんな事を言うなんて、パンサァ0点だ!」


 パンサァは元気なユーシャ先生の声を聞いて目を丸くする。


「その声は……元勇者!? まだ動けるのか!」

「元気だよ! さっきの一撃は危なかったが、間一髪でかわしたぜ」

「くそ……失敗か! ……まあいい! 次だ! 次こそは、お前を倒す! 西にある城で新魔王と共にお前を待ってるぜ!」


 パンサァはそう言いのこし、去っていった。

 けむりが晴れるとそこにいたのはぐったりとしたユーシャとヒロトや西野達だった。


「ナイス【変身】、西野」

「マジでビビった……だまされてくれてよかったあ~」


 ヒロトと西野はハイタッチを交わす。

 ヒロトは西野の能力が【変身】だと【超鑑定】で知っていた。なので、ユシヤの声で元気なふりをするよう指示したのだ。

 そして、パンサァを逃げるように仕向けた。


「やっぱりヒロトはすげえな」


 近くにいた岩倉がそう言って笑う。だけど、次のしゅん間、悲めいがあがる。


「待って! 美海が! 美海がいないの!」

「転送の魔導具もありません! まさかさっきのヤツが?」


 その後、城の中をくまなく探し回っても瀬戸と転送の魔法道具は見つからなかったが、代わりに。


『新魔王の城で待つ』


 というパンサァの置手紙だけが見つかった。


「ど、どうする?」

「助けに、いく……?」

「でも、無理よ。あんな戦い……私達小学生なのに」


 クラスでは今、これからについて話し合っていた。

 パンサァの強さとあのおそろしさを目の当りにしたら、とてもではないが自分たちが太刀打ちできるとは思えなかったのだ。


「みんな、すまない……先生のせいだ」

「先生……」


 ユーシャの言葉にみんなだまってしてしまう。ユーシャ先生はボロボロになって助けてくれた。今も歩くのがやっとの状態だ。そんな彼をせめることなどできなかった。


「ぼく、行ってくるよ」

「え? 天河くん!?」


 いきなり、立ち上がったヒロトにみんな驚く。


「お前! 本気で助けに行くつもりかよ!」


 西野に言われてヒロトは首をかしげる。


「え? だって、助けに行かないと瀬戸さん、死ぬかもしれないでしょ? ぼく、自分が死ぬのも怖いけど、何もしなかったせいで瀬戸さんが死ぬのもこわいよ」


 ヒロトがそう言うと、クラスメイトの時田がさけぶ。


「かっこつけんなよ! 天河! お前助けられるつもりかよ!」

「え? うん、一応作戦は考えた」


 ヒロトの言葉に一同はあっけにとられる。


「ぷ! あはははは! さすがヒロト!」


 そんな中で岩倉が口を開く。


「オレも行くぜ」

「岩倉君まで……」

「ヒロトの言う通りだ。オレも怖いけど、瀬戸さんがころされるのはいやだ。だから、助けに行く。それにヒロトが作戦があるって言うんだ。なら、大丈夫だ!」


 岩倉はヒロトにとって友達ではない。だから、なぜこんなにほめてくれるのかは分からないが、味方に付いてくれたのは大きい。

 一人、また一人と立ち上がり、最終的には全員が立ち上がる。


「み、みんな……」

「先生はけが人だし、ここで待っていてください。必ず帰ってきます」

「分かった。だけど、天河。その作戦ってなんなんだ? それを教えてもらわない限り、先生は許可を出せない」

「それは……」


 ヒロトが作戦を説明すると、みんなはおどろく。


「お前……マジか……」

「あははは! さすがヒロト!」


 ヒロトは岩倉のさすがヒロトの意味が分からなかったがみとめてくれているようでほっとした。先生もヒロトの説明を聞きなっとくしてくれたようだ。


「まったく、天河お前ってやつは……100点満点だ」

「いや、百点満点の作戦ではないと思いますけど」

「いや、これはお前自身の点数だよ。作戦もそうだが、お前の勇気、やさしさ……全部合計で100点満点だ!」


 ユーシャ先生はそう言ってヒロトの肩に手を置いて笑う。ヒロトは先生のその顔を見てるとなんだか恥ずかしくなって思わず別の方を見てしまった。

 その後、そうだんして助けに行くメンバーが決まった。

 ヒロト、西野、岩倉を含めた8人で向かう事になった。


「じゃあ、行って来ます」

「おい、天河」


 準備をととのえ、新魔王の城に向かおうとするヒロトをユーシャ先生が呼び止める。

 そして、ヒロトの両肩をつかんでまっすぐヒロトを見て言った。


「お前、『なんで作者の気持ちが先生に分かるんですか?』って言ったよな? 先生にだって本当の気持ちは分からない。だけどな、分からないから知りたいんだ。異世界も友達も人も知れば知るほどたいへんでワクワクするから」


 ユーシャ先生はそう言って笑ってヒロトの頭をくしゃくしゃになでた。


「お前なら出来るって先生信じてる。がんばれ!」


 ユーシャ先生からエールをもらってヒロト達は出発した。

 王様が用意してくれた馬車に乗って、見たこともない生き物や自然、建物を見ながらヒロト達は新魔王の城を目指した。

 時々、モンスターも出てきたが、岩倉の魔法の球のシュート一発でやっつけることができた。

 そして、新魔王城の近くで暗くなってきた事もありキャンプになった。


 テントを張るのは、ボーイスカウトの平と手伝いで西野、料理部の及川、そして、瀬戸と仲が良い岸と斎藤女子二人組が料理を作る。そして、見張りを、剣道部の木原、そして、岩倉、ヒロトが担当した。


「しかし、ヒロト。お前、なんでいつもそんなに冷静なんだ?」


 岩倉が不思議そうにたずねてくる。


「え? 冷静? 別に……そうでもないけど、ぼくも怖いし。でも、小学校三年まで大地震のあった所でくらしてたから、ちょっとだけそういうのになれてるだけかも」

「そうか……ヒロトは……」


 そんな話をしているうちに、テントと料理が完成した。

 そして、冒険で腹ペコだったみんなはカレーを一気に食べてテントに入った。

 男女に別れたテントの中ではひそひそ話でどの女子がいいかを話し合ったりした。

 ヒロトも聞かれたけど、パッと思いついた瀬戸の名前ははずかしくて言えなかった。


「男子! 起きて! だれか来る!」


 夜中。斎藤の声でヒロトたちは目を覚ます。

 ブラスバンドをやっている斎藤は【超聴力】という遠くの音を聞くことが出来たので、気付いてすぐに起こしに来てくれた。


「どっちから?」

「向こうから! やっぱりパンサァっていうのが!」


 斎藤が指差す方向を見ると、パンサァがあっという間に目の前にやってきた。


「よお、お前ら勇者はどうした?」

「お前に教える義理はない!」


 岩倉が叫ぶ。


「ふむ……そうか。ならきえろ!」


 パンサァは魔法をとなえようとする前にヒロトが叫ぶ。


「おい! お前ひとりなのか!」

「こういうのは全部オレの仕事なんだよ。まあ、オレひとりでよゆうだけどなあ」


 パンサァとヒロトはまっすぐ向かい合う。

 ヒロトは【超鑑定】で確認する。そして、戦う事をあきらめ武器を手から離し両手を挙げる。

 パンサァは強すぎる。絶対に勝てない、と。

 そして、ヒロト達はパンサァにつかまってしまった。




「おい、パンサァだ。勇者の弟子どもを連れて帰った。通せ」


 次の日、新魔王城にヒロト達は縄で縛られた状態で連れて来られていた。


「パ、パンサァ様さすがですね!」


 門番の兵士はおどろきつつも道を開ける。


「むだ口をたたくな、それより新魔王様のところへ連れていけ」

「新魔王様のところに? では、こちらへ」


 兵士に案内され、ヒロト達は新魔王の所につれていかれた。


「入れ」


 部屋に入るとそこには大きなイスに座っている男がいた。

 黒い服を着た沢山のツノが生えたおそろしい男だった。


「よく来たな……お前らが勇者の弟子どもか。パンサァよ、よくやった」

「は! それで新魔王様、ほうびをいただきたいのですが……」

「いいだろう。何が望みだ?」

「こいつ等を人質にする代わりに連れ去ったあの女を私の恋人にさせてもらえないでしょうか?」

「……まあいいだろう」

「ありがとうございます! 今、あの女はどこに?」

「今だにあの魔導具を抱えてすんすん泣いている。おい連れて来い」


 すると瀬戸が兵士に連れられて入ってくる。


「瀬戸さん!」

「ヒロト君! みんな!」


 小さなオリのようなものに入れられているが瀬戸は無事だったようでよかったとヒロトは胸をなでおろす。


「では、新魔王様。このオリを開けてこの女を連れて行っても」

「いいだろう」

「そんな……! いや! いやよ!」

「女! こいつらがどうなってもいいのか?!」


 パンサァの言葉に瀬戸はだまってしまう。


「それでいい。さあ、こっちへこい! こっちへ来て……逃げるぞ! 瀬戸!」


 パンサァがそう叫ぶと全身が光に包まれ西野の姿にもどり、瀬戸は目を白黒させる。


「え!? 西野君?!」

「俺のスキル【変身】だ! 演劇クラブの力を見たか! なあ、ヒロト!」


 そう言って西野は瀬戸をヒロト達の方に押し出す。

 あわてて受け止めるヒロトは瀬戸と目が合い、思わずドキッとする。


「あ、ヒロト君……助けに……来てくれたの?」

「うん、もちろん」


 ヒロトは照れながらも瀬戸を見て答える。


「はっはっは! 感動の再会と言うワケか」


 そう言いながら魔王はゆっくりと近づいてくる。


「どうやってパンサァをたおした?」

「たおしてない。お前があやつるためにつかってた角のアンテナをこわしただけだ」


 ヒロトは、最初にパンサァと出会った時に気付いていた。

 パンサァがどこか苦しそうに見えたし、新魔王と呼んでいた。

 普通は、部下なら新魔王『様』とマンガとかなら言う。だけど、パンサァは言わなかった。

 もしかしたら、パンサァは無理やり言う事を聞かされてるだけなのかもしれないと思っていたので、キャンプをおそってきた時に聞いてみた。

 すると、パンサァはうなずいて、角のアンテナがある限り新魔王には逆らえない、と教えてくれた。


「ほう。で、どうやって助けた?」

「岸さんの家はお医者さんなんだよ」


 岸の【超医術】は、魔法の力で手術が出来るというものでパンサァの角をとりのぞく手術をしてみせた。

 角がとれ自由になったパンサァは礼を言って、新魔王城の事をヒロト達に教え、どこかへ去っていった。


「なるほど、さすがは勇者の弟子。だが、どうやって私達を倒すつもりだ」

「……瀬戸さん。転送の魔導具持ってる?」


 ヒロトがひそひそと瀬戸に話しかけると、瀬戸はこくりとうなづき、ヒロトに転送の魔導具を渡す。

 ヒロトはそれを受け取ると新魔王と向かい合う。


「なんだ? まさか本当に戦う気なのか?」

「ぼくには魔王と戦う力はない。けど、ぎゃふんと言わせることは出来るかもよ」

「ほう、どうやって?」

「こうやってさ!」


 ヒロトは新魔王に魔導具を向ける。

 ヒロトが瀬戸といっしょに魔導具に魔力をこめるとピカっとかがやきだす。


「転送の魔法でね!」

「転送の魔法陣!? 逃すものか!」

「逃げないよ!」


 ヒロトがそう言うと新魔王たちと一緒に光に包まれ、新魔王城からいなくなった。


「こ、ここは……?」


 新魔王がきょろきょろと周りを見るとそこはロクシイ王国のお城だった。


「……王城?」

「新魔王様大変です! こ、この部屋は牢です!」

「なに!?」

「6年C組! ダアアッシュ!」


 岩倉がそう叫ぶと新魔王達がみんな岩倉の方を見る。

 そのすきに、瀬戸の手をヒロトが握り、唯一開いている出口に向かって走り出す。


「全く……悪ガキ共は、とんでもないこと考え付くなぁ……城の大広間を牢屋にしちゃうなんて」


 ユーシャ先生は出口でヒロト達が駆けてくるのを笑顔で見ている。

 新魔王を倒すのは今のユーシャ先生でも難しい。でも、少し怯ませるくらいならと剣をかまえる。


「先生、どう!?」

「百点満点だよ!」


 すれ違いざまにヒロトはユーシャ先生とハイタッチを交わす。

 そして、ユーシャ先生が新魔王に向かって剣を振ると新魔王は悲鳴を上げ、そのまま後ろに下がる。


「よし! 今だ! 牢のとびらを締めるんじゃ!」


 王様の号令で皆が動き出し、ヒロト達が出たしゅんかん、とびらが閉められる。


「やったぁああああああ!」


 クラス全員が歓声をあげる。新魔王は牢屋にとじこめられて観念したように動かなくなった。


「やったやった! ありがとう! ヒロト! わたしうれしかったよ!」


 瀬戸が抱きついてくるのでヒロトの顔は真っ赤になってしまう。しかも。


「ヒロト様! すごいです! こんな方法で新魔王をつかまえるなんて!」


 そう言って姫までヒロトに抱きついてくる。


「え、ええ!? 姫!?」

「ちょっと! なんで姫様がヒロトに?」

「うふふ、私、かしこい人好きなんです!」


 間にはさまれたヒロトは汗がひどいことになっていた。


「あーもう! なんなんだこれ!」


 ヒロトは思わず頭を抱えてしまうとユーシャ先生が笑っていた。


「天河! お前ならこういう時も一発逆転の方法が思いつくんじゃないのか!?」

「ユーシャ先生! そんなわけないだろ! あーもう! たすけてー!」


 そして、数日後、ユーシャ先生とヒロト達は元の世界に戻っていった。




「しっかし、あんだけ大変な目に遭っても普通に授業するんだもんなー」

「当たり前だろ、大地。誰が信じるんだよ。こんな話」

「そりゃそうだけどよ」


 ヒロトと岩倉はそんな会話をしながら山を登る。

 今日は遠足の日。ヒロトは岩倉に誘われて同じグループになっていた。岩倉とは大地と下の名前でよべるくらい仲良くなった。

 そして、


「ねえねえ、ヒロト! 一緒にお弁当食べようね!」


 瀬戸も同じグループ。アレ以来、瀬戸はよりヒロトにからんでくるようになった。


「なあ、大地。ぼくなんか変なフラグ立ててない?」

「何言ってんだ。それより、今日の弁当は何かな~」


 ヒロトの声を無視して岩倉は先に進んでいく。

 だが、突如として立ち止まり、ヒロトはぶつかってしまう。


「おい、どうしたんだよ、大地……って、あれ」


 ヒロト達の目の前で転送の光が現れていた。


「またかよ! なんで!?」


 そんな事を言っていると姫様が現れる。


「ヒロト様! よかった! お会いできて! お願いします! 助けて下さい! 獣人族の方たちとの間に今問題が起きていて……」

「それってどういう事!?」

「説明している時間はありません! 早く来て!」


 姫はヒロトの手を取り魔法陣の中に飛び込もうとする。


「ちょっと待ってよ!」


 瀬戸が必死に引き止めようとするが、姫はふふんと鼻を鳴らす。


「ヒロト様なら来てくださいますわよね?」

「なら、私も行く!」

「俺も行くぜ! ヒロトと一緒なら楽しそうだ!」

「大地、お前なぁ……」

「じゃあ、皆さんで行きましょう」

「待て待て! お前ら! 遠足は!?」


 ユーシャ先生がやってきて、ヒロト達を止めようとする。


「……じゃあ、異世界で遠足ってことにしようよ! そっちのほうが勉強になりそうでしょ! ね、ユーシャ先生!」

「勇者先生ってゆうなぁ! まあ……向こうも平和になってるみたいだし、大丈夫か。たく、分かった! じゃあ、二列! 絶対に先生のいう事をこっちに帰りつくまで聞くこと! 帰るまでが遠足だからな! 出来ない生徒は0点だ!」

「「「はーい!」」」


 そうして、ヒロト達6年C組はユーシャ先生と異世界へと出かけていく。今度は遠足で。

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