第6話 ドロシイ、魔物の赤ちゃんにトトと名付け

「キュキュルン」


 と、くりくりな瞳で甘えたようにすり寄ってきたのは、昔お伽噺の中でみたようなドラゴン……ただし毛はふさふさとしている。

 そんな子が卵の欠片をパリパリ食べてはキュキュルンっとお腹を見せてころんとドロシイの前に転がっている。


「えと、何か鳥の卵かなって思ったいたら、ドラゴンの卵だったなんて……」

 昨日見たギルドの依頼書。

 その中には伝説のドラゴン討伐依頼みたいなものも、ずっと剥がされないまま年月が経った紙が貼られていた。


「ウキュ?」

 キュルンとした可愛らしさに手を柔らかなお腹を擦ると、喉をキュルキュルと嬉しそうに鳴らしてドロシイの手に身を委ねている様子だった。




「と言うことなのよ」

 ドロシイはブリキにこっそりとカカシとレオンを呼んで来るように頼んでいた。

 ドロシイの部屋に集まった残りの3人は最初にドラゴンの赤ちゃんと聞いて驚き、次にキュルキュルしているふかふかな毛並みの子に声にならない悲鳴を上げ、ベッドの下に隠れたレオン以外はその可愛らしさにメロメロとなっていた。


「ドロシイ、いくら赤ちゃんだとはいえ、ドラゴンの赤ちゃんは危険だよ……」

 レオンは恐る恐るベッドの下から出てきてドラゴンをこっそりと覗き込む。

「でもドラゴンだぜ? 大きくなって乗り回せたら最高じゃん!」

 ブリキはドラゴンの赤ちゃんの身体をプラプラとさせている。

「でもこんな危険な卵があの若葉冒険者しか来ないようなサワサワ草原にあるなんて信じられないな……。それにドロシイ、こんなドラゴンの赤ちゃんなんて、冒険者ギルドに見つかったら大変だ。もしかしたら研究対象として国の研究所に送られちゃうかも……」

 カカシはうーんと悩んでいる。

「でもトトが一緒に来たいって……」

「「「トト?」」」


 なんとなく、ドロシイにはこのドラゴンの赤ちゃんの名前が思い浮かんでいた。

 犬のように柔らかな毛並みのこの子はトト。きっと私とずっと一緒にいてくれる大切なお友達。

「キュルキュル」

 トトと呼ばれたドラゴンはブリキから離れると、ドロシイに甘えたようにじゃれついた。


「うーん、ドラゴンだとわかっても討伐されない方法……それなら……閃いた! いい方法があるよ!」


 トトをランドセルの中にいれると、トトはキュルンと頷く様に大人しくなった。

 それから4人は昨日出掛けた冒険者ギルドに向かう。


「あら? こんにちは。昨日の疲れはどうかしら? 無理はしない方が良いので、今日は依頼はお休みしたら如何かしら」

 受付のお姉さんが優しく話しかけてくれた中で、カカシは緊張したように小さく唾を飲み込むと、用意していた台詞を口にした。

 

「受付のお姉さん、職業ジョブの登録をお願いしたいのだけど」

「あら? ブリキ君は見習い剣士、カカシ君は見習い魔法使い、レオン君は見習い盾職だったわね?」

「ドロシイは少し特殊な職業かもしれないんだ」


 ドロシイは打ち合わせ通りに鞄の中からトトを持ち上げる。

「ドロシイはね、魔物とお話できる、モンスター使いなんだと思う!」

「まぁ!」

 ドラゴンの赤ちゃんの姿に、ギルド内がざわつく。

 隅でお酒を飲んでいたオズが慌てて受付の前に出てきた。

「おい、まさか昨日の草原で拾った、何て言わないよな!? こんな危険種、大きくなってからモンスター使いを裏切って、なんて事になったら洒落にならないぞ。いいか、街には戦う方法がない市民だってたくさんいるんだ。軽い気持ちでいても、生き物を飼うには責任が伴うんだぞ!!」

 オズの強い言葉に泣きそうになりながら、ドロシイはぐっと目に力を入れて、カカシに教えてもらったモンスター使いの話を思い出す。


「モンスター使いは、モンスターと契約するとき、必ず交渉をします!この子が産まれる前に、卵を叩いて聞きました。ひとりぼっちなら、私と一緒に来る? って。この子はそれに応えて一緒に来ることを選んでくれました。それはモンスター使いの呼び掛けにモンスターが応えた事になります」


 そう、カカシが昔親から聞いた事では、モンスター使いになれば『従魔』が使えるということ。『従魔』になれば討伐されないということ。ドロシイたちは正攻法でトトと一緒にいることを認めてもらおうとしたのだ。


 オズはじろりとドラゴンのトトを睨むが、キュルンとしてドロシイの頬をペロペロと舐めるばかり。

 はぁ、と大きくため息を吐きながら、手を差し出す。

「必ず責任を取るんだな? 見習いモンスター使いになるにはモンスター使いの特別講習を受ける必要があるぞ。それと、ギルドカードに職業と従魔の項目を付け足しておけ」

 その言葉に、ドロシイはむぎゅりとトトを抱き締める。つまり、認めて貰えたのだ。


 ドロシイはピカピカのギルドカードを見てにっこりとする。


 ギルドカードの若葉はまだ消えない。

 けれどもきっとブリキとカカシとレオン……それからトトも。

 きっと皆で冒険をしたり依頼を達成したりするのだろう。



 大切なものを忘れてしまったドロシイが、心にかけたものを持つ少年たちと一緒に成長する物語は、今始まったばかり。



 おしまい。

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ドロシイと不思議な冒険 弥生 @chikira

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