第8話 消滅ガールの再確認

 分からない、そう答えた。

 その意味の通り、なんでも消滅する少女は唯一の欠点があった。


 自分が消したものが、本当に消したのかどうかすら『知らない』。

 それを本当に消したかどうか、それを本当に決めるのは第三者が見た世界のみ。


「えっと、つまり?」

「その時は近くに誰もいなかった。だけど、私が消したのは違いないの」

「それで、大切な人を失ったのをいつまでも引きづっている。というねー」

「その冷たさには慣れたものね。けど、本当にその通りなのよね……」


 言葉では肯定しているが、しゅうの視線は下に下がっていた。

 ショッピングモールに入ってすぐに、2人は人がいない場所に向かって歩いて行った。

 結果今は裏側の人しか通れ無さそうな場所で、外を目指して歩いていた。


 表側ほど明るさがある訳じゃなく、壁の色も白に近い灰色の一色か続いていた。

 迷子がよく出てるのか、少し歩くと地図が見えるのは2人にとって救済措置だ。

 きちんと確認しながら移動しているため、同じ所を通ってはいない……はず。

 例え満身創痍でも相手は迷わず殺してくるため、簡単には止まってられない。


「それにしても、この建物ちょっと道が多すぎじゃない? 確かに表には多くのお店があったけど、流石に長すぎ! ほら、さっきドアがあったのにまたある」

「こういう建物に入るのは初めてだけど、表側の様子からして裏側の割合はそこまで多くないはず……」


 元々家族など複数人用に作られたショッピングモールに対して、ほとんど個人で動く2人にとっては縁遠いものだった。

 そのため、とりあえず今は手持ちの情報だけで何とか動くということにした。

 

「とりあえずどこの出口を目指す? 最初の入り口は完全にいるでしょうね」

「一応駐車場の方から出ようとは思ってる。私達が入った場所の正反対だし、大丈夫だと思う」

「一般人がいるとはいえ、上ルートも考えておかないと」


 最初に案を出した霧氷むひょう凍花とうかは、地図の上端らへんを指した。

 目的地はここに決めるとして、ある問題が生じていた。

 それは、『この地図』は表側のことを記しているのであって今歩いている場所までは書かれてないのだ。

 確認方法はあるにはあるが、危険度が高すぎる。


「……ねぇ、あっちを歩くというのは許されると思う?」

「どこまでアイツらがいるか分からないし、民間人を含めて発砲しそうで恐ろしいのよね」

「あー、そういえばスパイみたいなのもいたわね。変に騒動起こすより、こうやって裏で歩く方がいいのよね」


 しかしとりあえず今の場所を確認したいのと、外を見たくて仕方ない霧氷むひょう凍花とうかの好奇心が抑えられず、少しだけ見ることに。

 外を見ると、まず最初に涼しい風がいっきに入ってきた。

 完全空調の効いた場所はとにかく涼しく、人をおびき寄せる呪いか何かあるように感じた。


 その次には歩く人達へ自然と目が行ってしまう。

 家族、友人、兄弟、恋人。

 どんな関係性なのかは知らないが、誰かと一緒に楽しそうに歩いていた。


「……なんだか、羨ましい」

「確かに私達からは遠いかも。というか、しゅうにそんな感性あったんだ」

「氷の女王様は心から手先まで冷たいことで」

「ちょっと待て、それってどういう……あ、待ってよ!」


 流石に言い過ぎてしまったのか、場所の確認が終わると早歩きべ目的の方向へ歩いて行ってしまった。

 あんな巨大な能力を使う少女にも、言ってもらいたくない言葉の一つはあるのだと気付くのであった。


 そこから会話が続くことは無かった。

 というより、新しい話題が出ることは無かった。

 別に必要以上仲良くする必要ではないと、互いに理解している。

 しかし、この空気もどこか耐性が無い自分には耐えれない何かがあった。


 しゅうは無意識的に、服の中から何かを出していた。

 ロケットのように見えるが、中に写真は入ってない。

 サイズも小さく、金色の光沢感も場所によっては消えていた。


「……それ、例の人の?」

「貰い物……というより、お揃いかな。確か、初めて出会った時に気が付いたらつけられてて」


 目を細めて見つめるしゅう

 GPSでも内装して、発信機になっているかもしれない。

 けれどそれを知っていながらずっと身に着けていた。

 いつからなのかは覚えてないが、ひょっとしたらどこかのタイミングで自分の中にある『失いたくない物』の1つにしていたか、あるいは。


 と、懐かしい思い出に浸っている人の横で、ロケットをとにかく見つめる霧氷むひょう凍花とうか

 そこまで珍しい物では無い……はず。


「確かにあまり見ないけど、そこまで珍しい物でも無いはずだけど?」

「あー、そうじゃなくて。これって結構個性的なデザインじゃん」

「そうね。オーダーメイドと言われたら納得してしまいそうだけど」

「だよね? 確かどこかで見たことあった気がするけど……気のせい?」

「………………………………………………………………………………………………え?」


 口から出た言葉は、予想の斜め上のものだった。

 これと同じものを身に着けていた人がる。

 つまり、その情報が持つ意味は。


「つまり、ゆうやはまだ生きているってこと?」

「え、今の話でそうなるの? それに、まだ確信してないでしょ!」

「それをどこで見たの! お・し・え・な・さ・い」


 霧氷むひょう凍花とうかの肩を掴むと、力いっぱい前へ後ろで何度も振っていく。

 ぐわんぐわんと激しく動く視界に、酔いそうな勢いのため急いで止めることに。


「うぅ、頭痛い……」

「問答無用。それで、ゆうやを見かけた場所はどこ?」


 仁王立ちして見下すように見ていると、ある一点を指さした。

 しかしその先は壁であり、通路もある訳ではない。

 頭を押さえながからなのかと思ったが、治った後も同じ方向を指さしていた。


「そっちは壁だけど?」

「頭の地図が正しかったら、この直線上に特殊な施設がある」

「つまりそこにゆうやはいる、と」

「一応聞きますけど、今から向かう先って……」





「そこだけど?」

「ですよねー」


 普段は霧氷むひょう凍花とうかは振り回す側なのに、今日は振り回される側になっていた。

 その様子を見て、霧氷むひょう凍花とうかは、昔読んだ本の1文を思い出した。


 『1度暴れた女性は、誰にも止められない』


(今なら何となく分かる、その意味が)


 この後、今いる建物に大きな穴をあけることにるとは。

 そんなことも知らずに歩く2人であった。

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氷結ガールと消滅ガール 遅延式かめたろう @-Suzu-or-Sakusya-

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