第7話 氷結ガールの疑問点

 借りていた部屋は"生成"した氷で完全に崩壊させた。

 今はとあるカフェの中で休憩していた。

 追われてる身の人がすることなのか、少し疑問になるものだが。


「コーヒーって初めて飲んだけど以外に美味しいんだね」

「ここの街はアルトペチアという、芸術とかそっち系で有名らしいわね」

「建物から道、市民の服装から意識まで……何もかも縛られてるみたい」

「貴方の氷で何か作ってみたら? ある程度の金額になるんじゃない?」


 旅を始めて数日で金欠になった2人。

 前の街を出る前に、助けたお礼に少しのお金を貰った。

 しかしあくまでも少しであり、この街では以外に物が高かったりといいんだか悪いんだかの連続だ。


 因みに霧氷むひょう凍花とうかにはそんな芸術センスが無いため、作ろうにも作れないだそうだ。

 それはそれでどうなのかと作らせてみた結果、どうも金になる木には見えなかった。


「ひょっとして他の逃亡者もこんな感じなのかな? 毎日お金をなんとか少しづつ減らしていって、どこかのタイミングで一気に稼ぐ。みたいに」

「そもそも逃亡するような犯罪者はお金ぐらい盗むと思うけど?」

「あ、」

「一応言っておくけど、私の能力は今度こそ使えないと思って」


 そう言うと、木製のテーブルで寝始めたしゅう

 眠そうには見えなかったが、確かに眠くなるような気持ちい気温だった。

 街全体に空調が効いているように、どこを歩いても涼しく感じるようになっていた。


「そういえば、もう暑くなる時期なのね」

凍花とうかにも暑い寒いを感じる神経はあったのね」

「他の人よりかは熱には強いわね。服の下に氷を"生成"することも出来るし。ただ、そこまで激しい動きは出来ないかも」


 普段から異次元レベルの激しい動きで逃亡している人が何を言う。

 会話をこれ以上続けたくない気持ちが強くなってしまい、再度寝ようと思った時だった。

 ヒールなどの硬い靴特有の足音が聞こえた。

 音がした方を見ると、メイド服の面影が残ったような落ち着いた制服を着た女性店員がお盆に何かを乗せながら歩いて来た。


「こちら、サービスのコーヒーでございます」

「あ、どうも。けどサービスなんて初めて聞いたんですけど?」

「お2人からの会話を盗み聞きしてしまったことを先に謝ります。そういうことなら、私達のお店でもサポートさせて下さい」

「そんなお人好し話……あるものだね」


 ゴトッと2人の前に置かれたのは、金色の刺繡が入った白色のティーカップだった。

 中に入っている紅茶からは、使ったであろう花の匂いが優しく漂ってくる。

 丁度何か飲もうと思っていたしゅうは持ち手を掴み、縁を口に近づけさせた。

 しかし、唇に振れる直前にピタリと止めて、店員さんの方を細い目で見つめる。


「サービス、ねぇ。わざわざありがとうだけど、このティーカップはどうしてここだけなのかしら?」

「たまたま今回使ったのがというだけです。もしお気を悪くしてしまったのなら、今すぐ別のを用意します」

「いいえ、いらないわ」


 バァァン!


 乾いた銃声が、街の中で響いた。

 その音が本物だと気付いた市民は、分かった人達から焦ってその場から離れていく。

 中には甲高い悲鳴を上げる女性もいた。


 その銃弾は店員の脇腹を完全に貫通させ、隣のテーブルに置かれていたパラソルを貫いていた。

 店員が来ていた制服が白だったこともあり、より出血が目立つ状態になっていた。


「がはっ、貴方……何故分かった!」

ヶ月かづき幽夜ゆうやを知ってるか?」

「はぁ、はぁ……ゆう、や? 知らないぞ、そんなの!」

「知らない? 本当にか? その記号は向こう側の人間のだろ? 知らないとは言わせない!!」


「止めてしゅう!!!!」


 霧氷むひょう凍花とうかしゅうの目の前に立ち、両腕を大きく広げた。

 店員を庇うようする動きに、思わず見開いてしまう。

 拳銃を持った手が一瞬震える。

 銃口の向きを変えないまま、霧氷むひょう凍花とうかを睨みつける。


「ねぇ、どいて。ソイツを殺せない」

「目を覚ましてしゅう!」

「ゆうやの話が聞けない。貴方まで殺してしまう」

「『ゆうや』って誰なの! しゅうが脳力を使えないのと何か関りがあるの!」


 

 倒れた店員に向けていた銃口を上げて、目の前で店員を庇う少女を撃つ。

 銃弾は顔の横をギリギリ通り、後ろにあったパラソルを何本も倒していく。

 これは流石にまずい、ゴクリと唾を飲みこむ霧氷むひょう凍花とうか


「あら、氷の壁でも作ると思った」

しゅう、私のこと見てるの? それに、ゆ……

「そこまでだ! この辺りで銃声が聞こえたと通報があった! 犯人は大人しく出てこい!」

「……あーあ、来ちゃったんだ」


 しゅうは、警察が来たのを確認すると銃のリロードを始めていた。

 最初から分かっていたのかと思うようなスムーズさがあり、躊躇いも無く再度引き金を引いた。

 最初に撃ったのは、先ほど声をあげていた警察官だった。


「があっ!」

「隊長!」

凍花とうか、話してないことがあったわね」

「しゅう?」


 初めて会った時とは真逆な立場で、あの時手を差し伸べられた少女が今度は引く番だ。

 人と一緒に動くことを自ら避けていた少女は、あの時出会った眩しい一番星に見える少女の手を掴みながら走り続ける。

 との距離はまだあるのを確認すると、再度正面を見て足を動かしていく。


「…………凍花とうかは、知らなかったわね」

「そもそも、ずっと疑問だったの。なんで能力の話をするたびに暗くなるかを」

「そう、私は逃げていた。ずっと」

「こう聞くのもあれなんだけど、しゅうは『その人』を消したの?」

「恐らくは」


 2人はそのまま近くにあった大きな建物の中に入っていく。

 中にはまだ人が残っており、どうやらこっちには銃声が聞こえなかったらしい。

 色々な人達が買い物をしており、中の天井は3階だけにありとにかく空間を広く感じる場所に入った。


「その反動で、今まで使えなくなっていた」

「じゃあ、恐らくって曖昧に表現したのは?」

「本当に消したのかは分からない」
















「消すときだけは、見えないのだから」

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