第6話 消失ガールの首輪
「消滅のルールは、何かで隠すだけ」
確認するように、誰にも聞こえさせないように呟く。
右手を視界の中に入れると、突然頭を抱えるほど重くなった。
ザザザと砂嵐が聞こえてくると、そこにはさっきまでとは違う場所が脳裏に映っていた。
どこかの研究所のような辺り一面金属で出来たもので建設されている場所。
手が触れようとした先には、白い布がスローモーションされているように見えてしまった。
視線は無意識的に白衣を着た人物に動いていく。
間違いない、あの時消してしまった人だ。
「……っ、だから、なんなのよ!」
開けられない左目を手で塞ぎながら、目の前にいるのに向けて八つ当たりのように叫ぶ。
自分では制御できない、強すぎるその力を力づくて制御する。
ゆっくりと立ち上がると、深く息を吐いた。
「はー……私に、その仕事を押し付けるとか、能力と一緒に心まで凍ってしまったのかしら」
今も下で戦っている少女を思い出す。
最初はそこら辺にいる自分とは異なる普通の人間だと思っていた。
しかし、この数時間で分かったことがある。
(自分なんかよりあっちの方が抜けたねじの本数が多い)
『ある人』は狂った人をそうやって例えると教えてくれた。
まるで人間が自分のことをロボットのように言う皮肉に最初は聞こえた。
しかしあれは言葉通りねじが飛んでいる。
「これが、最初で最後になって欲しいんだけど」
再度視界の中にぴったり閉じた右手を入れる。
今度はさっきとは異なり、砂嵐もフラッシュバックも起きない。
飛行船の到着は思ったよりも早く、さっきまでは自分の手と同じぐらいだと思っていたら何十メートルものサイズに見える距離まで近づいていた。
爆弾を落とすのは近づいた時だけの、一点集中型の空飛ぶ弾薬庫。
書庫にあった資料には百メートルと表記されていたが、改良されたタイプは更に大きく速く作られているように見える。
(久々だから、能力の使い方を忘れてしまわないように)
ゆっくりと視界の中の右手を左にスライドしていく。
消滅のルールは何かで隠すだけ。
そんな小さな動作で、1人の少女は視界に入ったそれを消してしまう。
消滅ガールに、情けは存在しない。
スゥゥゥゥ……
外から見たら、それは本当に消えていった。
消えた、という単語以外見つからない現象が起きた。
何か透明な立方体が出ることも無く、1つの映像から消しゴムツールで消したようにゆっくりと消えていった。
「これが、”消滅”」
道の上にいた1人の人間がそう呟く。
空いた口が閉じない、それほどの衝撃が走った。
なんだこれは、問答無用過ぎるだろ。
数分前では、この通りにいた人達が死ぬかもしれないという状態だった。
どう見ても逆転出来ない、出来た所で少しの被害が生まれないとおかしくない状況だったはずだ。
そのはずなのに、あの少女は大きなことをせずにやって見せた。
「……あ、成功した」
成功した、簡単なお遊びの賭け事で成功したぐらいの感覚。
本人にとって、このとち狂った狂気は服の下に隠していた拳銃よりも軽い感覚で、引き金が引かれていた。
……はずは無かった。
「………………あ、はは。手の震えが止まらない」
しかし、
今の飛行船には、一体何人が乗っていたのだろうか。
(それから生まれる被害からして、残った人数的にはプラス……のはず)
なのに嫌な汗がさっきから止まらない。
死体の方が良かったかもしれない。
そう思う程酷いことを、自分はやってしまった。
そう思うと、何か悪夢をみてしまったような感覚に襲われた。
死体が無いのでは、その人が死んだかどうかすら分からない。
もし自分がそちら側になったらどうなるのか、それを
誰よりも知っていた。
「……ひょっとして、私は許されない存在?」
呼吸が荒くなる。
ヒュッと喉に何か詰まっている音しか出てこない。
上手く呼吸が出来なくなっていた。
能力で消し過ぎた反動なのか、精神的なものなのか分からないほど混乱していた。
(息が出来ない……頭が回らない……)
重くなっていく瞼に押されて、眠りに入ってしまう。
(もう……たすけてよ……ねぇ……)
「……ゆうや」
「……って! おき……う、ゅう……起き……」
「え、」
「起きろって言ってるでしょ! 起きろ、
「とう……か?」
「そうよ! 私が
何とかして思い頭を動かして、視界を動かすと、そこには涙をボロボロ流すことなく胸を張る例の氷の女王がいた。
パステルカラーのメッシュに、雪の結晶型の髪留めを付けた黒に近い青色の髪に、ルビーのような赤い瞳。
可愛らしいワンピースは彼女を可愛く包む。
しかし目元は赤く、さっきまで泣いていたのだろうか。
「……泣いてたの?」
「ないでない!」
「そう」
「もっと他に聞きたい事ないの! というか、あんなものを消せるとか聞いてないんだけど!」
「……被害数」
「はいはいそうですねー、このお人様め。被害に関しては、0。まぁ軽い怪我をした人はいるんだろうけど、この街の人だし大丈夫でしょ」
「……ははっ、その冷たさからして本人ね?」
そういうと、フグみたいに両頬を膨らませる
自分と比べて浪費した体力は多いはずなのに、ケロっとしていた。
そういえば、一緒に逃げる時も巨大な氷の塊を作ったのに笑っていたな。
「ふふっ」
そう思うとつい笑ってしまった。
こんな些細な出来事で、つい。
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