11.〈フェイク姫さま〉と〈ダミー婿様〉
『ですから、四人様の中で三人様までは〈フェイク姫さま〉なのでございます。』
「なんでわざわざ
頭を抱えながら
『え――、ほいでからですネェ、婿様方のうちにも、〈ダミー婿様〉が二名混じっておりますで』
「――……。」
ついに偽古庵様はテーブルに突っ伏してしまった。立破さんは絶句して顔を強張らせている。
と、一番左にいた松ぼっくりちゃんが「あっ」と声を上げて、小さな口を小さな掌で
「ハル子ちゃん!」
鈴をふったような綺麗な聲が発した名前の主のほうに、全員の視線が集まる。しかし当のハル子さんは相変わらず茫洋と微笑むだけであった。
「うん」
「一体、どうしたの?」
「伯母さんに頼まれたの。松ぼっくりちゃんの様子見てきてくれって」
「もう、ママったら……」
頬を赤く染めて、松ぼっくりちゃんは
「まぁま、皆様。美味しいモンたんとありますで、
窓の外では、桜がはらはら我が身を散らしている。ハル子さんは退屈の溜息をもらしつつ、窓際のソファの上で気だるげに手脚を伸ばした。そして、人々の様子を眺める。
彼等は――この平穏な
想像を巡らせるだけでも充分楽しいが、それをそれと気取られぬようにするためには眠たげに振る舞うしかなかったことも事実である。そして、振る舞ううちに実際彼女の身に降りかかり始めた眠気はゆるやかで心地好く、ハル子さんは本物の欠伸を噛み殺さずにはいられなくなった。
「退屈そうだな」
ふいに頭上から聲が降ってきた。見上げなくとも、その艶めいて美しい聲が誰のものだかはわかる。うつぼ君のものだ。
「それは、あなたも同じようだけれど?」
「そうだな。どうにも、こんなに
そこで、ハル子さんはようよう顔を上げた。うつぼ君はりん、とした表情で真ッ直ぐに室内に視線を投じている。彼もまた、何ごとかを観察している顔だ。
「うつぼ君、和やかなものは苦手?」
「ああ。もっと冷ややかで、腹の探り合いやら深読みやら、推理やら足のすくい合いなんかがあれば、僕も安心して会話に割り込めるんだけれど」
ハル子さんは「ふふ」と笑った。「わかる気がするわ」
「冗談だろう。そんな物分かりがいいようなフリなんかしなくてもいい」
「本当よ。あなたに媚びを売って得するものがあるとも思えないわ」
うつぼ君は、一瞬鋭い眼差しになった。ハル子さんの応対も、自然軽々しいものではなくなる。
「ハル子。お前は――」
「なに」
「……いや。何でもない」
うつぼ君は、それからもしばらく逡巡を交えた眼をしていたが、やがて、また元の表情に戻り、室内の様子を観察し出した。ハル子さんも同じように人々の行動を観察する。サイド・テーブルからシャンパンを手に取り、それで咽喉を湿らせた。
脅威の『はじめのご対面』を終えた後、場はなだれ込むように会食へと移った。会食と云っても、つい先ほど朝食を終えたばかりである。どうやら姫さま方も同じだったらしく、本格的に皿へ手を伸ばすものはなかった。
見やれば偽古庵様は歌枕さんと何やら笑いながら談笑している。
「爪弾きの憂き目にでもあったの?」
「――あいつは女受けがいいんだ」
ハル子さんは再び笑いをもらした。
いと蜻蜒さま、及び立破さんは金壷さんと共にいる。紹介が終了した後、
「あちらのほうに行ってみましょうか」
何気なくハル子さんが提案してみると、うつぼ君は随分と驚いた顔を見せた。
「加わるのか?」
「でなければ、ここにきた意味などなくなってしまうわ」
「――まあ、それはそうだけれど」
ハル子さんが何のこだわりもなく、すたすたと
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