第一章 海路より

1.爲來り



 日本に四十三県あるうちの特に目立たぬ一県の中に、まにまに王國おうこくは、ある。


 まにまに王國王族は、代々女性しか生まれぬと云う典型的な女系一族で、くにの頂点に男王の立ったためしがないと云われていた。


 この王國には、ひとつの爲來しきたりがある。


 それ即ち、「次期女王となる皇太子は、年女となった年に、迎える婿を決定すべく〈お見合い〉を執り行なう」と云うもの。それも、ただの見合いではない。皇太子様の婿になりたいと志願したものが集められて、その中から御婿様が選ばれると云う代物。


 この一風変わった爲來しきたり。実は、ある特殊な事情に基づいていた。


 まあ、事情なんてものは然程重要でもない。星霜へだて、爲來しきたりは外部にその存在をきちんと認知されている。人に知られるべきは、皇太子が〈お見合い〉をして、御婿様を決定すると云うこと。ただ、それだけに過ぎないのだから。



 梵鐘が百八ツの煩悩を打ち、新年が明けた。

 現在の皇太子様が年女となられた瞬間で、ある。



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