クデロの王国
珠邑ミト
開
千とも万ともつかぬ幾多の植物が、その森には植わっていた。
溜息すら忘れて彼は風景に見入った。霧煙る中、見渡す限り青やら赤やら黄金の光がさんざめいている。どの
これほどの風景が、自然にできあがったとは考え難い。しかし、一体何者の手によってすれば、これほどの〈庭〉が成され得るだろうか? これほどのものを人の手が創り上げる――それこそ絵空事だ。
静謐な自然に囲まれた時、決まって思いだす云い伝えが、彼にはあった。
日本こと
魂は
転生の限りを悟った魂は、最後の生を営むため蜻蜒州に生まれ落ち、やがて
朽ちた魂は空気の
そんな潔い魂を養分に育つ樹木は、大層潔い植物となる――。
彼は無言のまま、更に奥へと進んだ。歩めば歩むほど幻想色は濃くなる。しかし、ふと、このまま先へ進んでどうするのか、と思ってしまった。当て所もない散策に興じている己の姿に気付いたのだ。――いい加減に
歩みを止めたのは、踵を返すためではなかった。
一面に生えた、一種の植物。
そして、その果実に伸ばされた白い手。
言葉を失った己の気配を嗅ぎ取ったのか、その、手の主がふり返る。
磁器ほどに白く滑らかな頬。
「――どうして」
一音で、魂は絡めとられた。
徒な美貌と、徒な植物が、そっと、そこによりそっている。
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