第10話 バズり始め

「ん、あ……。……。……。痛っ! 筋肉痛なんていつ以来だろ? 時間は……昼?」


 いつの間にかかけられていた布団。


 それを鉛のように重い身体でどかすと俺は時計を見た。


 11時30分。


 そろそろお昼時という時間。

 

 布団を掛けてくれたのが母さんだとして、帰宅するのはいくら何でも早すぎる。

 義父さんだったとしてもおかしい時間。


「ということは……」


 放置して勝手にスリープ状態になっていたパソコンに触れる。


 真っ暗な画面に光が灯り、その右端には機能よりも1だけ増えた日にちが映る。


「あのまま丸1日寝てたのか……。ま、だからって別に困ることはないんだけど。んんっ! にしても腹減ったな」


 ――ガチャ


「あっ……」

「え?」


 ノックもなしに部屋の扉が開くと、そこには黒音の姿が。


 その手にはコンビニの袋。


 もしかしてあの黒音が俺の、ために?


「起きて、た」

「あ、えっと……。おはよう。もしかしてだけど、母さんに俺の世話頼まれた、とか? だとしたらごめん。俺、また情けない所見せて、それだけじゃなくてこんなことまでさせちゃって……。母さんと義父さんにも謝っとかないと――」


 ――ポタ。


「え? あの、ごめん。俺変なこと言った?」

「ち、違う! そうじゃない! ていうか私なんとも思ってないから! ……。それじゃお義母さんとお父さんには私から連絡しておくから……。あんまり無茶すると、流石に私だけじゃごまか――」

「ごめん! こんな世話、黒音にもうさせない! だから引きこもりでも気を付けて生活するよ。ありが――」

「言質とったから。じゃ」


 黒音の瞳から涙がこぼれ、床を濡らした。


 そして逃げるように部屋から出て行くその背中は俺の胸を締め付ける。


 興味がない素振りを見せてはいても同じ屋根の下で暮らす仲。

 きっと心配してくれた、んだよな?


 申し訳ない気持ち。それと……不謹慎かもしれないけど、そんな黒音の態度を嬉しく思う気持ちが混在する。


「ただ……。しばらくは気まずそうだな。……。黒音はああ言ってたけど、俺からも母さんと義父さんにも連絡しておくか」


 黒音が置いていったコンビニの袋からスポーツドリンクを取り出し、それを飲みつつスマホに触れた。


 母さんは勿論義父さんからもメッセージは届いていない。

 黒音と違って大人の2人は俺がただ寝ているだけだと、冷静に判断したのだろう。

 

部屋に何かを置いていくでもなく、メッセージを残すでもなく、仕事に出かけて行ったようだ。

思ったよりも心配してなくて良かったような寂しいような……。


「ってなんだこの通知……」


―――――

岡本まあやさんがあなたのチャンネルを登録しました。

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etc……。

新しいコメント350件

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永遠の17歳サンガあなたをフォローしました。

他250人からのフォロー。

―――――



 ――ピコン。ピコン。ピコン。



 続々と増える通知。

 チャンネル登録者、フォロー、コメント、リプ、DM。


 いろんな通知が止まることなく押し寄せる。


 特にチャンネル登録者数の増え方は尋常ではなく……。


「チャンネル登録者3000……。たった1日で……。……。……。俺の今までの努力って何だったのってレベルなんだけど。……もしかして」


 バズってる。これは間違いなくバズってる。


 俺はその原因にに何となく覚えがあり、チャンネルのコメント欄から『さすらい』さんのSNSリンクをタップ。


「50万回視聴……。RT5000……」


 そこにあったのは俺がシルバースライムと戦っている切り抜き動画。


 あり得ないくらい拡散されたその動画には映像技術に対するコメントがこれでもかと書かれ、その中には……。


『早く枠立てろ』、『寝てるのか?』、『逃走?』、『生放送とか嘘なんじゃね?』、『一般人だから急にもてはやされて怖くなったとか?』


 俺が枠を立てていないことに対しての言及がちらほら。


「身体全然整ってないんだけどなぁ。それに黒音と約束もしたし……。だから……。えーっと……。職業相談枠。お試し短時間探索、っと。これならいいか」


 俺はバズった高揚感に負けて、黒音からもらったコンビニ飯片手に爆速で枠を立てるのだった。

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いじめられた俺、スキル《VRの身体》で実質無敵になったのでモンスターのヘイトを買いまくる簡単レベル上げを開始します~ダンジョン系Vtuberとして配信したらバズって俺をいじめた奴がファンになってて草~ ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】 @arutyuuuuuuu

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