第9話 代償?

『配信を終了しました。ドロップアイテムの自動回収をしますか?』

「そんなこともできるのか。凄い過ぎるな、このスキル。じゃあ取りあえず『はい』で」


 なんとも言えない〆方で配信を終わらせると、アバターは俺の意思とは関係なく散らばった魔力結晶を拾い始めた。


 単価は低いけどこれだけ集まれば数千円はいった、と思う。


 シルバースライムの魔力結晶だけサイズも色も違うのは個体そのものがレアだからってことなのかな?


 まあそれでも万は越えなさそうだけど。


「――それじゃあ戻るか」


 配信の終了画面を確認して視点の切り替えを実行する。


 結局配信は最高同接50人越え、再生数は300を越えていた。


 一般的には大したことのない数字なんだろうけど、今までの俺からすればこれは相当な数。


 登録者も何だかんだで10人以上増えてるし、まだまだ収益化は難しいにしてもいつかは……と思えるレベル。


 それだけ今の配信が他ではあり得ないことだったんだろうな。


 いつかダンジョン系YouTuberとコラボとか……は流石に

無理か。


「現実……。この戻ってきたときの虚無感やば――」



 ――ドクン。



 視点が戻り自分のふくよかな身体を動かそうとする。


 すると胸が苦しくなり呼吸も荒く変わる。


 アナウンスが言っていた身体への負担。

 それが俺の、あのチートなスキルの代償ってわけか。


 デメリットなしなんて都合のいい力なんてあり得な――


「ちょっと……細くなってないか、腕」


 自分の身体なんてそうまじまじと見ることはなかった。


 それでも今俺の身体に起きた変化に気付く、ということはかなりの変化があったということ。


 原理は分からないけど、おそらくダンジョンで俺のアバターが動いた分、はたまたそれ以上のエネルギーがこの身体でも消費されている。


 だからこの短時間でほっそりと、あり得ないくらいに痩せてしまったのだと思う。


「人によっては簡単にダイエットできて嬉しいとか思うのかもしれないけど……。ちょっと、怖いな。それに……筋肉痛もあるのか。全然動けない、じゃん」


 横たわって動けなくなる身体。


 重く閉じようとする瞼。


 喉は乾いている、けどあり得ないくらいの倦怠感。


 だんだんと意識が遠のいていく。



 ――ガチャ。



 完全に目を閉じてからどれくらいたったか。

 一回確かに飛んだ意識が戻ってきたころ、部屋の扉が開いた。


 母さんが帰ってきたのか、それとも義父さんか。


 なんとなく音は分かるものの、まだ目を開けたくないくらいにはだるさがあって、身体は動かない。


 申し訳ないけど、このままもう少しだけ寝かさせてもらおう。


『これが本当に……ね』


 優しい声と共に俺の頬を誰かが撫でた。


 こんなことをするってことはきっと母さん。


『頑張ったね』


 何か呟くと、母さんは部屋を出ていった。


 指先に当たる冷たい感触。

 心配して飲み物でも持ってきてくれたのかな?


 でも……。


「飲むのも、だるい。スマホ……うるさいけど、もう、いいや」


 俺は母さんが持ってきてくれた飲み物も何故か鳴り続けるスマホも無視して、安堵感からか深めの眠りにつく。


 そしてこの時の俺はまさか自分がとんでもない事態になってしまっているということに気付くわけがなかったのだった。

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