陰キャ×陽キャの暑い夏~ギャルと過ごす1日はちょっと過激っ⁉~
路地裏の本棚
陽キャなギャルと陰キャな私
「ねぇ希美~。この棚の百合漫画ってもしかして最近買った?」
「……うん。近くの本屋さんで買えた……」
8月に入ったある日。高校1年の夏休み真っただ中の我が家には私、
「読んでもいい~」
「……いいけど、自分で買わなかったの? この間レストランのバイトのお給料が入ったって言ってたけど、あれどうしたの?」
「最新のコスメに消えた」
「あぁ……確かに目元がいつもと違うような……」
そう言いつつも、ため息が出る私。
「あの、さ……」
「なに?」
「その、本当に欲しいものがあるんなら……貯金とか、すればいいと、思うんだけど……」
「……だって、希美に可愛いって思われたいんだもん……」
「えっ? なんか言った?」
「ううん、何でもない」
亜由美はちょっと慌てながら漫画を読んでる私の後ろのベッドに腰を下ろして、さっき本棚から取り出した百合漫画を読み始めた。サイドテールに纏めた金髪といい、派手な私服といい。本当に高校に入ってから一気に陽キャのギャルになったなぁ……。
ってか読んでる百合漫画、結構過激な本だ。そう言えば私の影響で百合漫画に興味を持ったんだよなぁ。
私達は幼稚園の頃からの幼馴染なんだけど、性格は正反対だ。亜由美はどんな人間関係の輪の中にも馴染んで友達をたくさん作ってきた。小学校・中学校と通う場所が変わってもそれは同じだ。
勉強はちょっと苦手だけど、運動神経は学年でもトップクラスで、中学の時は陸上部にも入って全国大会にも出場した実績がある。それなのに高校に入学してからはぱたりと部活を止めてしまって、おまけにド派手な見た目になった。まぁ、昔からこういう感じの恰好が似合いそうだったから違和感は全然ない。
対して私はどうだ。運動神経は皆無で勉強は何とか学年10位以内に入ってる。ついでに小さい頃からアニメとか漫画とかラノベが大好きで、高校に入ってから漫画イラスト部って部活で同人誌とかオリジナル漫画を描いてるけど、元が陰キャだから成績以外では大して目立たない。
「ねぇ希美。秋の学園祭に出すオリジナル漫画ってもう出来てるの?」
「まだかな……なんて言うか、自信がない……」
漫画イラスト部では毎年の学園祭で全校生徒と来場者に向けてオリジナルの漫画を出すことになってる。今年は言ったばかりの私も例外なく提出することになっている。〆切は9月の中旬で、学園祭が始まるのは10月中旬から2日間。1ヶ月前を〆切にすれば大筋を変えることは出来なくても、多少の手直しが出来るからってのが部長や顧問の先生の話だ。
「アタシは好きだなぁ。希美の漫画」
「そ、そう?」
「うん。超面白い」
「あ、ありがと……」
「どういたしましてっ……っと」
そして私の隣に腰を下ろす亜由美。ってかやっぱり今日のこの子の私服って派手だ。
「……どしたの?」
「いや、その。亜由美の私服。すっごい派手。って言うか、エロい」
「そうでしょっ‼ 気合入ってるんだよね~‼」
亜由美は嬉しそうに立ち上がって私の前に仁王立ちした。今日の私服は丈の短いピンク色のTシャツに白のダメージパンツだ。Tシャツはとても短いのでおへそが丸出しで、ハートのへそピアスが開いている。耳にも同じ形のピアスをしている。
ダメージパンツもド派手で、太ももから膝までがっつり穴が開いてて、お尻の方もちょっと穴が開いてる。
「今日のチャームポイントって……そのパンツ?」
「そっ、アタシの勝負パンツ。この季節は超涼しいし、足もいい感じに見せられっからお気に入りなんだぁ~❤」
「そ、そうなんだ……」
ここまで穴が開いてると手を入れたら下着まで触れそう。ってか亜由美の履いてるパンツっていわゆるローライズって奴だから腰から見せパンが見えてるからそれが更にエロさを際立たせてる。元陸上部ってこともあるから脚もきれいだし、胸も大きいから外だとすっごく目立っただろうなぁ。
「って言うかさぁ」
「なに……?」
「希美だってメイクとかおしゃれすれば、超可愛い筈なのに……勿体ないよ」
「わ、私はギャルみたいな恰好、とか、似合わないよ……」
そう言いながら私は読んでる漫画で赤くなった顔を隠す。私の今日着ている私服は灰色の襟付き半袖シャツと脛まで隠れる長さのロングスカート。露出度も何もあったもんじゃない。
「髪だって梳かしたりすれば美少女の顔が見れるのにぃ~」
「び、美少女じゃ、ないよ……」
なんだか今日の亜由美はいつも以上にグイグイ来る。いや、思い起こせば中学3年の、部活を引退した時くらいからグイグイ来始めた感じがある。確かに私達は幼馴染だし、こんな私にとって数少ない友人だ。
私が書いてる漫画にも中学時代から興味関心を示してくれてるし、かと言ってそれを私の意思を無視して周りに言いふらすようなことも絶対にしない。その部分は今も同じだ。だけどそれ以外ではかなり押しが強くなった。
「ちょっといい?」
「な、なに?」
「髪、今だけ梳かしてみても」
「う、うん……」
そう言うと亜由美はスタスタとベッドに向かい、その上に置いてあった小さな鞄から櫛を取り出した。
「そ、そういうの、持ち歩いてるんだ……」
「うん。JKだったらいつでもおしゃれに気を遣うのは当たり前。ましてギャルだったら猶更よ」
そんなことを言いながら私の前に座って髪を梳かし始めた。ちなみに私の髪形は典型的なメカクレのおかっぱだ。これまた陰キャらしさが出てる。ってか亜由美。ちょっとダメージパンツに気を使って欲しい。
「ん? どしたの?」
「見せパンだからって……ダメージから、すっごく、見えてる」
「いいじゃん。ってか希美。超見てるじゃん」
「そ、それは……」
だって、穴あき過ぎだもん。座ってると穴広がって太ももから脛まで丸出しだもん。ってかやっぱり足綺麗。超見ちゃうじゃん。
いや、それだけじゃない。亜由美の目って凄い綺麗。アイメイクの影響だと思うけどそれでも今まで見たことないくらい輝いてる。
「……やっぱり希美の顔、超可愛い……❤」
「あ、亜由美?」
なんだか声がちょっと色っぽくなってきた。頬もちょっと赤くなってるし、どうしたんだろう……?
そんな疑問が頭に思い浮かんでいると、亜由美は私の髪を梳かし終えて向日葵のヘアピンをしてくれた。
「ほら、見てごらん」
彼女に勧められて彼女の手鏡で見てみると、目元が出ていてちょっと恥ずかしくなった。
「可愛いじゃん」
「……そ、そう、かな?」
「そうだよ。でも、ちょっと嬉しいかな?」
「どうして?」
「今の可愛い希美を見れるのは、私だけだから」
「亜由美……」
何だろう……ここまで亜由美が私に迫ってるのは珍しい。
「あのさ……今日の亜由美、なんか、いつもと違わない?」
「そう……?」
「だって、ここまで私に、迫って無かったよね。今までさ……」
「……そだね。アタシも不思議。でも、これがアタシの気持ちなの」
「亜由美の気持ち?」
「そっ……」
そう言うと亜由美は何かを我慢してるかのような表情のままちょっと離れてくれた。
「アタシさ、小さい頃から希美を見てきて思ったことがあるの。勉強はできるし絵も上手だし、それでいてこんなに目元も可愛いのに出さないのは勿体ないなぁって思ってたの」
「そ、そうだったんだ……」
「小学校の頃からそう思ってたし、中学の時もそうだった。こんなに可愛いのに誰も振り向かないのは不思議だなって。どうしてもっとおしゃれをしないんだろうなぁって」
何だろう……今日の亜由美はやっぱりおかしい。ここまで私について語るのは今まで見たことがない。
「正直に言えば、アタシは希美の魅力をみんなに知ってもらいたいって思ってた。でも今の望みが無理にそんなことをされても困るってのもなんとなく察したからしなかったの」
「あなた……」
「ねぇ。アタシがどうして中学で陸上部を引退したのか理由は分かる?」
「それは気になってた。どうしてなの?」
「希美の隣にいて相応しい女の子になる為にって思ったから、高校に入ってから部活を入らなくなったの」
「……えっ⁉」
わ、私に相応しい女の子になる為に部活をしなくなったのっ⁉
「部活を頑張ってたのも、希美に凄いって言って欲しかったってのもあるの。でも、希美が欲しいとか、凄いって思うものが何なのかを全然考えてなかった」
「亜由美……」
「ずっと近くにいたのに、ちゃんと知ろうとしなかったなんて、酷いよね」
「そんなこと、ないよ」
部活云々のくだりは確かにびっくりしたけど、まさかそこまで私のことを考えてくれてたなんて……。
「私こそ、もっとちゃんと亜由美と向き合えれば、ヤキモキさせずに、済んだかもしれないよね?」
「希美……」
亜由美は再び私の目の前でしゃがんで見せた。ダメージパンツから丸出しになってる太ももを見せつけるように。
「ギャルになったのも、希美に可愛いって、似合ってるって言って欲しかったから。読んでる漫画に出てくるキャラで、ギャル系の子が好きだって言ってたでしょ?」
「う、うん。百合でエロいギャルはたまらんって言ったこと、あるね」
「そっ。だから私もギャルになれば、希美にもっと見てもらえると思ったの。そしたら思った通り、入学式で会ってすぐに可愛いって言ってくれたよね」
「う、うん。元気いっぱいの亜由美らしいって率直に思ったから……」
「ピアスとへそピも開けた時も、可愛いって言ってくれてめっちゃ嬉しかったよ」
「だ、だって。本当に亜由美に似合ってるって思ったもん……私なんか、陰キャで地味で、全然目立たないから……」
「目立つとか目立たないとかは、アタシはあんまり気になってないの」
「気になってないって?」
「それはね……」
そう言いながら私の両手を取って、ダメージパンツから出てる太ももを触らせてくる亜由美。行動まですっごく大胆になってきてる。
「例え希美が目立たなくてもいいの。アタシのことを可愛いって言ってくれて、付き合ってくれる希美が大好きなんだ」
「す、好きって……likeの方?」
「loveの方」
「ま、まじすか……」
「マジ」
そっか……部活を止めたあたりから亜由美の私を見る目が随分と熱を帯びてる感じだったのはそう言うことだったんだ。思い返してみると亜由美が私と同じ高校に通うんだって言いだしたのは中学3年生になった直後だ。
私と亜由美が通っている女子校はこの地域でもそこそこ偏差値が高い。はっきり言えば平均点をちょっと下回ってた2年生までの亜由美の成績だとはいるのがかなり厳しい。にもかかわらず、亜由美はこの学校に一緒に入学できた。それもこれも全部が私と一緒になりたいって言う思い1つが成し遂げてきたことなんだ。
「ね、ねぇ」
「なに? 希美」
「その……亜由美の思いはすっごく嬉しいよ。幼馴染にそこまで言わせるくらい、私との関係を大事にしてくれて。こんな陰キャで、教室の隅でひっそりしてるだけの私なのに……」
「アタシはどんな希美だって受け入れるよ。確かに希美の魅力をもっとみんなに知ってほしいって思ってる。でもそれには、今の望みの気持ちを大事にしないといけないって思ってる」
「そ、それはちょっと、困る、かな……人間関係が急に広くなるのって、なんて言うか、戸惑う、よ……」
「うん。分かった。じゃあしばらくは希美の魅力を知っているのはアタシだけだね」
「そ、そうなる、ね……」
確かに、実は部活でも陰キャ・根暗・人見知り気質が祟って先輩後輩の関係性は築けても、親しい関係性までは全くできていない。作品を褒められることはあっても、人間性までは私自身がさらけ出さないってこともあって全然と言っていいほど知られていない。その意味では亜由美の意見は正しい。
それに、こんな私のことをここまで大事に思ってくれる人も滅多にいるものじゃない。しかもloveって言ってくれてるんだもの。
「亜由美……」
それが嬉しくなって、私は気づいたら亜由美を抱きしめていた。
「の、希美……」
「嬉しいよ亜由美。こんな近くに私のことをここまで思ってくれる人がいてくれて。女子校に行っても友達がなかなかできないし、イケイケ過ぎて付いていけなくてどうしようって思ってたもん」
「……やっぱり、入っていきにくかったよね」
「うん。あなたがいなかったら、ちょっと辛かったかも」
「そっか……でもこれからは、ずっと一緒でいいでしょ?」
「うん。亜由美と一緒なの結構楽しかったし、それに心が落ち着いたもん」
それは嘘偽りのない私の本音。こんな私をここまで受け入れてくれて、愛してるって言ってくれた幼馴染に対しての心からの思いだ。
「そ、それでさ。亜由美は今、私の隣にいるのに相応しい女の子になれたって堂々と言える自信はある?」
「まだ半分くらい、かな?」
「じゃあ残り半分は私と一緒のいる中で見つけていこうよ」
「アタシもそのつもり。じゃあアタシもまだ知らない希美の魅力を見つけていくわ。もっともっと希美のことを深く知りたいもん」
陰キャの私と陽キャの亜由美。対照的な性質・性格の幼馴染同士だけど、実はお互いにない物に惹かれ合っていたんだと初めて知った。それももしかしたら、この夏の暑さと開放感がそうさせたのかもしれない。今年の夏は絶対に一生忘れられない夏になると確信できた。
陰キャ×陽キャの暑い夏~ギャルと過ごす1日はちょっと過激っ⁉~ 路地裏の本棚 @gonsuke2001
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