第7話
バスのクラクションの音で俺は我に返り目を開ける。
小さなバスが俺の前に止まり扉が開く。
このバスに乗ればもう…
全てこの夏は想い出になってしまうんだ…
「お客さん…乗らないの?」
その声を聞いて俺は右足をバスのステップに掛ける…
すると…
「………と!……やと!!隼人!!」
遠くから愛おしくてたまらない声が聞こえて俺の身体が…いや心が震える。
「お客さん?」
「すいません…行ってください…」
俺がそういうとバスの扉はガチャンと閉まり走り出す。
ゆっくりと声のする方を振り返ると歩夢が自転車を必死で漕いで俺の方へ向かってくる。
そして、俺の目の前で自転車を乗り捨ててそのまま俺の首に手を回し勢いよく抱きついた。
*「やっぱりヤダよ…離れたくない…僕…隼人と一緒じゃなきゃ…ヤダ…」
欲しくてたまらなかったその言葉。
なのに俺はなんの言葉も言えずにただ涙だけがあふれ出す。
*「僕が隼人の所に行くから…向こうで家探して就職して隼人のそばにいれるように頑張るから…僕との事…ひと夏の思い出にしないで…お願い……僕を待ってて…」
あまりの嬉しすぎる言葉に俺は何度も頷く。
*「隼人が好き…大好き……」
「…歩夢…俺も…好きだよ…。ねぇ歩夢?今日が何の日か…知ってる?」
*「え……?」
「実は今日…俺の誕生日なんだ…だからお願い…歩夢との永遠を…俺にプレゼントして欲しい。」
すると、歩夢は俺の言葉に嬉しそうに微笑み手に持っていた1輪の花を俺の手に持たせた。
*「このマリーゴールドを探してて…遅くなったんだ…。このマリーゴールドはあの畑に咲いてるマリーゴールドとは違う種類でフレンチマリーゴールドって言っていうんだ…その花言葉が……」
口籠る歩夢の顔を覗き込むと歩夢の目にも涙が溢れ出していた。
「…その花言葉は…?…なに…?」
俺は歩夢の頬を濡らす涙を拭いながら問いかける。
*「いつもそばに置いて…だよ。僕を隼人のそばに置いてください…隼人のそばに行けるまでこのマリーゴールドが僕の代わり……それじゃダメかな?」
「ダメなわけがないよ…嫌だって言っても…離さないから…」
歩夢は俺にぎゅっと抱きつき…
俺たちは次のバスが来るまでの1時間…
離れる事を惜しむように時間の許す限り甘いキスを繰り返した。
4年後
*「隼人!ほら起きて!大学遅刻するぞ!!」
「ん〜歩夢あと1回だけ〜」
*「は?どんな夢見てんの!?寝言言ってないで起きて!この変態!」
今日で俺は22歳になった。
あれから歩夢は溜めたバイト代とご両親に頼んで半年後に俺の住む街にきた。
そして、高校を卒業して大学生となった俺は歩夢と同棲を始めて3年がすぎた。
あの夏
夢中で恋をしてこの人を愛した俺…
4年経った今も俺はまだ夢中でこの人に恋をして愛してる。
*「隼人いってらっしゃい!」
玄関で靴を履いていると後ろからそう微笑んで俺にお弁当を渡す愛しい人。
「行ってきます。」
お弁当を受け取りチュっとキスをすれば、あの夏の日に咲いたドライフラワーのフレンチマリーゴールドが微笑むように揺れた。
*「気をつけてね…?…隼人…お誕生日おめでとう…」
「…歩夢…ありがとう…愛してる。」
俺のひと夏の恋は今もまだ…
幸せなことに継続中だ…
きっとこれからも永遠に…
この恋は続くだろう…。
終わり
【BL】ひと夏の思い出 樺純 @kasumi_sou_happiness
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます