第6話
それから俺たちは離れてしまう寂しさを少しでも埋めるように、毎日朝から晩まで時を過ごし身体を重ね合わせた。
吸い付くように重なり合う俺たちの肌は、きっと出逢うべき運命だったんだと思えるほどお互いに心地よさをもたらす。
「俺…歩夢から離れられないよ…歩夢とずっと一緒にいたい…」
俺の腕の中で目を閉じている歩夢にそういうと
*「高校…卒業しなきゃだろ…あっちに帰らなきゃ…」
歩夢は目を閉じたまま微かに微笑みそう言った。
俺はその言葉を認めたくなくてぎゅっと歩夢を抱きしめた。
しかし、どんなにもがいても時間は過ぎていく。
もっと歩夢を知りたくて時間を忘れて色んな話をした。
歩夢を忘れたくなくて瞳に焼き付けるように歩夢を見つめた。
その温もりをずっと感じていたくて何度も何度も…歩夢を抱いた。
なのに…残酷にもその時はやってきた。
8月30日
祖父「悪かたっな〜せっかくの夏休みなのにわざわざこっちに来てもらって。気をつけて帰るのじゃよ?」
*「じいちゃんも気をつけてな?」
祖父「あぁ…歩夢も見送りに来ると思ってたんだが…来ないな…?」
*「うん…俺が途中で挨拶しに家に寄ってみる。じゃな?じいちゃん!」
祖父「気をつけてな〜!!」
俺はじいちゃんに手を振りバスまでの時間を確認する。
まだ、大丈夫だな。
歩いて近所にある歩夢の家に向かうとおばさんが中から出てきた。
「こんにちは……歩夢くんいますか?」
母「ごめんね…それが朝早くに畑へ出かけて…いないのよ…もしかしてもうあっちに帰るの?」
「あぁ…はい…そうですか…最後に挨拶をと思ったんですけど…歩夢くんによろしくお伝えください。」
母「そう…分かったわ…気をつけてね…。」
そうして俺は歩夢の家を後にした。
おばさんの前だったから冷静を装ったけど…
正直ショックだった。
あんなに一緒に過ごしてあんなにお互いの気持ちを確かめあったのに…
最後の日に歩夢に会えないなんて…
そんなの辛すぎるよ…。
俺はこぼれ落ちそうな涙を我慢してバス停に向かった。
古びたベンチに座り誰一人いないのどかな風景を眺める。
この街であなたに恋をして…
この街であなたを愛した。
俺がこの街を去ってしまう事で歩夢との恋も終わり、いつかこの記憶が想い出に変わって懐かしむ日が来るのだろうか…?
シクシクと痛む胸にそっと手を当てながら目を閉じた。
つづく
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