第4話
自室で母さんから受け取った藍澤さんの家メモとスマホを机に置いて、見つめる事10分。
(き、緊張する!緊張しすぎる!)
なかなか行動に移せない。まだ何もしてないのに、心臓ばくばくなのである。深呼吸をする。
(よし!)
心の中で合図をして、スマホを手にとり、いざ電話番号番号を入力。
……せずに、再び机に置くと頭を抱える。
「何やってるんだよ!そこはかけろよ!!」
自分に文句を言うという情けない事をしてしまった。よし、声を出しながらの勢いでいこう。自分でも何やろうとしているかわからないが、もう勢いしかない気がした。
「うおおおー!」
声を出しながらスマホを手に取り番号を入力して通話を押した!よし、いけた!
『ツー…ツー…』
「あれ?話し中か…」
勢いが削がれた感だが、急に冷静になれた。そりゃ、こういう事だってあるよな。どのくらいかかるだろうか。俺はせっかちではないけれど、できれば、この勢いがまだあるうちにかけ直したいのだが。そう考えながら、リダイヤルをしていた。
プ…。
『……も、もしもし?』
…1コールもせずに繋がった。
「あ、藍澤さんのお宅でしょうか?」
『は、はい。どちら様でしょうか?』
聞き覚えある声だった。間違えるはずがない。
「長谷といいます。…藍澤さん、だよね?」
『長谷君!?うそ…』
心底驚いているようだった。まさかかけてくるなんて思わなかっただろうからなぁ。
『あの、私、小学校の時のクラス連絡網の事思い出して、お母さんに聞いてみたら…長谷君のお母さんと仲良くなったって聞いて、驚いて…』
「………」
『それで、電話番号教えてもらったからかけてみたんだけど、一度は繋がらなくて、またかけようと思ったら…繋がって…』
こんな…こんな事って……。
『…えっと、あれ?長谷君?聞こえてる?もしもし?』
「あ、ああ。ごめん。ちゃんと、聞こえてるよ」
驚きのあまり、言葉が出なかったが、なんとか振り絞って声を出した。
「俺も同じだったんだよ」
『え…?』
「俺も、母さんから藍澤さんのお母さんの事を聞いて、それで電話してって流れだったんだ」
そう、俺達は同じ行動をしていたのである。こんな事ってあるんだなって思うと嬉しい。
『………』
沈黙。…あれ?もしかして、嘘だと疑ってるのだろうか。
『ごめんなさい。嘘じゃないかと疑ってしまって…』
考えを読まれてしまった。
「いいよ。そう思っちゃうだろうし。気にしてない」
『うん、ありがとう。あっ、えっとね、電話番号なんだけど…』
俺達は互いの電話番号を伝え合った。聞きながら、スマートフォンを操作して登録する。
「ありがとう。メアドは流石に会った時だな」
『長谷君はメール派なんだね。私はあのアプリをよく使うのだけど…』
「いや、俺も使うよ?ただ、使えなくなった時の事を考えてと思って」
なるほど〜と藍澤さん。と、長くなってしまったな。
「ごめん、話長くなっちゃって。そろそろ切るよ」
『全然そんな事ないよ。まだ短いくらいだし』
どうやら、通話時間についての考え方には差があるらしい。それが、男女の考え方の違いなのか、俺と藍澤さんの違いなのかはわからないが。
『じゃあ、また学校でね。おやすみなさい』
「うん、また。おやすみ」
受話器を置く。俺は静かに、強く、ガッツポーズをした。
長谷君との電話が終わり、部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。
「き、緊張した〜〜」
涙目で私はそう呟く。電話で男子と話すのは初めてだったからか、今でもドキドキしてる。顔を合わせて話をするより緊張するというのはどういう事なのだろう。むくりと体を起こし、ベッドに腰かけスマホを操作する。電話帳に長谷君の名前と電話番号を見ると顔がほころんでしまう。嬉しい。そして、まさか私の同じ事を考えて同じ事をしていたというのは驚きだった。
「…思考回路が似ているのかな」
ぼそっと言った言葉に、はっとしてブンブンと首を横に振る。今のは気持ち悪かったよ、私!普段はない事で、しかも嬉しい事続いたから気分が高揚しているのかもしれない。再び、ベッドに仰向けに横になって天井を見ながら、
「明日が楽しみ…!」
と、呟いた。
キミに幸せを 路威 @roi7740
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。キミに幸せをの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます