第3話
次の日、その次の日と、やっぱりというか藍澤に会えなかった。こうなったら、教室を片っ端から覗いていくしかと考えたが、そんな事したら藍澤に迷惑かかりそうだから止めた。いらぬ噂が立ちかねん。
そんなこんなで、2週間が経ってしまった。どうしたら…どうしたら藍澤と会えるのか。
「どうしたどうした?しかめっ面なんかして」
顔を上げると、目の前に男子が立っていた。こいつは松野 健(まつの けん)。高校に入学して最初にできた友達。同じく俺に負けず劣らずゲームが好きで、話が合う。
「ちょっと悩み事が…」
「ん?ゲームで先進めなくなったか?」
間髪入れずそう言ってくるあたり、流石はゲーム脳。
「いや、なんというか…その…人間関係…?」
適切な言葉が見つからず、そう言ってしまった。
「珍しいな、ゲーム以外で悩むなんて」
珍しい、というにはまだ1ヶ月も友達やってないが、そう出てくるくらい仲良くなったと考えると嬉しかった。どうしよう、話してみようか…。このまま1人で悩んでいても埒があかない気がした。
「マジか…。そんな、ゲームみたいな事あるんだな…」
松野の驚きと感心の合わさった言葉。たしかに、『小学校でのクラスメイトと地元から離れた高校で再会する』なんてフィクションストーリーでは鉄板だが、現実に起きるなんてありえない。運命や奇跡という言葉がまさに相応しい。
「このご時世、連絡先交換しなかったのは痛すぎるミスだな」
はぁとため息を出される。わかっとるわい。
「ちなみに、その元クラスメイトの家の電話番号は…知るわけないわな。昔はクラス緊急連絡の時の為に全員の家の電話番号が書いてあるプリントがあったらしいぜ?」
嫌だよな〜と言葉を続ける松野。うん、たしかに嫌かな…。昔は携帯電話なんて無かったからそれが当たり前だったんだろうけど。
「あ」
「ん?」
松野は首を傾げる。
「連絡取れるかもしれない」
その日の帰宅後、真っ先に母さんの元へ行き、こう尋ねた。
「小学校の時の連絡網ってまだスマホに残ってる?」
母さんは目をぱちくりとさせる。そう、今はもちろん当時は固定電話ではなく、メールや無料通話アプリを使った連絡が主流となっている。俺が通っていた学校はショートメール連絡を取っていた。
「一応、そのままだけど…どうしたの突然?」
よし!心の中でガッツポーズを作った。
「れ、連絡とりたい友達がいてさ。それで」
ふーんとスマホを手に取り操作し始める。
「どなたなの?」
「え?」
「どこのお宅かって聞いてるの」
そ、そうだった。母さんに名前を出さなきゃいけないのは当たり前だ。いざ名前を出そうとすると凄く緊張してくる。だが、言わなきゃ連絡をとれる方法がなくなってしまう。
「……ざわさん」
予想以上に声が小声になってしまって、自分でも後半しか聞こえなかった。当然、母さんに聞こえるんけがなく、え?何?と聞き返されてしまった。
「あいざわさん……」
はっきりと名前を言った。顔から火が出そうなくらい熱くなっていた。
「あら、百合香ちゃんの?それなら、家電の知ってるわよ」
「……へ?」
いきなりのもの凄い情報に頭がついていかず、素っ頓狂な声を出してしまった。
「どうせ仲良くないだろうから話さなかったんだけど、年明けから藍澤さんが仕事先にアルバイトとして入社してね。それで、懐かしさもあって声かけたら意気投合しちゃって!」
あはは!と笑顔の母さんの情報に頭がパンクしそうだった。そんな俺を知らずか、メモ用紙にさらさらとペンを走らせ1枚を丁寧に切り取り、俺に差し出した。
「はい、藍澤さんの電話番号」
「あ、うん。ありがとう…」
整理しきれてない頭でメモを受け取る。
「どうして電話番号聞いてきたか、わからないけど…。ま、頑張りなさい」
その言葉とは裏腹に表情はニッコニコだった。
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