第30話

   祐奈の告白4


「多分、お姉ちゃんはそういうでしょうね……」


 祐奈は警察官から話をきいて、苦笑するような、微妙な表情をする。そして彼女は語りだした。


「兄は定期的に、何人もの女の子と関係していました。


 でも、私のことは女の子とみとめてくれなかった。だから私は誘ったんです。


 兄は戸惑っているようでしたが、やがて受け入れてくれました。血のつながりはありませんから、私に躊躇いはなかった。


 それが兄として好きなのか、恋愛なのか、よく分からなくなっていたし……。


 私は兄を独占したかった。でも、きっとそれは叶わない。そう気づいたとき、妙に虚しくなって、私が兄を刺したんです。


 そこに姉が帰ってきました。そして『私が殺したことにするから』と言ったんですよ。ホント、どこまでもお姉ちゃんなんですよね……」




   朝陽の告白9


「祐奈はそういうでしょう。私を助けたいと思っているんですよ」


 朝陽はそういった。


「あの性の怪物のようになってしまった弟を、私がもて余していることも知っていました。私の苦しみを、彼女は解放しようとして、弟と関係したのかもしれない。だから私を庇うんです」


 取調官はふと「君はずっと、弟さんのことを『弟』と呼んでいるけれど?」


 そのとき、朝陽の表情が歪んだ。


「私は……『弟』のことはもう名前で呼べない。それだけです」




   水穂の告白7


「私が……、私が夕君を殺してしまったも同じです! だから私を罰して下さい!」




   陽葵の告白4


「私は遊び。あ~ぁ。あんなエッチの上手い人、もう出会えないだろうな……。私が殺したかったわ」




   明日菜の告白6


「いいえ、二人ともカン違いしているんですよ。朝陽さんは、祐奈さんの罪だと思って、祐奈さんは、朝陽さんの罪だと思っている。


 でも、二人ともちがいます。私が彼を殺したんです。


 ……え? 理由ですか? 別に……。強いていうなら、私が独占しようと思って。だって彼、色々な子と関係していたけれど、私だけだもの。ちゃんと彼の子種を残すのは……」


 そう言って、明日菜は自分のお腹を愛おしそうにさすった。



   朝陽の告白10


 私はお墓の前に立っていた。あれからもう五年が経っていた。


「あなたは死んでからも、女の子に囲まれ続けている……。それも、私がそうしちゃったから? 私は二人だけの家族に寂しさを覚えていたけれど、夕陽はどうだったのかな? そんな簡単なことも、私たちは言葉にしてこなかったんだね……」


 私はお線香をあげて、手を合わせると立ち上がった。


 いつか、家族でも離れ離れになる。でも、私たちは歪に結びついてしまったから、どこでそうするのか? どういう形でそうするのか? 私たちはずっとそれを模索していた。


 こういう形になったけれど、私は弟と離れ、一人で立てるようになった。そのお墓に金盞花を供え、私は憂いを吹き払うようにその前から歩き去った。

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カレンデュラの憂鬱 巨豆腐心 @kyodoufsin

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