第29話
朝陽の告白8
「君がやったんだね?」
まだ若い男の人からそう問われ、私も頷く。そのまま車に乗せられた。どうしてこうなったのだろう……? 自分でも分からない。でも、その結果に私は驚いてはいなかった。
祐奈が私のことを見送っているが、その表情は微妙だ。
私は取調室というところに初めて入った。
「君が、弟さんを殺したことに、間違いないね?」
改めて頷き、そして言った。「くり返しの話をするのが嫌なので、今からすべてお話することを記録して下さい。その後、私は一切の話をしませんから」
私はそういった後、長い話をはじめた。
「母親が亡くなった後、私は大きなプレッシャーを感じていました。まだ幼い弟と、家庭を顧みない父親と……。小学生ながら、私がしっかりしなければいけない、という思いと、寂しさと……。
そのぽっかりと開いた喪失感を、私の中に唯一の家族と思っている弟を迎え入れることで埋めていました。
でも、そのことで弟は保育園に通う歳にもかかわらず、性体験をさせてしまった。
私がそれを止めた後、弟は幼馴染や、学校の友達と、身体の関係を築いていきました。
私にはそれを止める権利がなかった。だって弟は、私とできないことを埋めるために、そうして他の子としている……そう思っていたから。
それからも、時おり弟は求めてきて、胸を揉んだりしたけれど、私は拒絶することにしていました。だって、姉弟でそんなことをしていたら、きっとよくないと思ったから。
でも、その流れが変わったのは、父が再婚してからです。私と弟だけの家……そこに他人が入ってきた。弟はそれが赦せなかったんだと思います。私を求めてくることが多くなり、たびたび赦してしまいました。
それでも、私は仕方ないと思っていた。だって、私が始めてしまったことだから。二人きりの家族だったのだから、以前のように、私との繋がりを確認したいのだろうと、そう思っていたから……。
でも今日、それがちがうと感じた。
私が帰ったとき、妹の祐奈と弟が、セックスをしていたんです。私はそれをみて、ついカッとなって……。
もう弟と私だけの関係じゃないんだ。その行為は、家族を確認するためではなかったんだ……。
私はキッチンに行って、包丁をもってきて、弟を刺しました。弟はびっくりした顔をしていたけれど、抵抗はしませんでした。きっと、弟にも分かったと思います。それが家族を確認する行為なら、私たち二人だけのことではなくなった。それを私が咎めているのだ、と……。
祐奈には悪いことをしたと思っています。こんな、歪な姉弟との関係に巻きこまれて……。
でも、私が始めてしまったことだから、私がけりをつけなければと、ずっと思っていました。こういう形になったことは残念ですが、でも私としては今、ホッとしています」
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