さよならの効用

千住

そんな顔しないで

さようなら今日か明日かわからない

でもさようなら憧れのひと


眠ってる時々起きるこの自我が

あなたの言った非線形かな


会いにきてくれて嬉しい

今日も資本主義経済のにおいがするね


ミクロ経済の話をしてほしい

弾き出された世界の話


「死荷重」とあなたが引いた線分と

いつまでも届かないお薬


あの波に揉まれてみたい駅前の

私がいないナッシュ均衡


手が震えちゃって数式書けないな

あなたがくれた鉛筆なのに


点滴の管より細い尊厳で

注射針より鋭い声で


術衣から透ける鎖骨の凹凸が

人でいること諦めてない


苦しさに埋まってしまう自我のふち

限界効用逓減法則


作者すら思い出せない教科書の

ワンフレーズが私を生かす


課税され生きてみたいと人形に喋らせてみる

あ、回診だ


効用の最大化って言いながら

あなたがここを訪ねる時間


目の前でマルクス読んで

叶える気すらない恋を隠さない人


恋すると馬鹿になるから

恋なんて呼ばないことに決めているでしょ


集中治療室に運ばれた日の

祈りみたいに厚いケインズ


黒板の数式みたく固くって

冷たく脆く綺麗なあなた


そんな顔しないで私

あまりよい生徒じゃなかったと思うけど


始まらない心臓終わってゆく大脳

数字になって消えてく心


もう会えぬつもりで言ったさよならが

優しいまんま本当になる

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さよならの効用 千住 @Senju

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