架空の浜辺

吉村おもち

架空の浜辺

書き込みの多いレジュメを借りてからきみの癖字を把握している


おにぎりのフィルムを剥がす音がして午後の部室にうしおの香り


日の長さなんて測ってないけれどきみと帰れば爪先に夏至


えびせんのような軽さでこの先のことを話してみることがある


コンバース、足が速いというだけで始まる恋の行方を追って


食べ慣れたアイスを二本買ってきてここから先は架空の浜辺


即席のおばあちゃんちをつくろうよ部室の床を縁側にして


お互いの裸を見せるようにして過去を明かした雨の日のこと


もしえらで息ができればより深くきみへ潜っていけるだろうか


きみのために祈る理由が欲しくなり天気予報を凝視している




新月になったつもりで受け止めるきみのまぶしい恋の相談




自分から振ったんだって称号のようにあるいは爵位のように


どこででも寝られるきみと誰とでも寝るまゆも見たのか阿修羅像


医療器具でもあの子でもない指で触れてもわかるのは温度だけ


お互いに異なる崖に立っていて分かり合うのはたやすいけれど


明日からも愉快な部員 境界をはじめの位置にそっと戻せば


相槌が形ばかりになりそうで手前の駅で用事をつくる


捨てるんじゃなくてだんだん着なくなる 釦のほつれはじめた服は


さみしさをきみはギターに持ち替えてサークル棟にひとり佇む


あまりにも他人みたいに笑うからなんだかすごく褒めてしまった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

架空の浜辺 吉村おもち @mechanobiru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ