第4話 時の間と戻らない時
夢を見た。
見渡す限りの金色の草原。
そこに立っているのは一人の少女。
年齢は分からない。ただ、長い髪はオレンジ色で淡く光に照らされていた。彼女は僕に問い掛ける。
『大丈夫?傷痛いよね?』そうだね、身体中が痛くて堪らない。指を動かすのも痛いんだ。
『治してあげようか?』本当?本当に治るの?痛いの嫌だから、治ったら嬉しいな……。
『でも……、きっと大変だよ?』何が?
『私とあなたの命を一つにするの……そうすれば傷は消えるけど……』どういう事?君が痛くないの?命を一つに?もしかして、君も死んじゃうの?
『それは、ちょっと違うの、あなたが死ぬと私も死んで、私が死ぬと貴方も死ぬの……』え?そんなの駄目だよ!!君が死んじゃいけない!!
『でもそれ以外に手は無いよ?』無いの?
『うん、死んじゃう』……駄目だよ、やっぱり君を巻き込めない。死ぬのは怖いよ?きっと。
『優しいね、君は。こんな時でも、他の人の心配をしてる。でも……死んじゃうよ?』そっ、それは嫌だけど……僕のせいで誰かが死ぬのはもっと嫌だよ。
『……決めた』何を?
『やっぱり貴方に私の命を分けてあげる……だって永遠にここで生きるより楽しそう』こんな所にずっと一人でいたの?寂しくないの?
『寂しいよ、それにつまらない……だから、私の命を受け取って?』……良いのかな?、でも、こんな所に一人よりは良いのかも知れない……。いや、でもやっぱり!!
『私と一緒に生きて欲しいの』一緒に?
『うん、一緒に』それなら、良いのかな?一緒なら良いのかな?でも、本当に良いの?
『今から方法を教えるね?』どうすれば良いの?
『簡単、痛みは一時的に止めてあげるから、その鍵を時のはざまに刺せば良いの』それだけなの?
『うん、それだけ』それなら、僕にでも出来るのかな?
『面白いね君は……でもね
これからの貴方はもっと大変なんだよ?これくらいは頑張って欲しいな』うん、頑張る。
『君は、これから沢山の命をその背中に背負い込まなければいけないんだから……』なんで?そうなるの?分からない事が多過ぎるよ?……不思議だ……痛みが少し和らいでいる気がする。
『今度、会った時に教えてあげる、今までの事、そして、これからの事』会えるの?僕ら。
『うん、いつか必ずあなたに会いに行きます。その時を楽しみにしてるね?四季』段々意識が遠くなって来た。
待って!!君の名前は!?
『
薄れていくいや、覚醒していく意識の中で那由多の声が聞こえる。
『また会おうね……旦那様』えっ?何て?最後何て言ったのかな?まぁ良いや那由多また会おうね……。
そして、ゆっくりと僕は、目を覚ます。
正直、目覚めたく無かった。痛いのは嫌だし、辛いのも嫌だ。それでも、この短い期間で自分の事は自分でしなければ命の保証は無いという事だけは解ってしまった。
恐々、短剣を持っていた右手を動かそうとしてみる。あの曲がりかただったんだ、動くわけは無いと、幼い僕にでも解る事だったけど……
そして、困惑する。あれ?曲がってるし動かない?痛みだけが無い。でも、さっきまでの痛みも覚えていた為困惑もしていた。
慌てて立ち上がり、立ち上がれる事にも、びっくりする。
幼いながらも身体をぺちぺちと叩いてうごくかチェックする。
那由多……ありがとう。
僕は、夢の中のオレンジ色の髪の彼女を思い感謝した。
とにかく、身体が動くんだ。痛みが無い内に、とにかくどうすれば良いのか考える。
やる事は単純だ、鍵を那由多が言っていた所へ刺せば良い。洞窟の外に戻る?それとも進む?今は、やれる事が少ないんだ。先に進むしか無い。
那由多の事を信じて進めば何か良い事がある。勝手だったけど、そう思ったって良いじゃない!!
そう思うと、少しだけ気持ちが楽になった気がする。ほんのほんの少しだったけど…。
立ち上がって
吹き飛んでいた短剣を発見して、折れてないか見てみる。大丈夫そうだ。
鍵の光はやはり洞窟の奥を指している
怪我した場所は動かないけど、どうやって身体が動く様になったのか、訳が解らないままだったけど、このままじっとしている訳には行かない。
「よし、行こう」
覚悟を決めて僕は歩きだす。
洞窟の中は、少しひんやりとして肌寒い。まぁ、服は濡れるしボロボロだし、何とかしたいよな?何て思いながら歩いていくと数十メートル程歩いた所で先が行き詰まっているのが解った。少し焦りながら、怪我をした身体を気にしながら、行き止まりに向かう。
行き詰まった先で、僕は、やっぱりこうなるのか?と洞窟の天井を見上げる。
目の前の行き止まりには、見た事も無い文字が、でも何故か読む事が出来きたのだ、
一瞬、何も考えずに鍵穴に鍵を差し込もうとして、慌てて止める。
良いのかな?これ差し込んでも、大丈夫なのかな?全部上手く行くんだよね?
でも、いくら考えても答えなんて出なかった。だって、他の選択肢なんてまるで無かったんだ。
鍵を見ては考えて、見ては考えてを数回繰り返す。覚悟を決めて鍵を差し込む事を決めた。
鍵穴に鍵を合わせ差し込むと一気に回す。
その瞬間、鍵の光が大きくなって辺りを包んだ。無性に怖くなって目を閉じてしまった。
『四季……これで会えるね』何処からか、那由多の声がして、あわてて合ってあたりを見渡すけど、光に包まれていて何も見えなかった。
暫くすると、急に全身に当たる風が強く感じられて、急に色々な音を感じられた。ザワザワする人々の声、車の音、近づいて来る足音。
ゆっくり、恐る恐る目を開けると、そこには、懐かしいサービスエリアの喧騒と沢山の止められている車、走ってくる両親がいた。
帰ってこれたんだ。ありがとう那由多。
「四季!!」母が泣きながら僕を抱きしめ、父は、ボロボロの服の僕を見て、困惑しながらも安心していた。
「四季、何処に……何でそんな格好に?どうしたんだ?その頭は?」ママが鏡を見せてくれた。いつの間にか、僕の頭はオレンジ色になっていたんだ……。夢の中の那由多を思い出して少し嬉しくなる。僕らの命は一つになったんだ……。
「髪の事なんてどうでも良い!!本当に心配したんだぞ!?急に居なくなるからパパもママも何時間も探して……」
僕を探していたのだろうか?両親は、かなり慌てていて、母は半泣きだった。父は、最初は少し怒った様だったけど、僕の服のボロボロさや擦り傷に次第に焦り始め、病院に行くぞ!!と涙ぐむ母を伴って車で病院に向かった。
僕が病院で精密検査を受け背中の巨大な爪痕以外に大きな外傷が無かった事を検査している間、世界中に異変が起こっていた…らしい?
何故、らしい?疑問系なのかと言えば、僕自身は、精密検査の数時間後に謎の高熱を出し入院した。
それからオレンジ色の髪の毛のについては解らない事が多かったけど、不思議な事に、いくら染めてみても1日たつと元のオレンジ色に戻ってしまうのだ。まぁ、ダンジョン騒ぎのお陰で髪の毛位では、とやかく言われ無い世の中になっていたのは幸いだったけど。
その後のメンタルケアを含めれば一月程入院していて詳しい情報を見ていなかった為だった。
だから、詳しくは見ていない、この世界にダンジョンが生まれていく有り様を…。
モンスターが氾濫し、戦う力が無い者達を蹂躙していく様を……。モンスターの氾濫は、数週間続き、何千何万もの罪の無い人々が犠牲になった。
僕は、両親から、異世界に行った事を決して誰にも話さない様にと言われている。
多分、僕を守る為に……もしダンジョンの発生が僕のせいなのだとしたら、ダンジョン被害の怒りのヘイトが僕に全て来てしまうのでは無いかと危惧して。
そして、今の僕はいつも自分自身に問いかけていた。
このダンジョンが産み出されたのは自分のせいでは無いのか?自分に何が出きるのか?この世界に戻っても消える事の無い、鍵と短剣は僕に何をさせようとしているのか?
今でも見る悪夢の中で、僕はただ、己を鍛え上げていた。
いつか来るかもしれないブラックイーターとの戦いの為に、逃げるしか無かったあの時の悔しさを忘れない様に。
あの日から、今まで鍵は光る事は一度も無かった。
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例えこの眼に写るものが幻想だとしても、僕は君を守りたい。 まちゅ~@英雄属性 @machu009
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