第17話 副会長のお説教
翌日、俺は生徒会室に呼び出されていた。
この部屋に来るのは生徒会副会長相手に鎌をかけ、思いっきり空振りして自滅し、大恥をかいた三日前以来だ。
今日も俺の前には副会長──切石先輩がいる。ただし、隣にいるのはあの時と違って陽夏さんではなく、天之川さんだ。
「私がなぜ二人を呼んだのか、わかりますか?」
切石先輩は険しい顔つきでそう切り出す。
これはアレだな。私がなんで怒っているのか当ててみなさいゲームだな。
どうしよう、さっぱりわからん。間違えたら説教が長引くだろうし、何も答えなくても説教が長引くだろう。
つまり、説教延長コースは確定的というわけだ。ただひとつ解決策があるとすれば先輩が怒っている理由を見事推理して、的中させることだけだな。
「ちょ、天之川さん」
隣に立つ天之川さんにひそひそと耳打ちする。一回きりの回答権を使う前に、作戦会議でもして的中率を上げておこう。
「何?」
「俺たち、なんで怒られてるの? 何かやった?」
「さぁ? 私には心当たりないけど?」
この人にはむしろ、いくつか心当たりがあるべきだと思うけどな。
昨日、帰ってからネットニュースを見たのだが、天之川千世関連のニュースは凄まじいことになっていた。
婚約者がいるとか、引退宣言とか、そういう根も葉もないとは言い難いちゃんと根拠のあるゴシップが飛び交い、大炎上騒動に発展。
どうやら事務所もご立腹のようで、しばらく活動休止させて反省させるという旨の発表をしていた。
そりゃそうだ。あんなに影響力があるのに、こんな気まぐれな行動を起こされてはたまらない。
彼女はさながら、ネット上を縦横無尽に駆け回るトルネードだ。前触れもなく突然発生したと思ったら、全てを破壊してあっという間に去っていく。
その破壊力は人を惹きつけて離さないが、近づき過ぎれば悲惨な目に遭う。遠くで眺めているぐらいが一番楽しい。
「何をコソコソ相談をしているのです。今は私が話をしているのよ?」
いよいよ、先輩の怒りがピークに達している。三日前、俺のナンパ紛いの発言を一蹴した時ですら、ここまで厳しい顔つきではなかった。
もうアレだ。ブチ切れってやつだ。頭から火が出たり、髪の毛が逆立ったり、角が生えたりしそうな勢いだ。
「あぁ~やっぱり、アレかな? 私が可愛すぎるから、カナ?」
この空気が読めないトップアイドル様は、今にも爆発しそうな爆弾にガソリンをぶちまけやがった。
あぁ、もう駄目だ。これは終わった。せめてもの抵抗として耳を塞いでおこう。少しはマシになるだろ。
「────あなたが適当な発言をしたせいで学校が大パニックになって、昨日の授業が全くできなかったのよ⁉ わかってるの⁉ 今もマスコミの方々が正門の前で待ち構えていらっしゃるし、生徒も学校生活に集中できていないわ!」
切石先輩の怒号が、生徒会室に充満する。
凄まじい破壊力だ。ちょっと窓がガタガタいったぞ。汚い言葉を使ったわけでもないのにこの威力というのが恐ろしい。
「それは仕方ないでしょ。私が来ちゃったんだから」
「あなたには自分の影響力の強さを自覚してほしいわね。この学校で学びたいというのなら歓迎するけど、軽薄な行動を取られると迷惑なのよ」
「はーい。気をつけます」
気をつける気ないだろこいつ……もう退学にした方がいいんじゃないか?
「えと、それで、じゃあ俺はなんで呼ばれたんです?」
「天之川さんは、あなたの婚約者なのでしょう? ならばあなたがちゃんと責任を持って彼女を制御してくれないと────」
「あ、それ、やっぱナシで」
「へ?」
天之川さんの軽薄な一言に、切石先輩は目を丸くする。
「え、えーっと。どうやら、勘違いみたいだったんですよ。それ。だから俺は天之川さんの婚約者じゃないです。知り合いの知り合い……かもしれない? ぐらいの関係でして」
「…………はぁ……あなたたちは一体……」
頭を抱え、長いため息を吐く切石先輩。
その気持ちはよくわかる。意味不明な状況に振り回され続けるのは大変だ。大いに共感できるぞ。
「とにかく、学校に大きな混乱を招いたことは事実です。……二人には、罰として一週間空き教室の清掃をしてもらいます。いいですね?」
「はい……」
「はーい」
完全にとばっちりだが、一週間の掃除で済むなら安いものだ。ここは黙って指示に従っておくことにしよう。
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