炙り昂り2度目の人生はダンマスです

@tikaki

0話 炙りネズミとダンボール

まだ明るい空、日が刺すような真夏のその日。

俺の人生は、ふいに全く違う何かに繋がった。

夢を見たんだ、虚ろな視界が捉える薄ぼんやりとした空は明るくて、きっとどこまでも雲のない快晴だったはずだ。

快晴の下、黙々と木の枝を振る。

木の枝と言っても長さが背丈ほどあり、太さが左手の幅程度はあるもの。

太いには太いけど、でも持ちにくいなんて事は無い。

それはそうだろう、何千年この枝を降っていると思ってるんだ。

この枝は既に指の延長線にある感覚器だから。

指を曲げるのにいちいち何かを思考することがない様に、ただ自然と、思考の先を枝が駆ける。

まるでそうある事が当たり前であるかのように。

否、当たり前なのだ。

そう確信する俺がいる。

薄く、細く、そして鋭く、更に早く。

魂をそれに寄せる。

そうしていると落ち着くのだ、それだけが分かる。

三度、空を見る。

快晴、そんな言葉すら馬鹿らしくなるような、果てなく広がる青い世界。

美しいとは思わなかった、ただ安心する。

そうあり続ける世界こそが、まさに癒しであるのだと、そう確信している。

そんな、晴れ晴れとした空を見た時、なぜかこれは夢だってすぐに分かったんだ。


「、、い、」


どこからか声が聞こえる。

懐かしい声、つい昨日聞いたような気もするけど、遥か遠い昔に聞いたきりだったような気もする。

なんだか不思議な気分だ、自分が自分じゃないみたいで、見ているはず、聞いてるはずなのに、どこかはっきりしない。

そんな気分を誤魔化すように、またはそんな気分すらもその冴える切っ先に載せるがごとく、枝を振るのだ。


「あ、い、、」


この声は、なんと言っていたんだったか、、

ダメだな、思い出せない。

別に大したことじゃなかったような気もするし、すごく下らなくて、すごく愛おしい日常の1幕であった何かな気もする。

ああ、なんだったか、、

考え悩むこの瞬間にも、俺は無意識の領域で枝を振る。

ただただ、振る。

振って、振って、振って振る。

ああ、幸せだ、、


「あおい、!!!」


大きな声、怒鳴り声と言うよりは呼びかけるような、そんな声。

覚えのあるその声に、初めて自分では無い剣を振る俺ではなく、薄く覚醒する俺が反応したのを感じる。

その声に飛び跳ねて起きるんだ。

いつもそうだったように、過去を思い出すように、過去を懐かしむように、そうするのだ。

そう、かつていつもだった時のように、、



ーーーーー




そこで、俺は夢から覚める。

目の前にはおっとりした顔、目尻か垂れボケっとした、そんな顔、

幸の薄そうな、でも意志は強そうな、そんな顔だ。

でもイケメン、どこか儚げで、守りたくなるような、そんなイケメン。

身長は高い、肩幅も広く、よく筋肉の着いた悪くない体をしている。

口元は笑っているのか、いや苦笑だな。

引き攣ってる、理由は分かる。


「おはよ」

「おう!やっと起きたか!ったく、人の不幸話を魚に寝るんじゃねぇ!!!悪い癖だぞ!」


お説教を賜ってしまった。

とはいえこいつも別に怒っちゃいない。

怒る余裕も無いだろう。

分かりきったことだ。


「なぁ、なぁよぉ、葵(あおい)よォ、、聞いてくれるかよォ、」


弱々しい声だ、弱り切ってるんだな。

心底俺じゃなくて良かったと思う。


「おう、聞いてる聞いてる。で、どうした???」

「、、聞いてないのはいつもの事か、もう怒るのも疲れたぞ俺は」


本当に疲れたとゆう顔で、やつはそう言った。

哀れすぎて可笑しくなってくるのを我慢して、無理矢理に静かな、真面目な顔をつくる。


「俺ァよォ、そろそろ怖くでガクブルだぜぇ、なぁどうにかしてくれよォ」

「いや主語をつけろよ?まぁだいたい分かるけど」


葵と呼ばれた男は会社のデスクに座ってボケーっと作った企画書の誤字を探しながら生返事を返していた。

ことの起こりは2ヶ月前。

対面でゲッソリした顔で項垂れる男、田辺(たなべ) 朱里(あかり)の家の玄関先に炙ったネズミがピクピク痙攣しながら置かれていたことから始まった。

それから毎日のように玄関先に炙りネズミは置かれていて、流石に怖いって事で警察に通報したのが発生から1週間が経った頃だった。

あまりにも悪質だってことで警察もまあまあ本格的に動いてるらしい。

それでも特に状況が改善される感じはないからこうしてグチグチ言ってきてるってのが現状だ。


「そんなに嫌ならいっそ引っ越せばどうよ?」

「アホかお前!このアンポンタンはホント、、俺にそんなに金があると思うか???」

「まぁ、十中八九無いだろうな?」

「分かってんじゃねぇの、俺ぁ逃げも隠れもできないわけですよ葵さん」


ゲンナリ、とゆう風貌でそうこぼす朱里に葵は(こんだけ不可解なことが起こってると何か変わり映えがして楽しいかもな)とかどーでもいいと言うのか他人事と言うのか、そんなことを考えていた。

そんな時、『ヴゥーーーーーーー!!』

頭上から変な音が響きわたり、同時に『火事です!火事です!従業員の皆さんは別棟第三会議室に避難してください」とゆう声も流れた。

それを聞いて急に目んたまかっぴらいて覚醒した葵は


「これは、タイムリーってやつか!?」

「いや違うだろ、はぁ、こんなことでもう驚かなくなっちまった、はぁぁ、」

「いいから逃げんぞ〜! ひゃー!いい感じに盛り上がってきたなぁー!」

「そんな盛り上がれるテンションじゃないぞ俺は、」


どこか楽しそうに半ば投げ出されるような体制で椅子から飛びのきドアをバンッ!と空けた葵の眼前に、猫耳美女が飛び込んだ。


「おー、バインバインの猫耳美女だ、初めて見た」


と、そんか言葉をこぼした葵はだいぶ混乱してるのかセクハラじみた発言をこぼす。

猫耳をピコピコ動かしてびっくりした顔を作った猫耳美女はすぐに平静に戻ると2本のしっぽをブンブン振り回して楽しそうに笑った。

2本の火のついたしっぽをブンブンする猫耳美女とゆう現実離れした光景を見て固まっている朱里を見つけると、急に葵をはね飛ばして朱里の方に走った。

一瞬で距離を詰めた猫耳は朱里の肩をガシッと掴むと嬉しそうな声を出す。


「はわぁ!かわいぃー!!!遠くから見てても可愛かったけど、やっぱり近くで見ると段ちで可愛いなぁー!!!ねぇねぇ!朱里くん!わたしね?わたしね?君のことずっと知ってたんだよ!?ほら、お家にプレゼント置いといたでしょ?次行く時にはなかったってことは受け入れてくれたってことだよね!!!嬉しぃなぁ!!!それにこの美味しそうな匂い、!可愛くて声はダンディーなのにめちゃくちゃいい匂いするとか反則だよね!!!もぉすっき!!!」

「あ、え、なん、はぁ?え、ん、は、え、、?」


状況を飲み込めていない朱里。

突き飛ばされて現実に引っ張り戻された葵の中で猫耳美女の発言が異様に印象的に残った。

中でも葵が気になったのは、「ずっと知ってた」とゆう部分。

まぁその他色々ツッコミどころらしきツッコミどころは無限にあるのだが、

(しっぽに火のついた猫耳は朱里を前から知っていたってなんだ、?猫耳がぴくぴく動いてるってことはアレは本物ってことでいいのか、??? 朱里の玄関先に炙ったネズミを置いてたのが、あいつってことだよな???仮にだがあの女だとしたらなんで今更こんなとこに???家知ってんのになんで、、、)

葵はそこまで考えると感覚的に飛び出していた。

あの炙りネズミが仮に猫耳なりのプレゼントないし餌を与える?みたいな行為だとしたら、辻褄が合うのだ。

美味しそうな匂いって発言の。

ずっと前から知っていて、なぜすぐに会ったり食べたりせず今現れたのか。

この時の葵は知る由もないがこの猫耳、化け猫と呼ばれるこの生物の習性として求愛をするのはメスだけである、とゆう特徴がある。

この求愛の仕方が主食であるネズミを炙ってプレゼントし、その代わりに相手の耳を噛んで傷をつけ独占欲をアピールする、とゆうものがある。

この時、耳を噛まれることを拒絶されるとカップリングはナシになるのである。

まぁしかし、そんなこと梅雨ほども知らない葵の目の前で起こる事実は、間違いなく捕食に見えたことだろう。


「イッツぅ、噛まれ、え、??」


呆気に取られた顔の朱里の耳に途切れてるとこを線で結んだら綺麗な三角形になりそうな傷が出来ていた。

葵は焦った顔で手近なパソコンは掴むと畳んでから両手で振りかぶり、、、


「離れろぉ!!!」

「に゛ゃ゛っ!!?」


軽い助走で幅跳びのように飛び勢いのまま化け猫の後頭部をパソコンの角でぶん殴った。

痛くて、とゆうよりはビックリして変な声を出した化け猫はイライラした顔で振り返る、と、、、


「なぁにするンにゃぁ!!!このおたんこなすぅ!!!」


そう叫んで着地準備に入っていた葵の腹を後ろ蹴で吹き飛ばした。

猫の脚力を人間台にしたその蹴りは葵の内蔵をグチャグチャにしながら数メートルも吹き飛ばす。

空いていた扉から廊下に飛び出し壁に当たってバウンドした葵は虚ろな視界で扉の先の光景を見ていた。


「あかりは、無事か、?分かんねぇ、ゴホッゴホッ、何これやべぇかも、、待ってくれよ、ちくしょ、っ、!」


目を白黒させて驚いてる朱里と化け猫、その化け猫のしっぽが絨毯に触れて燃え上がった。

その景色を最後に、葵の意識は途切れたのだった。

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