転移装置、縦型とドラム式のどちらを選ぶ?

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第1話

 縦型とドラム式のうち、どちらを選ぶのが正しいのか?

 魔性の魔法少女ウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムは、その問題で半日程度は悩んでいた。

 洗濯機の選択に苦慮しているのではない。

 自分を溺愛してくれる素敵な相手を、自分のいる世界へ召喚するための特殊な転移装置の機種選定が問題なのだ。

 ウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムは言った。

「最後のプレゼンをもう一度お願いするわ。どちらが先でも構わなくってよ」

 縦型転移装置の売り込みを図る金星人男性ディッチェゲハデダバは、商売敵に目線で挨拶してからプレゼンを始めた。

「我が社の製品は皆様に愛され長く使用されている縦型を転移装置の中心ユニットに採用しております。その安定性は歴史が証明していると申し上げてよろしいかと存じ上げます。プレルフリル皇国の女性教皇アンティパレパス猊下は、この商品の先々代に当たる機種で、物凄いイケメンをゲットなさいました。彼女の愛されすぎる甘々なお話などは、もう既に聞き及んでおられることでしょう。さそり座の女惑星ピーチコミュスムゥジィの女性統領アルマ・ワルキューレ氏は、装置の浮遊ゴミ回収ネットに引っ掛かっていたダンディー系コメディアンをキュンとくびれた尾の毒針で何度も何度もブスブス突き刺して恋の中毒患者に仕立て上げ、コミカルだけれどドキドキするような関係を構築したというお話も、お分かりのことと存じ上げます。また、この同一機種が最近になって確保した恋のお相手の噂話もプレゼンに当たって欠くことができません。俺様系イケメンや弟系あざと男子などなど魅力的なヒーローたちの存在も、我が社の縦型転移装置があったればこそでございます。最後になりますが、どうか、我が社の縦型転移装置を、お買い上げいただくようお願いを申し上げます」

 三つもある頭を深々と下げた金星人男性ディッチェゲハデダバの隣に座る真っ赤なドレスの火星人女性プリンセス・カーターリーナは微笑んで立ち上がり、柳腰を震わせて自身が持参した最新鋭のドラム式転移装置に向かってシャナリシャナリと歩き、優美な仕草で装置の白い表面を撫でた。淡い栗色の髪を輝かせ、彼女は言った。

「当社は、もう多くは語りません。ただ、これだけは申し上げることをお許しいただきたいのです。このドラム式転移装置は、内部に捕らえた獲物を絶対に逃しません。決して逃げられないのです。持ち主が扉を開けないことには、永遠の虜囚となります。その驚異的な性能を実際にご覧になりたいと思われるのでしたら、是非お買い求め下さいませ」

 ウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムは最終プレゼンを聞き終えても決断を下すことができなかった。魔性の魔法少女として恐れられる彼女だったが、恋愛に関する限り、小学校高学年から中学生のレベルである。「児童向け恋愛小説(溺愛)」の対象読者に当てはまると言っても、あながち外れではない。いや、もしかしたら恋愛に初心な点においては、小学校高学年から中学生の女子と同等あるいは、それ以下かもしれなかった。

 迷いに迷った末に魔性の魔法少女は、その日のお買い上げを断念した。

「ごめんなさい。どうしても今日、決めることができませんでした。もう少しだけ、考える時間を与えて下さいな。こんな夜更けまでお待たせして、本当にすみませんでした」

 いや駄目だ絶対に本日中に決めろ! と言い出す業者はいない(そんな無礼な発言をライバルが言わないかな~と期待はしている)。魔性の魔法少女は大金持ちで気が強く凄まじい魔力を有している。そんな実力者に変なことを言って敵に回すのは有能な商売人のすることではなかった。会釈して持って来た商品を持ち帰る。

 転移装置のプレゼンテーションが行われた中会議室を出て、ぶよぶよとして歩きにくいが気持ちを落ち着かせる魔法のスライム床を敷き詰めた廊下を通り、自室へ戻ったウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムは、部屋の中でボール遊びをしていた彼女の守護天使サルビチ・ササビッチィの細長い首をむんずとつかみ壁に向かって投げた。

 サルビチ・ササビッチィは石の壁にぶつかる寸前に、半透明の翼を力強く羽ばたかせて空中に制止した。振り向く。顔の真ん中にある複眼をギラギラと点滅させて文句を言う。

「ちょいちょい、あーた、あーたね。これね、二回目。いや待って、二回目どころじゃないわあ。三回目、いやいや、もっとだわ。四回、五回、それとも六回目? こんなんじゃね、いつか怪我するよ。絶対に怪我するってば。不死身の守護天使だからってね、痛いものは痛いのよ。分かる? お分かりになって下さいませってえのよ。だ・だ・だ・だってさ、だってよぉ、石の壁に生きているものを放り投げるってさ。異常よ。あーたね、それは異常者のすることよ。守護天使だからさあ。嫌われても構わないでしょって覚悟を決めてさあ、こうして言いたくもない説教をしているわけのなのよ。本当に、分かってよ。ふぅ、疲れた。マジで疲れたわん」

 羽ばたくのを止め粘々する液体を滴らせる足で石の壁にべっとり停まった守護天使サルビチ・ササビッチィに向けて、空中にある魔法のエア・ポケットから取り出した核重力磁気素粒子照射用ステッキの照準を合わせながら、魔性の魔法少女は美しい顔に憤怒の表情を浮かべた。

「伝説の悪魔を封じ込めた禁断のボールで遊ぶなって、何度言ったら分かるの。このボールの中の悪魔が飛び出して来たら、この世界の半分は三十秒以内に崩壊するわ。そうなったら、あーた、あーた、あーたねえ。責任が取れるの? 取れるのかって聞いてんだから答えなさいよっ!」

 ウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムが自分に向けたステッキの先端から神経を削り取るかのような不快な不協和音の響きを聞き取った守護天使サルビチ・ササビッチィは、怯えて全身をプルプル震わせた。その大きな複眼から涙が流れ落ちる。核重力磁気素粒子を照射されると、物凄く痛いのだった。

 この不死身の生命体は口先だけで気が小さいのだった……と思い出した魔性の魔法少女はステッキを見えないエア・ポケットの中に戻した。続いて伝説の悪魔を封じ込めた禁断のボールを、より厳重に防護処置が施された防犯用のエア・ポケット内部に仕舞う。それから彼女は自分の守護天使――実際のところ、自分を何から守護してくれているのか分からないのだが――に、早く寝なさいと言った。

「お休みなさい」

 そう言うと守護天使サルビチ・ササビッチィは部屋の天井の角にある時空の歪みを通って自らの本来の生息空間である第八次元の黒い霧の中へ戻った。肩の凝りを感じたウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムは首筋を指先で揉みながら反対の手で髪を留めるピンを外した。寝巻に着替える。軽い美容体操を済ませて寝床に入る。この館の歴代の主人によって太古から受け継がれてきた高性能タブレット端末をテーブルに置き忘れていたことを思い出し、ベッドを出て菓子の空袋が放置された小さなテーブルからタブレットを回収して、また寝床に入る。昼間のうちに双子の太陽アルファ・ルインツイン・ケンタウリの柔らかな光をたっぷり浴びていた太陽電池のバッテリーは満タンだ。ウシシ、これはこれは最高の状態でございまするなあ~と変な独り言を呟いてタブレットの電源を入れる。

 好きな番組の生配信があったので、魔性の魔法少女は朝から楽しみしていた。美人で大金持ちで魔法が使えるくせに、そんなのが楽しみという事実は、世の中に存在する娯楽が、どんなにつまらないものでも誰かのストレス解消になっている可能性があるという実にどうでもいい実例である。

 さて、そんなことは本当にどうでもいい。

 ウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムが見たい生放送――番組そのものは、あまり面白くないというのが、ネットの一般的な意見である――それが本稿の本題なのである。

 その生番組は、いわゆるリアリティー系のバラエティーであり、悪趣味ということで良識ある視聴者からの評判は芳しくない。喜んで見ているのは根っからの性悪子猫や品性下劣な社会不適合者つまり、ここに登場している魔性の魔法少女みたいな輩だった。

 番組の内容を具体的に記すと、以下のようになる。


求めているのは、

「長編児童向けノベルの種」になる短編小説!

今回のコンテストでカドカワ読書タイムが募集するのは、長編児童向けノベルの「核」となるようなキャラクター・設定を持った、短編小説です。

カドカワ読書タイム編集部は、小学校高学年から中学生の読者が夢中になれる、長編ノベルを送り出したい、と考えています。この児童向け長編作品の「種」、「核」が込められた、5000字から12000字の短編小説をお待ちしています。

募集する部門は、「児童向け恋愛小説(溺愛)」と、「児童向けファンタジー小説(異世界転移)」の二つ。

「児童向け恋愛小説(溺愛)」の対象読者は、小学校高学年から中学生の女子です。作品の主人公は、10~15歳の女子としてください。愛されすぎる甘々なお話や、コミカルだけれどドキドキするようなお話を待っています。俺様系イケメンや弟系あざと男子などなど魅力的なヒーローたちの存在も欠かせません。

「児童向けファンタジー小説(異世界転移)」の対象読者は、小学校高学年から中学生の女子・男子です。主人公の年齢は10~15歳、性別は問いません。ある日突然主人公が異世界に連れていかれてしまったり、迷い込んでしまったり、そこから始まるわくわくするファンタジー小説を待っています。

コンテスト受賞作にはカドカワ読書タイム編集部員が担当につき、加筆・改稿を行い長編ノベルを作ることを目指します。

わくわくするような物語の種を、待っています!


 これだけ読むと、とても面白そうに思える。

「児童向け恋愛小説(溺愛)」の方なら、その物語の中に登場しても悪くないだろう。だが「児童向けファンタジー小説(異世界転移)」の方が考えものだ。ある日突然主人公が異世界に連れていかれてしまったり、迷い込んでしまったり、といった災難に巻き込まれるのである。そこから始まるわくわくするファンタジーと言われても迷惑な話で、元の世界へ戻してくれというのが偽らざる気持ちではないだろうか?

 謎めいたファンタジー小説的な雰囲気の異世界に突然転移して、困惑している。

 そんな10~15歳の少年少女が出演者のリアリティー系バラエティーを、ハラハラしながら見ているのが前述の魔性の魔法少女。そういう二重の枠構造が本作品にはある。二重構造の外側に相当する魔性の魔法少女の話は、ここまでに些少はであるけれども書いた。次は内部の構造、生放送の番組を書く。実を言うと、こっちの方が投稿する部門に相当するのだ。どんな感じになるのか、どのくらいの分量になるのか想定困難な状態で書き始め、現在の状態となってしまった。書くつもりのない「児童向け恋愛小説(溺愛)」の要素を冒頭に振り撒いておこう! と書道における文鎮あるいは一種の枕詞のような気持ちで書き出した溺愛関係の冒頭部分で執筆時間の大半を消費し、体力も浪費してしまった。ふふふ、困ったものである。

 さーてーと、こうなったら、どうしようか?

 行くしかあるまい。行くところまで! といった気持ちで生放送の番組に出演しているのが、本作品の主人公の一人でペンネームは肺魚の子孫十六号だ。今こうしてパソコンの前に座り、せっせと何事かを入力している。何がどうしてこうなったのか、自分でも皆目見当がつかない状態で。

 いや、待てよ。そうなると、肺魚の子孫十六号が執筆している小説の主人公も登場しなければならない。この人物こそが、物語を動かす実質的な主人公になる。その名はウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムとしたい。とても長いので文字数を稼げる上に、一行のほぼ全部を潰してくれるおかげで文章の推敲がやりやすくなるという利点もあるのだ。

 ふふふ、そんなことを書いている間に、文字数が下限の五千字を突破しそうだ。

 今、遂に突破した。話の内容はさておくとして、無駄な喋りで最低ラインを越えることができたのだ。

 あまり嬉しくはない。

 それでも肺魚の子孫十六号はキーボードを叩き、物語を動かそうとしている。

 ウィーヴィーケイツン・アッパッパバーフィイースルドジャポネム・ディルファムは、自分と同姓同名の人物が視聴中の番組に出て来そうな展開に驚いている。

 五千字を越えたので、私は本作品を投稿する。

 この児童向け長編作品の「種」または「核」が芽吹かないかな~と淡い期待を抱きながら。

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